第32話
そして意識が復活。瞼を開くとラ・シィルフィー号の船橋内の景色が飛び込んできた。
〈ロリーナ、大丈夫ですか?〉
横にいた銀騎が尋ねてくる。
「……な、なんとかね。蒼騎と天騎、ファルシスは……?」
〈"エレーネ"を抱えて離脱しました。ファルシスも自動飛行しています〉
「で、なにが起こったの?」
〈海面から筒状の物体が飛び出しエルフィー号に着弾。主力風進機を大破させました。自爆式組は正常に稼働。あと十秒で爆発します〉
ファルシスが緊急脱出した場合、四十秒後に自爆するように仕掛けておいたのよ。海獣に敵わなかったときのためにね。
〈エルフィー号、自爆します〉
空騎隊から送られてくる映像に目を向けると、小さな太陽が生まれるところだった。
風進機の魔力炉とはいえ、暴走する(させる)と凄まじいものね。魔進機の魔力炉が悪夢になるのも頷けるわ……。
「お姉さま。四時方向、ゴルファの巣から星船型飛空船2隻がきます」
「海中からも一隻出てきました!」
〈突騎隊と海騎隊はファルシスを守りつつ反撃。空騎隊は天騎を援護しなさい〉
映像盤に投影される白と黒と青の飛空船に、やっと事態を理解できた。
「ふふん! あれもこれも人為的ってわけね。財源が豊富で羨ましいよ、こん畜生がっ!」
〈グロークスでしょうか?〉
「違うわ。もっと……いや、追求は止めておきましょう。あたしはファルシスで敵を燻す。雷騎と風騎は甲板にて待機。あとはよろしく──」
〈了解です〉
瞼を閉じ、深呼吸を三回。全神経を集中させた。
意識がどこかに吸い込まれそうな感覚が消えると、あたしはファルシスに乗る"擬似体"へと憑依した。
ゆっくり瞼を開き、感覚を確かめるために手足を動かしてみる。
少々反応が鈍いが大丈夫。幻想記作りで徹夜したときよりは反応が良いわ。
満足したところで式幻へと目を向ける。
そこにはファルシスの姿が綺麗に投影されていた。
中古とはいえさすが突入艇ね。緊急射出機の衝撃を受けても歪みや亀裂は見て取れないわ。
「天騎、エレーネは大丈夫?」
〈ああ。傷一つないよ〉
「了解。じゃあ、ドンガメまで下がりなさい」
〈良いのか? 相手は本職だぞ?〉
「女神の微笑みが消えたわけじゃないしね、やるだけのことはやってみるわ」
突入艇とはいえちゃんと空戦使用には改造してある。しっかり使ってあげないと可哀想だわ。主にあたしの努力が、ね。
操縦桿を握り締め、白い飛空船──飛翔戦艦へと向けた。
造りからしてこの白い飛翔戦艦が頭でしょうからね。
「突騎隊は黒い飛翔戦艦を。海騎隊と残りの空騎隊は青い飛翔戦艦を相手しなさい」
風進機を最大に噴射して白い飛翔戦艦へと突っ込んだ。
距離にして二千メローグ。あちらの射程内に入ったのか船首の裂鋼砲が煌めいた。
操縦桿を捻り襲いくる裂鋼弾を回避。姿勢を戻すとこちらの射程内に入った。
たった一門の裂鋼砲から徹甲型裂鋼弾を放つ──が、あちらさんも船体を回転させて交わしてしまった。
白い飛翔戦艦とファルシスが交差した瞬間に後部から小型の空雷弾を放ってやった。
相手の半分以下で旋回。更に前部から小型空雷弾を二発発射する。
しかし、一つとして当たることはなかった。
並ではないとは思ったが、機動性がハンパない。下手したらラ・シィルフィー号に匹敵するぞ!
敵が十二発もの空雷弾を放ってくる。
それらを裂鋼弾で撃ち払うが、その爆発は狂才製にも負けてなかった。
ファルシスの装甲と魔光壁を信じて爆炎を突っ込む。
防風窓に爆炎やら破片やらが衝突するがビクともしない。そして突破。目の前に真っ白な"戦闘艇"が三艘もいるぅぅ!?
「こん畜生しょうがああっ!」
操縦桿を力の限り前へと倒し、ファルシスを急降下させる。
──銀騎!
〈他からも三艘出撃。雷騎と風騎を向かわせました〉
それと突騎隊と海騎隊の指示をお願い。あの白いのをきっちり沈めたいから!
〈気をつ──〉
銀騎との思念波通信を途中で切り、操縦桿を力の限り手前に倒した。
艇底の制御翼が海面を斬り、操縦桿が暴れる。
それを必死に押さえつけ、追ってくるだろう地点にキラキラ星を発射。全速力で急上昇する。
引っかかったを確認するために旋回──する前に白いのが真横に出現。裂鋼弾を放ってきた。
ガン! ガン! ガン!
突入艇の装甲坂と魔光壁を無視し、擬似体の体を貫いて行った。
擬似体に痛みはない。冷静に白いのに艇首を向け、風進機を最大に噴射する。
残りの空雷弾を放ち、敵に撃ち落とせる。爆炎で視界が遮るが、敵の位置は見失ったりはしない。
やや操縦桿を手前に倒し、微調整。そのまま爆炎に突っ込み、そして、白い飛翔戦艦に突っ込んだ。
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