冒険者ギルド長からの呼び出し

 去年の秋から始まった勇者支援の仕事は一段落着いた。結果を出せたり出せなかったり、はたまた予想外の成果を持ち帰ったりと色々あったが、依頼されたことはある程度こなせたと俺は思っている。


 だから、王都の冒険者ギルドに依頼完遂と連絡を入れた。通常の依頼ならこれで完了ということで報酬をもらうことになる。が、今回は後日連絡を入れるということになった。つまり、数日後からしばらくは毎日受付カウンターまで連絡があるか聞きに行かないといけないわけだ。むちゃくちゃめんどくさい。


 気分が落ち込むことばかり考えてもつまらないので、俺は数日間休めると考え方を改めた。久しぶりの王都なんだからやりたかったことをやってしまおう。ということで馴染みの酒場に繰り出す。ガッツリ丸焼きステーキを食うんだ!


 やりたいことをやれるというのは実に楽しい。昼間から酒を飲み、夜は夜の街で遊び、寝たら昼まで眠る。仕事中には絶対にできないことをやった。


 また、初めて王都にやって来たギャリーを連れ回しもする。こっちも大人なので俺の行ける場所に連れて行けるというのはやりやすい。大層気に入ってもらえたようで何よりだった。


 すっきりとしたところで俺は冒険者ギルドへ向かう。相変わらずの盛況さだ。その中をすり抜けて、すぐに受付カウンターの前に立って顔見知りの職員に声をかける。


「前の依頼の完了報告をしたときに後日連絡があるって言われたんだが、何かあるか?」


「ミルデスか。なんか生き返ったって感じがするな。ちょっと待ってろ」


 軽い調子で言われたことを流した俺は受付カウンターの上に肘を付いた。いい加減あくびが出てきた頃に知り合いの職員が戻ってくる。


「明後日の昼頃にここの応接室に来いだと。そういやお前、ギルド長の依頼を受けてたんだな。出世したじゃねぇか」


「その代わり、何度も死にかけたけどな」


「冒険者なんだから当然だろ」


「ひっでぇな。明後日の昼か。それじゃ、それまでのんびりとさせてもらうぜ」


「体をなまらせるんじゃないぞ」


 久しぶりの会話に小気味良さを感じつつ、俺は冒険者ギルドを出た。懐はまだ温かい。当日何を言われるのかわからないが、それまではのんびりと過ごすとしよう。




 呼び出しを受けた当日、俺は冒険者ギルドにやって来た。直接応接室へと入ると、クレア、ギャリー、そしてその向かいにギルド長のレイフが座っている。


「俺が一番最後か。もしかしてお待たせしました?」


「構わんよ。そこに座ってくれ」


「なんで真ん中が空いてるんだよ?」


「いいから早く座りなさいよ」


「そうっす」


 微妙にやりにくさを感じつつも俺は長ソファの真ん中に座った。ちょうどギルド長の真正面だ。意味もなく圧迫感を受ける。なるほど、だから二人とも俺に真ん中を勧めたのか。


 若干面白くなさそうな表情の俺を見るギルド長が左右の二人にも目を向けた。それから口を開く。


「去年の秋、ワシからミルデスとクレアに勇者殿の支援を頼んだ。ギャリーはスーエストで同じように依頼されただろう。ともかく、三人とも冒険者ギルドからこの仕事を頼まれ、引き受けたわけだ。そして先日、その成果を王宮に持ち帰った」


「俺たちが直接王宮に持っていったわけじゃないですけどね」


「そこは構わん。それで、この成果に対して国王陛下からお褒めの言葉をいただいた。ワシとしては予想以上の結果を出してくれたお前たちを誇りに思う」


「嬉しいですわ。その謝意を形のある物で示していただけると尚のこと」


「わかっている。それは後で支払おう。でだ、この功績を評価して、王宮からお前さんたちに次の重大な仕事を任せたいとこちらに相談を持ちかけられたのだ」


 一旦話を区切ったギルド長から目を離した俺はクレアとギャリーを見た。二人も俺へと目を向けてくる。けれど困ったことに、いくら見られても俺には何もできない。


 仕方なく再びギルド長を見ると話が再開される。


「本題に入る前に、現在の戦況を教えよう。今年の冬の終わりに魔王軍が再び王国へ侵攻してきたが、春に入る頃に四天王の一人であるダークエルフのブラレストが勇者殿によって討ち取られた」


