第19話

「──船長!」


 力なくへたり込んでいると、シルビートさんが追い付いた。


「怪我を?」


「いえ、久々に肉体労働したもので疲れちゃって。それより銀騎の援護をお願いします。敵に聖騎士級の使い手がいるんです」


「もしかして左手使いで、剣にリシスと刻まれてた?」


 シルビートさんの表情が強ばる。


「左手使いではありましたが、剣までには意識は向けられなかったのでわかりません」


 そこまで余裕を与えてくれる敵じゃなかったからね。


「"十剣士"とお知り合いで?」


 確か、リシスって『ジリウス王国』の聖剣士に与えられる称号名だったはずだ。


「古い馴染みよ。では──」


 と、文字通り疾風の速さで駆けて行った。


 見えるはずもないシルビートさんの背を見ていると、風騎と甲殻兵6体がやってきた。


〈主さま、ご無事で?〉


「ええ、なんとかね」


 震える脚に活を入れ、なんとか立ち上がった。


「……にしても危なかったわ~。銀騎じゃなかったら死んでたわね……」


 貴重な"情報"を積む銀騎の機動性能は、他の子たち以上に高性能に仕上げてある。もちろん、装甲だって強化してあり、魔砲の一発なら耐えられるでしょう。


 他の子だったら片腕の一本は持って行かれたでしょう。あの超戦士の強さは異常だった。


「風騎。銀騎の位置は?」


〈距離にして一リノ。南南東に向かってます〉


 逃走経路爆進中、か。まったく、どこの支部も逃走経路増やしやがって。襲撃する度に目撃者を増やしてるじゃないのよ!


〈追いますか?〉


「いいわ。どうせ地上に出て飛空船かなにかで逃げるでしょうしね。反撃されないように追い払うだけで良いわ」


 その辺は銀騎に一任よ。


「それよりここにある器材を運んでちょうだい。あたしはルミアンの援護に向かうから」


 斬られた部分の繊維を排除し、鎧形態を変化させる。


 万が一のときのために三段階に変化できるようにしたけど、まさか役立つ日がくるなんて思わなかったわ……。


〈主さま。相手は『銀剣士』。気になさらず〉


「わかってるわよ」


 ウインノス族で十指に入る剣士で、その一撃は邪黒竜じゃこくりゅうですら斬り裂く程。もし本当に十剣士の一人、ジリウス王国の銀剣士ならにわか仕込みの魔剣士では太刀打ちできなくて当然よ。


「まったく、強い敵はどこにでもいるんだからたまんないわ」


 技法師。魔術師。魔術医。幻法師。魔剣士。寝る間も惜しんで習得したのに、それでも生きるには力が足りない。自由を勝ち取るどころか"あたし"すら変えれないで──。


「──ヤメヤメ! そんな暗い考えなんて飛んでけ!」


 壁に頭(兜で覆われてるけどね)をぶつけ、悪い考えを追い払った。


 あたしはなんでもできる神じゃない。過信過剰は自滅への第一歩。騎士バカや悪辣賢人を見て学んだだろうがっ!


「必要なら極めろ! 生きたいのなら生きる努力をしろ! それがあたしの生きる道よっ!」


 よし! いつものあたしに戻った。今やるべきことに集中よっ!


 シルバーを一閃。襲いくる甲殻魔獣を斬り裂いた。


「──鋼騎、動力炉は制圧できた?」


〈ああ、したよ。今、魔石やら使えるものを選別してるとこだ〉


「ご苦労さま。終ったら撤退して」


〈了ー解〉


 次々とくる魔獣を斬り裂きながら指示を出す。


 ルミアンが葬った魔獣を目印に進むと、大型の昇降機が現れた。


 さすが大陸の玄関先で商売してあるだけあって大きいこと。これだけ大きいと飛空船でも運べそうね。持って帰ろうかしら……?


「ん~。結構降りてるわね」


 上昇させるとなると時間がかかるな。


「まっ。こーゆー昇降機には整備用の通路があるから問題ないんだけどね~」


 小さな扉を開け、一メローグ四方の通路に飛び降りた。


 風を纏い降下すること六十メローグ。多くの気配を感じ、魔弾で扉を吹き飛ばした。


「──待ってっ! その人は味方よっ!」


 目の前数ログに銀色に輝く刃があった。


 あらら。赤竜の一族を助けにきて殺される間抜けをするところだったわ。


『失礼しました。この子の師でロリーナ・ファイバリーと申します』


 兜を解除して精霊エルフ語で名乗りを上げる。と、六十名にも及ぶ団体さんの中から風格のある男性が出てきた。


 長寿として有名な精霊エルフ族だから見た目(二十代後半くらいかな)では判断できないが、少なくても四百年は生きているだろうなという気配と眼差しを持っていた。


「わたしはゼアル・フィシアと申す。一族の長としてお礼申し上げる。助けていただきありがとうございます」


 深々と頭を下げた。


 ふ~ん。長ともなるとミナス語を理解するのか。結構世界情勢に気を使う種族だったのね。


「気になさらず。ルミアン。計画通りすがりに地上まで護衛してちょうだい」


「おねえちゃんはどうするの?」


「二度と使用できないように破壊するわ」


 支部の一つ破壊したところで悪事を諦めるバカどもじゃないが、再利用されるのも癪だからね、嫌がらせに破壊してやるのよ。


「じゃあ、あとでね」


 再度、整備用の通路に飛び込み、地下に降下する。


 さらに五十メローグ程降下すると、底に到着。扉を蹴り破った。


 この支部の心臓部である大空間には大型の魔力炉が設置してあった。


 魔獣を1体造るくらいなら小屋一軒あれば可能だが、一日数十体造り、これだけの支部を維持するには飛空船に搭載する魔力炉の六倍は必要とする。


 これだけの魔力炉となれば使用する魔石は百や二百では足りない。一番あったところで四百個はあった。


「うん。いただけるものはいただいたみたいね」


 魔石保管室を覗いたら綺麗になくなっていたし、転用できそうな機材も消えていた。


 鎧の下から携行用の時間式核石弾を二個、取り出し、大型魔力炉根元に置いた。


「では、さらばだ!」


 整備用へと飛び込み、地上へと飛翔した。

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