第38話

「お姉さま、どういうことなんですか?」


 いろいろ聞きたいことが増えたが、今はこちらを優先だ。


「えーと、ラ・シィルフィー号は、攻撃力防御力ともに均衡した船で、エルラーザは、攻撃力重視の船なの。もう一度見せるわよ」


 いって烈光剣を出す前から空中戦を再現させ、烈光剣が刺さる寸前で幻を停止させる。


「ラ・シィルフィー号級の魔力壁を展開していたら烈光剣が船体に刺さる前に魔力干渉現象が起こるのに大した反応を見せてはいないわ。たぶん、エルラーザの防御力はラ・シィルフィー号の半分以下。三分の一ってところかしらね?」


 また空中戦を再現して見せた。


「そうか間合いかっ!」


「だから剣士と槍士なんですね!」


 パルアもルミアンも武器での戦いを心得ているからシルビートさんの例え話を理解した。が、他は全然わかってないようね。


「まあ、深く考えない。剣には剣の長所があり、槍には槍の短所がある。つまり、ラ・シィルフィー号にはラ・シィルフィー号の戦い方があるってことよ」


 空になった杯に宝石酒を注ぎ、また一気に飲み干した。


「まあ、詳しいことは訓練で説明するわ。まず、担当と配置を決めるとしましょうか」


「わたしも入るの?」


 酒好きが呟く。


「もちろん」


「……気のせいかしら? 船長からなにか邪悪な意思を感じるのだけれど……」


「気のせいです」


 まあ、万が一のときの肉弾にはなって突っ込んでもらいますけどね。そうなったときまでナイショです。


「まず船橋から。ルミアンは今まで通り操縦、つまり体を担当しなさい。セーラは支援席で盾となり槍を防ぎなさい。ネルレイヤーは眼となり槍を見極めなさい」


 三人が緊張の眼差しで頷いた。


「続いて支援船橋。副操縦にセルレイン。機関席はシズミルに任せるわ」


「──アタシ、操縦なんて自信ないですっ!」


 目に涙を溜めて訴えるセルレイン。


「副操縦ならパルアで良いんじゃないの?」


「そうシズミルがいっているけど、そうする?」


 脅えるように縮こまる黒い瞳を見詰めた。


 あたしから逃れるように視線をルミアンに向けるがルミアンはなにもいわない。続いてセーラにも向けるがセーラもなにもいわない。いうべき言葉を出すまでセルレインを見詰めていた。


 セルレインのさ迷う視線が卓へと向けられるが、誰もなにもいわない。ただ、待った。


「……アタシ、皆のように戦えない。役にも立たない。けど、皆といたい。もう一人はヤだ……」


 まだ視線は卓へと向けられたままだが、生きたいという意志があるのなら今はそれで充分。あたしといるのなら嫌でも強くなるのだからね。


「よろしい。しっかりあたしたちの側にいなさい。それがセルレインの仕事よ」


「──はいっ! お姉さまっ!」


 顔をあげたセルレインは目に涙を溜めてしっかりと頷いた。


 生きようとする意志こそ最高の武器であり最強の盾でもあるのよ。


「そして、最後。剣を担当してもらうのはパルアとシルビートさんね」


 立ち上がって抗議しようとするシズミル(言われた本人らは平然としてるわ)を制し、卓の上空にラ・シィルフィー号の骨格図とシズミルの傑作、魔艇機『シャトゥー一世』と『シャトゥー二世』の姿を出現させた。


「なんど見ても見事としかいいようがないわね」


 烈鋼砲四門。空雷弾十二発収容。脱着式の四発式噴進弾筒。超小型魔力炉搭載。十八もある制御用風進機。飛行形態から魔鋼機形態に変型合体(なにかしらこの血を燃やすような熱い響きは?)可能。なにより見事なのは『意志航法』を採用したことだ。


 究極の操作法とされる魔眼航法も魔力がなければ動かすことはできない。そこで魔力がない者にも動かせるようにと、とある技導師が生み出したのが『意志航法』──『意志変換伝達機』だ。


 とはいえ、まだまだ発展途上な技術であり、魔眼航法に大分劣るものなので一般的にはないのよね。


「飛行は操桿。白兵戦は意志操作。どこから出てくるのかしらね?」


 しかもそれを可能とするんだからたまったもんじゃないわ……。


〈それゆえに狂才なのでしょうね〉


「まったくだわ!」


「……お、お姉ちゃん、感心してないで話を進めてよぉ……」


 おっと。こりゃ失礼。


「とまあ、ラ・シィルフィー号にはラ・シィルフィー号の戦いがあるとはいったけど、このまま戦えばあたしたちはまず間違いなく負けるでしょう。ならどうする? 剣を魔剣にして戦いましょうか」


 シャトゥー一世とシャトゥー二世を合体。船首上下格納庫(ちなみに上が第一でフィルシー。下が第二でダルナスが収まっているわ))に収容させた。


「ドゥ・シャトゥーがッ!?」


「そっ。ドゥ・シャトゥーが第三の魔力炉にしてラ・シィルフィーの攻撃とするわ。どうかしら、機関士どの?」


 格納庫に収容されたドゥ・シャトゥーを睨みながら唸り出すシズミル。


 しばらく思考の海から帰ってこないだろうからパルアへと視線を移した。


「飛空船操縦だから勝手が違うでしょうが、なにか問題はあるかしら?」


「少々の誤差や空間把握はこれからだが、そう難しくはないはずだ。ようは感覚の問題。馴れるさ」


 なんとも頼もしいセリフじゃないの。どこかの酒好きに見習ってもらいたいもんだわ。まあ、嫌でも見習ってもらうけどネ。


「それで結果──は、まだのようね……」


 どこから出したのかくたびれた手帳を開いて格納庫の設計を始めていた。


 ……こうなると話しかけても耳に届いてないし、納得するまでほっときますか……。


「では、船橋組は銀騎の指示で訓練。魔艇機組はパルアに任せる。シルビートさんに鍛えてもらうなり鍛えるなりしてちょうだい。セルレインは蒼騎とお勉強。ということだから、今日はしっかり食べてしっかり寝なさい!」


「「「「──はいっ!」」」」


 天女たちの返事(頷きとため息が混ざってはいたけど)に、あたしは満足気に頷いた。


 その強い意志がある限り、どんな過酷な場面が訪れようとも必ず切り抜けられるのよ。

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