第24話
船長席に座り、懐から銀色の球体───
銀珠に刻まれた豆粒程の数字を確認し、一から順に七つ、間隔をおいて空中に浮かべる。
「鋼騎。魔力炉を一つ始動さするけど大丈夫?」
〈ああ。砲弾補給だから良いぞ〉
では遠慮なく。
「ラ・シィルフィー号、第一魔力炉始動」
魔力炉が動き船体が軽く振動した。
魔力炉で魔石が粒子拡散し、さらに気化拡散。第四界化され、立体式組陣で調整され、各式組珠に送られる。
その流れの一つが船橋計器盤へと届き、各種計器を起動させた。
また懐から二つ折りにした器具──『
左側の肘乗せの蓋を開け、中にある黄色の伝送線を伸ばして式録幻影装置に接続。式録幻影装置からも伝送線を伸ばして一番銀珠に接続した。
自分の魔力を式録幻影装置に送って起動させる。
幾つかの式組を送ると、ラ・シィルフィー号の銀珠群体から一番銀珠に戦闘記録が複写される。
数秒で戦闘記録がいっぱいになり、二番銀珠へと交換。さらにさらにで六番銀珠まで使ってしまった。
「……まったく、凄まじいまでの量よね……」
魔力の流れから船橋から見た光景まで記録せるから量が半端ではない。たった戦闘一回で人が見た光景を一年分は記録できる銀珠を六つも使用してしまうとは。それを解読するのに何年費やせば良いのかわからないわ……。
とはいえ、飛空船の戦闘記録は貴重。いずれ光人の遺産の知識を得るなら持っていて損はないのよね。
六番銀珠から伝送線を外し、式録幻影装置───通称、"式幻"を操り、でラ・シィルフィー号の銀珠群体へと接続して戦闘記録を見る。
式幻の映像盤には、魔力の伝導率や立体式組陣の稼働率などが凄まじい速度で現れては消えを繰り返して行く。
なにか異常があれば映像が停止されるようになってるらしいが、一度も止まることなく魔力炉停止まで映し終った。
『──ふむ。ちゃんと記録しているようだな』
「──ッ!」
なにが起こったか理解するより早く、声がした方へと甲殻線を放った。
『まったく、生身だったら死んでいたぞ』
斜め右、非常扉の前に甲殻線を突き刺した使い魔(腐れの姿をした精獣)が苦笑していた。
日々、防衛が強化されて行くのに、なぜ侵入を許すかね。こうもあっさりと……。
「しっかり冒険しておるようだな」
「しっかり戦争させられてるのよ!」
あれを冒険と呼ぶならこの世に戦争なんていう言葉は存在しないわ!
「……で、なんの用なの?」
『なに、可愛いロリーナが心配でな、様子見といったところだ』
暴れたい気持ちを押さえつけ、深呼吸を三回。頬をピクピクさせながら笑顔を見せた。
「そ、その、可愛いロリーナちゃんはお困りなの。ラ・シィルフィー号の維持に苦しんでるの。様子見といわず、お小遣いか交換部品でも持参してくんないかしらね」
……もっとも、腐れの造船所は二度と使えないように破壊してやったけどね……。
『よかろう。可愛いロリーナのためだ』
と、らしくないことをいった。
「……それは、承諾の意味かしら……?」
『それ以外に聞こえたか?』
「なにを企んでるの?」
『なにも企んでおらんぞ』
腐れから一タートももらったことがないのに、あたしを散々売り飛ばしたのに、そんな戯れ言誰が信じるかッ!
『もっとも、わしは片付けに忙しいので代理人に運ばせる。それより、魔進機はどうであった?』
「軽々と『悪魔の壁』を破って『神々の世界』に突入したわよ」
一瞬、使い魔の表情が安堵した。
……なんだ、その安堵が意味することは……?
「……ま、まさか、とは思うけど、試験飛行は済ませたんでしょうね……」
返ってきたのはとぼける外道の横顔だった。
「そ、それは、してないって、ことかしら?」
額の血管がメリメリいってるのが聞こえる。
『そりゃお前、森と湖が自慢のガレンズ公国で万が一があったらどうする。古郷が火の海になるなんて見たくないぞ』
……こっ、子供が火だるまになるのは構わないのかよ、この腐れ外道がァッ!
もはや限界。これ以上聞いていたら頭が爆発して、船ごと吹き飛ばしてしまうぞ。
そうならないためにシルバーを放つ。非常扉ごと使い魔を滅多斬り。風通しが良くなった非常扉から外に飛び出した。
『では、楽しみにしておるが良い』
斬り刻んだ使い魔が忌々しい笑みを浮かべながら霧散して行く。
「うがあああぁああぁっっ!!」
これってないくらい叫んだ。遥か遠くにいる腐れ外道に向かって。
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