第20話

 地上に戻ると、辺り一面焼け野原だった。


 ラ・シィルフィー号から放たれた核石弾かくせきだんで大小の窪みが見て取れ、遠くでは微かに火の手が上がっていた。


 いつもの光景とはいえ、ラ・シィルフィー号が加わると凄まじいものね。


 ちょっとした都市ならアレ一隻で十分可能ね。下手したら飛翔艦隊(帝国では七隻で一艦隊よ)とでも勝てちゃうかもね。


〈ロリーナ。銀騎ぎんきが苦戦してるわよ〉


 蒼騎そうきが見詰める遥か彼方で紅蓮の火球が咲き乱れていた。


「距離はどのくらい?」


〈そうね。ざっと十七リノってところかしら?〉


 逃亡用とはいえ、凄まじいまでの逃亡路だこと。逃げるのも大変ね。


〈小型の戦艦のようね。動きが敏捷だわ〉


「シルビートさんは?」


〈ここからでは見えないわね〉


 そりゃそーだ。でもまあ、シルビートさんなら大丈夫でしょう。


雷騎らいき。弾は?」


〈うん。ないよ~〉


 ったく! 惜しみなく使いやがって。せめて戦いが終るまでは残しておきなさいよ!


 まあ、いったところで聞く雷騎ではないのでため息で留めておき、エルリオンを捜す。


 やや離れたところにあるのを発見。移動する。


 後部の気密扉を開け、剣や弓矢が入った箱を取り出し、焼けた地面へと置いた。


「セーラ。これを赤竜せきりゅうの戦士たちに渡してちょうだい」


「ここでわかれるのですか?」


「赤竜族は誇り高い一族だからね、いつまでも守られてる立場に甘んじてはいないわ」


 元来精霊エルフ族ってのは誇り高い種族。誰それに恵んでもらうのを嫌うのよ。


「彼らが黙ってもらうとは思いませんが?」


「誰もタダとはいってないわ。ちゃんと代金が揃ったらルミナスに取り立てに行くと伝えておいて。ほら、時間を無駄にしない」


 セーラを促し、エルリオンの横にあるフィルシーに移る。


 雷のフィルシー。


 女神エルラーザの第二使徒でラ・シィルフィー号の戦闘艇だ。


 多分、これ一艘で小型の飛翔艦隊が建造できるだろう。そのくらい完全攻撃型の雷騎以上の兵器を搭載している艇なのだ。


「雷騎。赤竜族の皆さまが安全圏に出るまでフィルシーで護衛をしてちょうだい。蒼騎と風騎もよ」


〈おっしゃー! やったるぞぉ~!〉


 ……ったく! 護衛だっていってるだろうが、この戦闘狂が……。


「ルミアン。いらっしゃい」


「うん」


 いつの間にか横にいたルミアンを連れ、空に浮かぶラ・シィルフィー号へと飛び上がった。


 所々攻撃を受けたところは見て取れるが、いいつけを守ったようで魔獣の浸入は許してはいないようね。


 船橋上部の昇降扉から船内へと入る。


「ネルレイヤー。ご苦労さま。ルミアンと代わりなさい」


「……はい……」


 力なく答え、青白い顔で操縦席をルミアンに譲った。


 そのまま支援攻撃席に着くと、眠るように気絶してしまった。


 うーむ。混血とはいえネルレイヤーには厳しかったようね。こりゃ、本格的に魔術を教えないと使いものにならないわね。


「ルミアン。砲弾の確認」


 その間にあたしは魔眼航法で船内外の確認。魔力の残量から魔力炉の出力状況などを確かめて行く。


「おねえちゃん。核石弾の残りが少ないだけで他は半分以上あるよ」


「了解。それだけあれば充分ね」


 こちらも異常なし。戦闘するには問題ないわ。


「ルミアン。左舷四十度回頭。距離十七リノ。戦闘空域に向け発進。敵、小型飛翔戦艦を沈める」


「は、はい! 左舷に四十度回頭! ……ラ・シィルフィー号、発進っ!」


 左右の風進機ふうしんきを唸らせた。

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