「オビシット解放の軍に参加したときにその話を聞きましたよ」


「従軍していたのか。結構なことだ。しかし、ブラレストが討ち取られただけでは魔王軍は止まらなかった。本当にその進軍が止まったのは、先月四天王の二人目であるパウフルが勇者殿に討たれたときだ」


「酒場で仲間から聞いたっす。あれは嬉しかったっすよね」


「ワシもだ。そして、魔王軍は混乱し始め、現在は退却している。魔族から内々に離反したダークエルフからの報告によると、四天王のハイリティという魔族が指揮をして軍を立て直しつつあるらしい。その魔王軍を現在王国軍が追撃している」


 離反の報を知らせたダークエルフが早速役に立っていることに俺は目を見開いた。自分が関わったことなので内心で喜ぶ。


「戦争はこんな感じで推移しておる。ワシらが直接関わるわけではないことなので、これで充分だろう」


「本題はここからですわね」


「以上を踏まえて言うが、重大な仕事というのは勇者殿との共同任務だ」


「アレンとですか?」


 俺は首を傾げた。完全に裏方の仕事だと思っていた自分たちが急に表に引っ張り出されたような感じがして困惑する。クレアとギャリーも似たようなもので怪訝な表情を浮かべていた。


 そんな俺たち三人に構うことなくギルド長が話を続ける。


「その通りだ。戦況は王国軍優勢に逆転したが、それでも魔族の住む地、魔界に攻め入るほどではない。そして、魔王がいる限り魔族は我らの地を常に狙い続ける。よって、勇者殿に直接魔王を討ってもらうことになった。その水先案内人兼補助戦力にお前さんらが選ばれたのだ」


「直接魔王を討つってことは、あの魔王城の秘密の脱出路を使うわけですか」


「そうだ。お前さんたちは勇者殿たちを魔王城の中に送り込んだ後、四天王の一人、魔族賢者のカニンを足止めして勇者殿たちが魔王を討つ時間稼ぎをするのだ」


「四天王の一人なんてオレたちで相手にできるんすか?」


「ダークエルフの話によると、カニンは研究の成果で魔王に貢献しているらしい。そのため、戦いには慣れていないと聞いている」


「その研究成果っていうのが怪しいわね」


「ろくでもないのは確かだが、勇者殿の魔王討伐を邪魔されないようにすればいいだけだ。最悪倒せなくてもいい」


「だから補助戦力なんですか」


「そういうことだ。多数の兵を送り込んで魔王城内を制圧することも検討されたようだが、王国軍の本隊が魔界にまで攻める余力がないのと、ダークエルフが漆黒の森に人間の軍隊を入れたくないということでこの案は却下された」


「聖なる森のエルフも間違いなく嫌がるでしょうね」


「だろうな。ということで、魔王城へは勇者殿たちと秘密の脱出路を直接見たお前さんたちだけで潜入してもらいたいのだ」


 話を聞いた俺の最初の感想は本当にやれるのかというものだった。四天王の二人を倒したアレンなら魔王を倒せる可能性はあるのかもしれないが、そこにたどり着くまでが問題だ。特に魔王城の中は地図上でしか知らない。


 そこまで考えて俺はかつてハミルトンに提案したことを思い出す。


「そうだ。魔王城内をダークエルフに手引きしてもらわないんですか? 俺たちが四天王の一人を抑える以上に、城内の他の魔族に出くわさずに魔王までたどり着ける方がずっと重要だと思うんですけど」


「その協力は取り付けてあるそうだ。当日城内で案内人と合流することになっている」


「ハイリティっていう四天王はどうするんすか? むちゃくちゃ優秀な魔族の将軍だって聞いたことがあるっす」


「その将軍が前線に出ているときを狙う予定だ。しかし、万が一出くわしてしまった場合は勇者殿たちに何とかしてもらわねばならん」


「そうっすよねぇ」


「尚、首尾良く勇者殿が魔王を討てたならば、お前さんらはその撤退の支援をすることになる。最悪勇者殿と聖剣だけでも脱出させること。これはどんな犠牲を払ってでも達成しなければならない」


 四天王の足止めよりもアレンの盾としての役割を求められてるのかもしれない。それならもう一組のパーティを用意すればいいと思うんだが、ダメだったんだろう。


 最後に会った勇者になる前のアレンを俺は思い出した。あの頃は無邪気に一旗上げると息巻いてたが、今はどうしているんだろうか。


 ちなみに、とギルド長は切り出し、ハミルトンたちは引き受ける意向を示したと伝えてきた。そうだろうなと俺は納得する。


 最終的には俺たち三人もこの仕事を引き受けることを承知した。正直気は進まなかったが、あいつのためになるんならいいか。

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