第30話
セセレアを発って一時間ちょっと。
商船が航海するには最適な時間なのに、どの方角を見ても空と海しか存在してなかった。
船窓から太陽の位置を確認。幻術で生み出した海図と計器で位置を測定する。
うん。そろそろ海獣が出るという海域ね。
〈ロリーナ。前方に白い壁が見えるぞ〉
天騎が見ている景色を映像盤に投影させた。
空の蒼と海の碧。その間に白い線が走っている。そんなありふれた景色に訝しみ、船外温度計から風速計に視線を走らせ海図で停止させた。
「……自然の法則に反してるわね……」
気温三十六度。南南西から風速十メローグの風が吹き、エルフィー号を中心に半径百リノ範囲に島はない。なのになんで濃霧が発生するの?
〈まさか"ゴルファの巣"をもう一度見るとは思わなかったわ……〉
蒼騎が呟いた。なにそれ?
〈双頭邪竜の遺伝子を魔竜に融合させた最悪の魔獣よ〉
魔獣というからには『ナイタル』か。まったく、三百年も続くとろくでもないことしないな。
「あたしが知らないってことは、実用化されてないってコト?」
〈操作できないので処分されたわ。なのに、なぜゴルファの巣ができるのよ……〉
そういえば、双頭邪竜が住む地(究極の生命体とかで山だろうが海だろうがどこにでも住めるらしいわ)も霧で覆われているとか書物に書いてあったっけ。
「そのゴルファって、どのくらい最悪なの?」
〈全長は五十メローグ。力は邪黒竜の五倍。生命力に至っては双頭邪竜級よ〉
魔を食らい、マグナ級の鱗に覆われ、音速で飛翔すると記される双頭邪竜には、亜神ディスファルトに勝利した四人の聖魔戦士でも倒すのに苦労したとも記されていたな。
……その通りならまさに最悪としかいいようがないわね……。
蒼騎のいう通り、アレが『ゴルファの巣』ならエルフィー号……いや、ラ・シィルフィー号でも危ういわね……。
〈で、どうするんだ?〉
「やるわ」
〈ゴルファを倒すのに邪黒竜を十六匹。烈火竜を四十匹。高魔獣を数百匹注ぎ込んでやっと処分できたのよ。二隻で倒せるわけないじゃないの〉
「敵に勝つにはまず敵を知ること。ってね。まあ、やるだけやって見ましょう。このまま帰ったらバカみたいなじゃないのよ」
〈本音はゴルファを見たいだけでしょうが……〉
すかさず銀騎ちゃんが突っ込んでくる。
「オホン! それでは銀騎ちゃん。海獣退治に取りかかるので戦闘記録と天女たちの指示をお願いしますよ」
〈了解です。しっかり手本となってください〉
「お任せあれ。では、天騎さんに蒼騎さん。核石弾で炙ってあげなさい」
〈おれたち、どこで人生を踏み外したかな?〉
〈きっとロリーナと出会ったときね〉
失礼な二人を無視して操足桿を踏み倒し、エルフィー号を突進させた。
速度計が上がるにつれ視界が一点に集中して行く。
巣の高さは海面より五百から六百メローグ。幅は視界からはみ出している。巣というよりは雲の大地といった方が良いくらいだ。
〈三十年程前の『ゴルファの巣』は、一リノ程度。こんな巨大ではなかったわ〉
歳月と自然がゴルファを進化させたか、それとも人為的に進化させられたか、謎を解く鍵は巣の中にある。では、お邪魔させて頂きますか。
「第一から第四までの発射扉、開封!」
〈第一から第四まで開封よし〉
「第一、第二、撃てっ!」
右舷から光が放たれゴルファの巣に消えて行く。
思った通り結界らしく、突入する斉に霧の散乱は起こらないけど風か魔力かが薄く霧を守っているようね。
ゆっくり数えること十二。巣の中で紅蓮の花を咲かせた。
なるほど。固体の侵入は許しても充満する"なにか"は逃さない、か。さすが双頭邪竜の遺伝子を組み込んだ魔獣の巣ね。
「第三、第四、撃てっ!」
左舷から光が放たれ、初弾と同じく十二で爆発。巣の中で霧が掻き回される。
「天騎、なにか見える?」
〈まったく見えん〉
「お寝坊さんね。なら、揺すり起こすとしますかね」
第一格納扉を開き、対空戦仕上げの魔鋼機──『空騎隊くうきたい』を六機、出撃させた。
命令したことを命令通りにしか動けないもんで汎用性はないが、狂才の倉庫にあっただけはあり、攻撃力は六騎団に匹敵する。裂鋼砲なんて雷騎のより凄いのを積んでたわ。
風進機の噴出を緩め、巣沿いに飛行。空騎隊から送られてくる6つの景色を映像盤に投影させる。が、映りが良くないわね……。
……魔力が濃いのかしら……?
「どう思う?」
〈大いにおかしいわね。ゴルファの探知能力ならとっくに察知しているのに〉
「ゴルファを知ってる人って多いの?」
〈幹部のどこまで知っているかはわからないけど、計画に参加したのは二十名。ゴルファの処分に半数が死亡。七名はロリーナが処分。二名が行方不明。一名はたぶん現役よ〉
「その行方不明ってのはなんなの?」
〈一人は、エルシオという名でゴルファ計画の責任者。ゴルファ処分で死体が見つからなかった。一人は、エルザという名の研究員。この女はいつの間にか消えてたわ
あからさまにキナ臭い話だこと。
〈ロリーナ! 第四空騎兵の反応が消えたぞ!〉
天騎の叫びに本能がエルフィー号を急速上昇させる。続いて空騎隊を撤退させた。
座席に張りつけながら映像盤に視線を向けた。
チッ。第一と第五も破壊されたわ。
上空一千メローグ付近で大きく旋回。肉眼で確かめるが敵の姿は見て取れない。ゴルファの巣が悠然と鎮座していた。
〈空騎隊の機動性を上回るか。こりゃ、総力戦だな〉
天騎のいう通り、総力戦で当たらないと空騎隊の二の舞だわ。
「海騎隊かいきたい、突騎隊とっきたい、全騎出撃!」
第一格納庫から海騎隊四騎。船尾格納庫から突騎隊四騎を出撃させ、巣の側壁に布陣させた。
〈ちょっと、どころか大いに頼りないわね〉
なにごとにも想定外はあるもの。とはいえ、ここまで想定外はないでしょうがっ!
「なんて怒ったところで状況は良くならない。勇気と知恵でなんとかしましょうか」
操縦桿を操りゴルファの巣から数十リノ程距離を取り、魔力炉を臨界まで高めた。
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