勇者アレンとの合同任務

 勇者アレンとの共同任務を引き受けた俺、クレア、ギャリーはハミルトンたちと合流した。あちらの意気は軒昂で、特にハミルトンは魔王討伐に参加できると喜んでいる。冒険者である俺たちとは温度差があるなぁ。


 それでも引き受けたからにはやらないといけない。初夏の日差しが厳しい七月の半ば、俺たちは王都カルマニーを出発した。二週間かけてスーエストにたどり着くとデザイラル侯爵の屋敷へと向かう。ここでアレンたちと会うためだ。


 応接室へと案内されて待つことしばらく、アレンを先頭に勇者パーティの面々が入ってきた。俺は背丈がやや伸びたアレンを見て立ち上がる。


「アレン、顔つきが少し変わったな!」


「おっちゃん! おっちゃんの方は変わってないなぁ」


「誰がおっちゃんだ。ミルデスと呼べ」


「ミルデスのおっちゃん」


 荷馬車に揺られていたときと似た会話をした俺とアレンは笑い合った。その様子を見ていたハミルトンたちは目を見開き、ヒンチクリフ様たちは目を細めている。


 俺とアレンは互いの仲間を紹介した。アレンの仲間とは面識があるから俺は話しやすい。


「あんた、本当に勇者様と知り合いだったのね」


「だから言ってただろう」


「普通、あんなの与太話だと思って信じないわよ」


 ようやく俺の主張が正しかったことを証明できて胸を張って答えたらクレアに呆れられた。もっと悔しそうな顔を見られると思ったのに残念だ。


 久しぶりに会ったこともあって最初は雑談から入った。俺は自分たちがこのデザイラル地方で活動していたことや亜人の住む地域で活動していたことを教える。酒の肴みたいな話を始めたんだが、これから魔王城に乗り込むこともあって割と真剣な質問が飛んできた。ヒンチクリフ様もマガリッジ様も真面目だな。


 一方、アレンには四天王のブラレストやパウフルを倒したときのことを話してもらう。迫り来る暗殺の魔手や圧倒的な力の暴威などの話は迫力があった。これには、特にハミルトン、ローレンス、そして俺が食いつく。むちゃくちゃ面白かった。


 世間話が一段落すると、次いで今後の話が始まる。魔王城へ行く前に一旦赤い山地のハムデンに会いに行く予定だ。ここでアレンたちの装備を調整してもらうらしい。なんでも四天王と戦った経験から武具に修正を加えたいそうだ。その後は俺たちが先導する形で魔王城に向かい、中でダークエルフと落ち合う。ここで魔王の元へ向かうアレンと別れた後の俺たちは四天王カニンの足止めをする予定だ。うまくいけばその後アレンたちの撤退の援護ということになっている。


「そちらの話は理解した。私たちがあらかじめ聞いていた話と一致している。魔王城までの案内を改めてお願いする」


「魔王城に入ってからの行動は困難を極めるじゃろう。特にそなたらは四天王の一人と敵地で戦わねばならん。助けてやれんのは歯がゆいが、どうか食い止めておいてほしい」


「わたくしは祈ることしかできませんが、どうか皆様ご無事で。共に勝利しましょう」


 アレンの仲間から俺は温かい声をかけられた。これにはハミルトン、ローレンス、アルヴィンの三人が特に奮起する。


 そうして打ち合わせが終わると俺たちはまとまってスーエストを出発した。アニマにたどり着くと、ギャリーが案内人となってアレンたちは赤い山地を目指し、俺たちはアニマで待つ。ドワーフの居住地は広くないので人数を絞り込んだんだ。


 二週間ほど待って武具の装備を強化したアレンたちが戻って来ると、俺たちはいよいよ魔王城へと向かう。聖なる森を通り過ぎ、魔王城の秘密の脱出路まで一気に進んだ。


 尚、漆黒の森ではダークエルフとあまり会わないように気を遣った。何しろアレンたちはブラレストを討っているからな。出会っても良いことはない。


 そんなことを気にしながら陰鬱な森を通っていよいよ脱出路の出口へとたどり着く。


「おっちゃん、いよいよだね」


「そうだな。今はまだいいけど、魔王城の地下倉庫に入ったら本番だからな」


 力強い笑顔を向けてくるアレンに笑顔を向けた俺は岩場の根元にある洞穴へと入った。後は罠もない一本道を通り抜けるだけだ。


 荒削りの岩やむき出しの土が続く洞穴の突き当たりにたどり着くと、魔王城の一部である石壁が現れる。俺とギャリーは石の扉の左端にある手を引っかける場所に指を入れて思い切り右側へと引っぱった。石がこすれる重い音を立てながら石の扉が開く。


