第18話

 シルバーを一閃。魔獣ゴルーラを真っ二つにする。


 お母さまの『封印庫』にあった魔剣である。甲殻系の中級魔獣でも軽々と斬っちゃったわ。


「うんうん。苦労して封印庫を破った甲斐があるってもんだわ」


 いや、斬るってこんなに気持ち良かったのね。シルバーを使うの久しぶりだから忘れてたわ。


 最初の攻撃で防衛用の魔獣はあらかた倒したけど、攻撃用魔獣がいるから『ナイタル』って面倒なのよね……。


「おお。さすが魔王にも販売しつる『ナイタル』ね。一匹二千万タムもする魔獣を団体で出してきたよ」


 まあ、シルバーの前ではザコでしかない。が、こうも惜しみなく出されるとさすがに疲れてきた。


「……魔剣士の称号を得てるとはいえ、日頃の鍛練を怠けちゃダメってことね……」


 あたしが持つ魔剣には魂が宿り、意思がある。この剣に認めてもらわなければ魔剣士とは名乗れない。認められればこっちのもの。そんな怠けた日々のツケが現れてきた。


 体が重くなり、剣筋が鈍くなってきた。


「──まっ、ツケはあとで払えば良かった」


 魔剣士であると同時に技法師でもある。戦い方にこだわりはない。


 核熱弾かくねつだんを取り出し、頭上へと放り投げる──と同時に結界を張った。


 ボンという音とともに紅蓮の光が弾け、一千度近い炎が魔獣の群れを飲み込んだ。


 核石弾かくせきだんには劣るが、使ったらまず間違いなく外道扱いされる武器である。あたしを中心に半径五十メローグにいた魔獣が黒炭に変わった。


 焼け溶けた外壁から城内へとおじゃまします。


 なにやら倉庫らしい部屋を突き進み、襲いくる魔獣を一刀両断。ダルナスが作った穴を見つけ、地下へと降りた。


 そのまま六十メローグ程降りると、防風窓が開いたダルナスが転がっていた。


 ラ・シィルフィー号と同じキニル合金で覆われ、魔鋼化まこうかで強化されてるとはいえ凄まじい貫通力だな。戦艦に突っ込むのが仕事じゃなかったか?


「まったく、突入艇じゃなくて貫通艇だね」


 完璧に目的を忘れた艇を残し、耐熱耐圧仕上げの通路を奥へと進んだ。


 一刀両断された魔獣。上半身を吹き飛ばされた魔獣。足の踏み場もない程の魔獣の死骸や肉片で溢れている。


 同行させた甲殻兵はべつとしてルミアンの戦闘能力は凄まじいわね。まさしく一撃必殺。殺す躊躇が見て取れなかった。


「甘えん坊とばかり思ってたけど、根本的なところは超人ウインノス族なのね……」


 と、耳をつんざく轟音と地震のような振動があたしの体を激しく揺るがした。


 おっと。ゆっくりしてらんないわね。


 今までの経験と勘を頼りに通路を進むと、『ナイタル』の実験施設区域へと辿り着いた。


 幾十もの透明な硝子の筒に入った造りかけの魔獣にどこの名工が作ったかわからない実験器具。生成難易度が高い溶剤の数々。他にも最高級の器材があった。


「いつもながら『ナイタル』の実験施設は凄まじいわね。とても人が想像した施設とは思えないわ。お母さまの実験施設より百年──いや、三百年は先を行ってるかのような技術差ね」


 まあ、色々謎はあるし、調べてみたいが、欲張りは破滅のもと。頂けるものだけを頂きましょうね~。


 小踊りしながら鎧化を解除し、実験器具やら溶剤などお店では絶対に手に入らないものを優先的に狂才きょうさい宅(の借りた倉庫)に転移させて行く。


「やっぱり襲うなら『三大悪』よねぇ~」


 おっ。フィシテルア菌発見! あっ。光学顕微鏡じゃない。しかも最新っぽい! なっ。『グロークス』が何十年もかけて開発した魔粒子収束器じゃないのっ!? なんていう幸運! 人工魔石が造れるじゃないのっ!


