第37話

 海賊島から意識を戻すと、天女たちが心配そうにあたしを見詰めていた。


「お姉ちゃん……」


「セルレインや蒼騎は無事なんですか?」


「怪我とかしてないですか?」


 ふ~ん。いろいろ忙しくてわからなかったけど、天女たちにちゃんと絆ができてたのね。なにか大事な場面を逃した気分だわ……。


〈優秀な"副長"に尋ねたらいかがです〉


 銀騎の言葉にルミアンへと視線が動いた。


 まあ、それも良いかもね。この中で一番年上だし、あたしの教育を色濃く継いでる。なにより面倒見の良い子だしね。


「心身ともに無事よ。今、こちに向かっているわ」


 空賊に捕まった人や奪った財宝と一緒に、ね。


 良かったと喜ぶ天女たちを見回していたら、なにか足りないことに気がついた。なんだっけ?


〈シルビートさんならパルアを連れて買い出しに出ています〉


 ああ。天女と呼ぶには抵抗がある用心棒どのか。あまり役に立ってないから忘れてたわ。


「買い出しって、なにかあったかしら?」


〈命の水を買いにです〉


 そーいえば、倉庫にしていたドンガメを沈められたんだっけ。それも忘れてたわ。


「食料も頼んだんでしょうね?」


〈パルアに頼みました。シルビートさんでは不安でしたから〉


 まったく、これだから特化型人種は参るのよね。もう少し能力の分配ってもんを覚えて欲しいもんだわ。


「ネル。食事はできるかしら?」


「はい、大丈夫です。シズミルが数日分の食料を運んでくれましたから」


「じゃあ、ルミアンと一緒に用意してちょうだい。セーラはお風呂をお願い」


 指示を出すと、風のように船橋を出て行った。


 なんとも頼もしい姿に微笑み、続いて長いため息を吐いた。


 完全復活したとはいえ、思念波による戦いは結構堪える。ちょっと張り切り過ぎたわね……。


「──あ、そういえば、蒼騎の体ってどうなったの?」


〈敵の空雷弾で下半身を破壊されました。魔力炉にも被害が及んだのでエレーネだけ射出しました〉


 船尾にいたからしょうがないとはいえ、魔力炉だけは無事でいて欲しかった。『グロークス』が開発した超小型魔力炉は小型飛空船の魔力炉に匹敵するくらい高品質で高出力なのよ……。


〈ご心配なく。狂才製の超小型魔力炉を六基いただきましたから〉


 と、式幻に超小型魔力炉の外部図と内部図を投影させた。


「ちょっ、なっ、こ、これって、『グロークス』のと同じじゃないのよ!? いったいどういうことなのっ?!」


〈なんでも超小型魔力炉の製作者は狂才だそうで、人工知能の技術と交換したそうです〉


 狂才といえど人工知能を生み出すことは不可能。ならば先を進む者から知恵を得る。なかなか柔軟な思考を……ん? それって『メサイアル』にも当てはまらないか?


〈どうしました?〉


「あたしが外道の道を進んだらどうなるかしら?」


〈覇王が魔王になるだけでしょう〉


 なるほど、ごもっともなお答えです。


〈なりたいのでしか?〉


「あたしになれるかしらね?」


〈……わたしには、わかりません……〉


 あたしの遺伝子から創造された『生体複製』でも、魂と人格をもった以上、もはや銀騎はあたしではない。似て非なる存在なのだ。


「お姉さま、お風呂の用意ができました」


 セーラが戻ってきた。


「まっ、なんにせよ、魔力炉の問題が解決したのなら速やかに蒼騎を復元してちょうだい。あと、食事の用意ができたら全員を集めて。今後の計画を話すから」


〈了解です〉


 さて。さっぱりしてくるか。


 船長席から立ち上がり、お風呂へと向かった。

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