第4章

第23話

 陽が沈む頃、銀色に輝いていたラ・シィルフィー号が煤色になって帰ってきた。


 ……見た目からして火炎弾系の空雷弾でしょうが、魔鋼板まで溶かすなんて……。


「最近の空賊は恐ろしいもん積んでるのね」


 まあ、それはそれとしてだ。


 訓練に出る度に被害が増すのはどうしてかしらね……?


 初日は烈鋼弾と空雷弾を使い切り、船首装甲板を剥離させた。


 二度目は左舷水進機を大破。もちろん、烈鋼弾と空雷弾は空よ。


 三度目は船体のあちらこちらに穴を空けて帰ってきた。やっぱり烈鋼弾と空雷弾は空でした。


 んで、四度目の今日は火炎弾系の空雷弾を何発も食らったようで魔鋼坂は剥離。たぶん、烈鋼砲も溶けてるでしょうね。左右風進機の装甲板は烈鋼弾の集中攻撃を受けたようで装甲板は丸ごと交換しなければならないくらいの無惨さだった。


 六日かけて修理したのにたった一日でこれだもん。胃が痛くてしかたがないわ……。


「それで、今日の成果は?」


 お守りを任せた銀騎と鋼騎に尋ねた。


 その腕には魔眼航法で燃え尽きたルミアンとセーラ、そして、空戦に目を回したネルレイヤーを抱えていた。


〈攻撃船一。母船一。搭載艇八だ〉


〈被害は見ての通りで、烈鋼弾空雷弾は空。あと、核石弾を四発使用しました〉


 ……聞きたくなかったから尋ねなかったのに、いけずな銀騎ちゃんなんだこら……。


「セルレイン。三人を部屋に運んでちょうだい」


 片時もあたしの側から離れない半獣人の子──セルレインに命じる。


「はい、お姉さま」


 セーラの口調を真似てルミアンとセーラを両脇に抱え、ネルレイヤーを背負った。


 この小さな体でこの力。なんとも好奇心をくすぐってくれるが、この忙しいときには止めて欲しいわ……。


「シズミル。弾ってまだあるかしら?」


 投光器から星船型飛空船。発想と技術の『ローダー商会』の三代目に尋ねた。


 ……もっとも悪夢以降、客はあたしだけだけどね……。


「うん、弾は全然大丈夫。けど、魔鋼坂の加工には魔石が足りないかな。うちの魔力炉大食らいだから」


 まあ、寿命が三十年の魔力炉を六十年も使ってるんだからしょうがないか。動いてるだけ狂才に感謝しなくちゃ。


「しょうがない。調達してくるか」


 百六十七個もあった魔石も訓練で消費してしまった。ったく、個人で消費する量じゃねーぞ、こん畜生がッ!


「じゃあ、あるだけ進めておく?」


「ええ、お願い。ほんと、修理はがりさせてゴメンね」


「ううん。気にしないで。おとうさんたちの汚名を晴らすのがあたしの役目だもん。何度もいじれて嬉しいくらいだよ」


 シズミルの父親と母親は、帝国飛翔艦隊の技術開発局に在籍し、魔進機の開発をしていた。あのレビスの悪夢が起きるまで。


 失敗によりシズミルの両親は、悪魔と罵りを受けながら失敗の全責任を押しつけられ処刑された。まだ三歳のシズミルを残してね。


 その元凶を搭載(最新鋭の風進機として誤魔化しているわ。幻術でね)と知ったらどう思うのかし──ヤメヤメ! そんなつまらないことに頭を使ってる暇はないわ。外道は承知でも鬼畜にはなりたくないわ!


「……う、うん。任せるわ。鋼騎。砲弾の補給をお願い。天騎と風騎も手伝ってあげて」


 やれやれ。こんな弱気になるところを見ると、魔鋼機を増やせって前兆かしらね……?


「忙しいみたいだけど、わたしもなにか手伝いましょうか?」


 気配もなしにシルビートさんが現れた。左手にマグナの剣を。"右手"には甲殻の剣を携えて。


 赤竜族救出の翌日、シルビートさんには生体義手を贈呈させてもらった。


 あたしの両腕も生体義手(ついでに両脚もね)だが、あたしのは魔術増幅装置のようなもの。シルビートさんに贈呈した生体義手は武器格納庫。甲殻の剣を収納できる鞘である。


「できることあります?」


「……荷物運び、なら……」


 星船型飛空船の技術は特異なもの。飛空船を学んだ先の先にある技術だ。それを理解し、飛空船一隻自分で造れる技術がなければ整備もままならない。


 あたし、鋼騎、シズミルの三人以外触った船など怖くて一メローグも進めないわ。


「暇ならセルレインの稽古か島の巡回でもしててください。それと、生体義手にも限界ってものがあるんです。試しも程々にしてくださいね!」


 頑丈に作ってあるとはいえ、聖騎士のようなバケモノには合わせて作ってはいない。キニル合金を打ち砕きたいのなら左手でやってよね、まったく!


「はいはい。セルレインと稽古してきま~す」


 戻ってきたセルレインを抱え上げ、そそくさと逃げ出した。


「ったく、疾風の称号をもらうだけあって逃げ足が速いんだからっ!」

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