 ホクホクサクサクと転移させていると、あたしの感知計が反応した。


 集中して感知計を最大にする。


 フム。人数は四人。うち一人の魔力が高いとこ見ると妖術師(外道を研究する者を総称してそう呼んでるのよ)か。んで、この苦い感覚を感じさせる六つ魔力は護衛用の魔獣と見た。となると支部長や幹部らの逃走ってことか。


「銀騎。状況報告」


〈──天騎とシルビートさんは魔神獣ましんじゅうと戦闘中。蒼騎と雷騎は残存魔獣を駆除中。風騎がその援護。鋼騎は動力室を占拠中。わたしはダルナスの突入穴を降下中です」


「了解」


 収集活動を止め、再び鎧化してシルバーを構える。


 と、真横の壁に扉が生まれた。


「なん──」


 理解するより体が反応。出てきた老人の首をはねてしまった。


 ったく! 突然現れたりしないでよ。思わず斬っちゃったじゃないの。色々聞きたかったのにっ!


「──貴様っ!」


 またもや体が反応。続いて出てきたバカを甲殻線で突き殺してしまった。


 もー! 仮にも『ナイタル』で働いてるなら殺気丸出しでこないでよ。こっちは殺気に反応するように鍛えてんだからさぁ~。


 理不尽に怒っていると、バカの後ろから団体さんが現れた。


「お邪魔してますよ」


 甲殻線を抜き取り、団体さんと向き合う。


 貴族風の中年男性に妖術師のおんな。ウインノス族の戦士。そして、護衛の上級魔獣のライディーン。さすが支部を任せられるだけあるわね。なかなか強敵な臭いがするわ。


「お招きした覚えはありませんよ」


 貴族風の男性が応える。こいつが頭か。


「それは失礼。あたしときたら突然来るのが大好きだから」


「……まったく、困った"小覇王こはおう"さまだ……」


「や~ん。そんなに嫌わないで~」


「殺れ」


 短い命令にウインノス族の戦士が掻き消えた──ら、目の前に出現。銀色に輝く刃が怪しく瞬いた。


 あの"騎士バカ"と何度となく殺やり合ってなければ反応もできなかっただろう。紙一重で避けることに成功した。


 この強さ聖騎士並。あたしでは勝てない。なら、勝てる魔術で対向す──。


「させないわよっ!」


 さすがにあたしの殺やり方を学んだようで反応かえしが速い。


 妖術師が放つ火炎球を甲殻の盾で防ぐが、威力までは殺せない。せっかく集めた溶液排出器を巻き込んで壁に埋め込まれてしまった。が、そのくらいで隙をつくっていたら『三大悪』を相手にはできない。


「ラグリラーナっ!」


 すぐ様、光の槍を放つ。


「炎蛇の盾!」


 が、妖術師は渦巻く炎の蛇で弾き返した。


 さすが支部の妖術師。なんて褒める暇なく真横に銀色に輝く刃があった。


 自分でも驚くくらいの速度でウインノス族の戦士のマグナの剣を受け止めることができた。


「ほ~! さすが小覇王さまだ」


 畜生が、余裕たっぷりだな!


〈ロリーナ!〉


 戦士の背後に銀騎が出現。マグナの大剣が瞬いた──が、戦士は消失──しらた銀騎の背後に現れた。


 総重量二百ギルもの巨体が吹き飛んだ。


「先に行け!」


「させますかってーの!」


 好機とシルバーを放つが、刃は空を斬るばかり。悠々たる顔で避けやがった。


 ったく! 魔獣屋のクセに超戦士飼ってんじゃねーよっ! 反則だぞッ!


 ──天騎! シルビートさんを寄越してっ!


 超戦士には超戦士。用心棒どのにがんばってもらいましょう。


「銀騎ッ!」


〈了解!〉


 あたしの指示を理解した復活した銀騎が甲殻の鎖を放つ。できるだけ時間を稼いでちょうだい。


「ラ・ウバ・ザードゥ・リワ・アザルズ──我は詠う、破法陣はほうじんッ!」


 遥か昔、聖魔時代に発明された一定範囲のあらゆる力を封じる"欠陥"魔法陣だが、発動前に陣外に出れば問題なし。


「クッ!」


「ちっ!」


 あたしと超戦士が同時に放れ、同時に舌打ちした。


 まったく、"悪辣賢人"並に厄介な敵だっ!


「援軍か」


「銀騎ッ!」


 去り際の良い超戦士を銀騎に追わせる。


 その姿が視界から消えると、全身から嫌な汗が噴き出し、床に崩れ落ちてしまった。

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