第21話
敵──『ナイタル』の飛翔戦艦は、約三十メローグ。
艦隊の先陣を斬る小型戦艦系であり、艦首艦橋型だ。
艦尾と左右に風進機を搭載し、艦首下と風進機横に烈鋼砲が装備され、中央甲板上には空雷弾管。下には核石弾管が追加されていた。
……なんというか、小型の飛竜に烈火竜の力を乗せたようなものね……。
「銀騎。下がって」
その指示に空中戦をしていた銀騎が迷わず離脱した。
稼働領域を問わないような仕上げにはしてあるとはいえ、空戦用には仕上げてない。空専門の兵器には一歩遅れる。それをちゃんと理解してるから助かるわ。
「良い、ルミアン。これが初陣よ。気を引き締めて戦いなさい」
敵艦がこちらに気がつき、小さく旋回して艦首をこちらに向けた。
「──は、はいッ!」
「だからって緊張しないの。あたしも熟練者相手に勝てるとは思ってないわ。攻撃はあたしがするからルミアンは操縦に集中しなさい。無理と判断したら直ぐに操縦を奪うから。では、開始と行きますか」
「──はいっ!」
ギュッと操縦桿を握り締める音が響き、ラ・シィルフィー号が加速した。
こちらが先制する前に敵艦の艦首が輝いた。
輝きからして光魔弾か。なかなか慎重な操縦士じゃないの。
ダン! ダン! ダン!
船体を包む魔力壁が光魔弾を弾く。
「ごめんなさいっ!」
「これは敵の威力偵察よ。なんたってこちらは星船型飛空船。帝国飛翔艦隊ですら配備してない最新鋭船。装甲は予想できとも魔力壁は当てて見ないとわからない。そして、光魔弾の弾け具合からして魔力炉の出力が予想できる。慎重ではあるが情報分析もできる優秀さ。学ぶのに丁度良いわ。──空裂十字砲!」
敵艦と交差。飛び越えると同時に風の刃を食らわせる──が、三拍子揃っているようで防御力も優秀。空裂十字を弾き返されてしまった。
ラ・シィルフィー号が急速旋回。敵艦より速く照準を合わせ、船首烈鋼砲2門からから裂鋼弾を連射。銀色の弾丸が敵艦の船首から左舷中央に飲み込まれる──が、飲み込まれただけ。爆発も起きなければ煙もでない。装甲は薄くても緩衝材が優秀なのね。
なにより優秀なのは操縦士だ。まあ、あの滑らかな動きからして魔眼航法を使用しているんだろうけど、空戦のなんたるかを知ってる翔び方だ。
全弾命中したにも関わらず敵艦の飛翔になんら支障は見て取れない。小型らしく小さな旋回でこちらの横(右舷側)に食らい着いてきた。
「
右舷側に円形の光の盾が生み出され、敵艦の放った魔砲を弾き返してやった。
とはいうもののなかなかの威力してるじゃないの。並の飛空船なら一発で撃沈だわ。
二度目の交差。魔眼航法により敵艦の艦橋内部が見えた。
改造された艦橋に座席が一つ。見慣れぬ飛翔服を纏った男(顔は見えない。体格で判断しました)見えた。
どうやら頭が逃げるための使い捨てのようね。実に悪党らしい行為だが、こんな使い手を捨てるなんてもったいないだろう。しっかり最後まで使ってやれよ。
なんて他人を心配している場合ではないな。
「銀騎!」
……あの腐れ、音速の船なら重力制御も音速使用にしやがれってんだ……!
「──ルミアンっ!」
呼ぶが返事はない。
さすがのルミアンでも未知の世界に入るには精神が未熟だったか。こりゃ、しばらくは封印だな……。
速度が弱まり、航行を自動に切り替え、計器類に目を走らせる。
魔力が激減している以外、これといった異常はない。船体を流れる魔力伝導率も狂いはないし、船体の軋みもない。並の飛空船なら空気との摩擦で魔力分解を起こし、下手したら装甲が溶けているところよ。
自動から手動に切り替える。
速度を下げ、緩やかに旋回させながら降下する。
気色は海から地上へと変わる。
……綺麗……。
心奪われる景色に見とれていると、遥か先に湖が見えてきた。
……確か、エマ湖だったかしら……?
心ここにあらずで眺めていたら、どこからか悲鳴が聞こえてきた。
なんなのと見ればネルレイヤーだった。
どうしたのといいかけて気がつく。魔力残量計が悲鳴を上げてることに。
「──魔力壁解除! 第一、第二風進機緊急停止!」
余分な魔力を切り、制御用風進機で慣性航行を行う──が、距離も魔力も足りない。
持てる魔力を魔力炉に注ぎ込む。
船体が浮かぶが、意識は急降下。根性だせや、あたし!
エマ湖に出た。
船体が湖面を切る。
そして、九死に一生を得る。
「……うん。腐れ、絶対に泣かす……!」
改めて誓いを立てるあたしであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます