第31話

 位置良し。用意良し。覚悟良し。


「では、撃てっ!」


 十一方向から十一発の核石弾がゴルファの巣へと向けて一直線に放たれた。


「エルフィー号、発進!」


 臨界まで高めた四基の風進機が唸りをあげた。


 座席の緩衝機能が直ぐに働くが、許容を超えた発進に耐えられず意識を歪めさせられた。


 ……ラ・シィルフィー号の重力結界のありがたみを痛感させられるわね……。


 一点に集中する視界で紅蓮の花が咲き乱れている。


 薄れ行く意識に活を入れ、中央映像盤に映る十一の景色へと目を向けた。


 どれもが紅蓮の花が咲いているのを理解し、速度計へと視線を移した。


 時速七百メローグ。廃艦寸前の飛翔戦艦には認めたくない速度である。


〈裂鋼弾、発射!〉


 加速をものともしない天騎が四基ある裂鋼砲を吠えさせた。


 竜の鱗すら貫通させる弾がゴルファの巣へと吸い込まれて行く。


 その差二秒でエルフィー号がゴルファの巣へと突っ込んだ。


 船橋にある全ての窓が真っ白に染められる。


 見るだけ無駄とすぐに悟り、魔眼航法に移るが、やはりこちらも真っ白だった。


「蒼騎、なにか感じる?」


〈感じるのは感じるのだけど、漠然とした感じ方だわ〉


 元『ナルタイ』の妖術師たる蒼騎の魔力感知能力はあたしより上なのよ。


「天騎。キラキラ星を放ってちょうだい」


〈了解〉


 船尾から二メローグ程の円筒形の筒が四発撃ち出される。


 操縦桿を手前に引き、船首を持ち上げる。


 放物線を描きながら上昇し、ゴルファの巣から飛び出した。青空に心を奪われる前に風進機の噴出を緩め、速度を三百まで殺したら右へと大きく旋回する。


〈キラキラ星、散布終了〉


「了解。では、光魔砲用意、……撃てっ!」


 エルフィー号の船首から魔砲に似た光の帯びがキラキラ星の下、海面へとぶつかる。


 一瞬の間の後、海面が爆発。大量の海水が吹き上がり、落下してくるキラキラ星を4方へと吹き飛ばした。


 昔、星船を発掘した一人の技導師が飛空船の武器として魔力吸収金属片──『エルチェニ』を生み出した。


 その時代、画期的な武器だと飛翔戦艦に搭載されたが、たった一回使用されただけで廃止されてしまった。なんせ、敵味方関係なく魔力を吸ってしまい海に墜落してしまったのだから。


 でもまあ、要は使い様である。逃げるときや結界を消去するのに使えばこれ程威力がある武器はない。


 数千個ものエルチェニが魔を吸い込み、輝きながら海面へと落ちて行く。


 ……うむ。今回初めて使ったけど、廃止した人の気持ちが良くわかる。飛翔戦艦同士の戦いでこんなの使ったら、自殺しようといってるようなものだわ……。


 光が増すにつれ霧が晴れてくる。あと五、六発も撃てば消えるわね、この威力なら。


〈ロリーナッ!〉


 風進機を最大噴射。急速上昇して右へと旋回。いつの間にか放ったキラキラ星に包まれるゴルファの姿を完全に視界に捉えた。


「────」


 これがゴルファ? 双頭邪竜の遺伝子を組み込んだ魔竜だっていうの!?


 その姿は双頭邪竜ではない。数千種いるどの竜にも当てはまらない。敢えていうのなら伝説の聖魔戦士が纏ったとされる生体鎧──『エルゴヴァ』に近い。


 人と竜を合体させた生きた鎧。それの巨体版である。


〈ロリーナ、集中しろッ!〉


 いつも軽口を叩く天騎だが、そのうちなる性格は沈着冷静。戦いにかけては六騎団一。頼れるあたしの剣である。


 炸裂型の裂鋼弾をゴルファへと発射する──が、その防御力と生命力は双頭邪竜に匹敵。全弾命中したのにまだ飛んでいる。


〈もう一度だ!〉


 暴れるゴルファの頭上を飛び越え、エルフィー号を急速旋回。四十メローグある巨体に照準を合わせる。


 こちらの意図に気がついたゴルファが魔炎を生み出し、纏うキラキラ星を焼き滅ぼした。


「──が、遅い!」


 船首二門。両舷二門。船底一門から裂鋼弾を放った。


 約八割を当ててゴルファと交差。意識を後方へと向けた。


 分厚い胸といわず大きな羽といわず裂鋼弾によりボロボロにされた。


「見事だ、狂才グレリコ!」


 帝国軍使用の裂鋼弾ではその鱗すら砕けないだろう。それが鱗を砕き、肉体を破壊するのだから叫びたくもなるわ。


 大きく旋回し、海面に落ちて行くゴルファへと向かう。


 その間に計器類へと視線を向けるが、生きているのは魔力炉関係の計器だけ。後は完全に死んでいた。


 まあ、制御用がいくつか死んでしまったが、着水することは可能。と、少々暴れるエルフィー号を宥めながら海面へと着水させた。


〈──固定具爆破! ファルシス強制射出!〉


 船橋内で爆発が轟き、ファルシスの防風窓が閉じられる。続いて船橋が爆発分解された。


〈烈光陣!〉


 事態を理解する暇なく意識が途切れてしまった。

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