 開いた秘密の脱出路の入口をくぐって地下倉庫に入った俺は、少し離れた場所で頭上に光の玉を浮かべたダークエルフの姿を目にした。思わず身構えた俺とギャリーだったが、先方から俺に声をかけてくる。


「お前たちが勇者とその仲間か?」


「ああ。こっちの四人が勇者、残りはその手助けをする人間のパーティだ」


「魔王は今謁見の間にいる。そこまで案内はするが、本当に四人で倒すつもりか?」


「大丈夫だよ、オレがこの聖剣で魔王を打ち倒してやるさ!」


「パーティメンバーの魔法使いエセルバート・マガリッジじゃ。儂らが謁見の間に入ってすぐにこの水晶を使って結界を張る。儂らも外に出られんようになるが、これで外からも干渉できんようになる。外から邪魔はさせんよ」


「わかった。謁見の間の中にいる者たちはこちらでどうにもできない。お前たち四人で倒してくれ」


「承知した」


 ダークエルフの忠告に近衛騎士のヒンチクリフ様が頷いた。


 アレンたちを見ていたダークエルフの協力者は次いで俺たちに顔を向ける。


「四天王のカニンは現在、自分の研究室にいる。場所はわかるか?」


「教えてもらった地図は覚えてるよ。ここからそう遠くない地下にあるんだろ」


「わかってるならいい。あの研究室の周りには普段誰も近づかない。なので見つからずに行けるだろう。あそこは気味の悪い場所だからな」


「なんか色々と実験をやってるんだったよな。ちなみに、どんな感じなんだ?」


「行けばわかる」


 顔をしかめた協力者はそのまま黙った。余程話したくないらしい。これはかなりきつそうだな。行きたくねぇ。


 俺たちが顔をしかめていると、アレンが俺に近寄ってくる。


「おっちゃん、絶対にあいつらを討ち取ってやろうぜ!」


「当たり前だ。お前が魔王と戦ってる間に四天王を倒して、加勢しに行ってやるよ」


「うん! でも結界で中に入れないんだっけ」


「それじゃ、こっちはさっさと倒して待っててやるよ。俺が寝る前に帰ってくるんだぞ」


「ふふん、オレの方が先に倒してここで待ってるよ!」


 明るく受け答えするアレンに俺も余裕の態度で返した。お互い笑顔で相手を見る。こいつなら大丈夫だろうな。


 そこへ協力者が声をかけてくる。


「もういいか? 行くぞ。ついて来い」


「じゃあまた後で、おっちゃん!」


 背を向けた協力者に近衛騎士、魔法使い、聖女と続く中、アレンも最後に地下倉庫から出て行った。すると、室内は急に静かになる。


 誰とはなしに俺たちは互いに顔を見やった。最初にハミルトンが俺に声をかける。


「四天王のカニンは簡単に倒せると思うか?」


「そんなわけないだろう。俺たちが簡単に倒せるんなら、とっくに俺たち以外の誰かが他の四天王を討ち取ってるよ」


「そりゃそうっすね」


「弱気になるよりはいいんじゃないかしら。やる前から怯えてたら話にならないもの」


「儂もそう思うぞ。今は強気なくらいがちょうどいい」


「しかし、過信しないように気を付けましょう」


 最後にアルヴィンが締めると全員が苦笑いした。


 アレンたちが去った後も俺たち六人は地下倉庫に残ったままだが、これには理由がある。俺たちの目的地であるカニンの研究室とアレンたちが向かう謁見の間では、圧倒的に俺たちの方が近い。なので、アレンたちが魔王と対決するであろう時間まで待って、騒ぎを起こさないようにしているんだ。魔王討伐優先である。


 もちろん、待つ身としては不安が増すばかりだ。動いている方が気が紛れる。


「ちょっと、ミルデス、落ち着きなさいよ」


「いやそう言われてもだな。こうじっと待ってるっていうのは落ち着かないんだよ」


「気持ちはわかるっす。オレも早く動きたいっすよ」


 たしなめてくるクレアに俺が反論するとギャリーが同意してくれた。やっぱりそうだよな。自分だけじゃないとわかって嬉しくなる。


「ミルデス貴様、肝心なときに浮つくなよ」


「それは大丈夫だって」


「そう落ち着きのないところを見せられると説得力がないのう」


「ローレンスまで」


「神にお祈りをしてはどうですか? 落ち着きますよ」


 そりゃアルヴィンだけだ、なんてことはさすがに言い返せなかった。曖昧に笑って誤魔化しておく。だんだんとみんなにいじられる役になってきたな。


 とにかく大丈夫だと繰り返して俺は平気であることを仲間に主張し続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る