第3章
第17話
「んじゃ開始」
ラ・シィルフィー号の船首に立つあたしは、ゆっくりと右手を降り下ろした。
待つことしばし。山の向こうから爆音が轟いた。
各自、それぞれの地点に散った六騎団が『魔砲』を放ち、狙った場所に直撃した証拠だ。
魔石一つ分の魔力を収束させて放つ、六騎団の最強の技である。
なんて自慢したいが、あたしの成果ではない。三大悪から奪った技術を組み合わせただけなのよね。
……まあ、それで一億タムなんていうバカげた賞金をかけられちゃったんだけどね……。
続いて二回目の爆音が轟く。
これで隠れ家を覆う森の半分が消失。そこに隠れる魔獣も半分は消失したことでしょうよ。
「第二魔力炉臨界まで上昇」
遠くにいる者と会話ができる魔導機──伝声器(拳大の水晶球)で船橋にいるネルレイヤーに指示を出す。
『は、はいっ!』
ラ・シィルフィー号を飛ばすだけなら魔力炉一基で充分。それなのに二基も搭載してなに考えてんだと思ったが、なるほど、一基は攻撃用とは畏れ入った。腐っても帝国軍の専属技導師さまだよ。
『第二魔力炉臨界に達しました』
「そのまま待機」
さすがの六騎団でも『ナルタイ』の支部を壊滅できる程鬼畜使用ではない。
禁呪の宝庫に禁呪六つでは分が悪い。ちゃんと計画的に攻撃しないとお金も時間もかかっちゃう。無駄使いは好きでも無意味は嫌いなのよ、あたしは。
〈ロリーナ。第一作戦終了。第二作戦に移行します〉
銀騎から思念波が届く。
「ネルレイヤー。開始」
『は、はいっ!』
隠れ家より七リノ。とある渓谷にラ・シィルフィー号は隠れている。
以前、公国から地図を頂いてて助かった。地図がなければラ・シィルフィー号を突っ込ませてたところだ。ほんと、上納してくれたバカ息子に大感謝だわ。
補助式組により滑らかに急上昇。標高四百メローグの山々から顔を出した。
『魔砲、発射ぁっ!』
船体を包む魔力が急速に船首に集中。臨界を突破した魔力が太陽のように輝き、前方に放たれた。
一直線に進む光の帯は、古城を包む結界にブチ当たる。
と、光が四散する。
「あらら。弾かれちゃった」
アレ~おかしいな~? 以前は六騎団の魔砲で消滅したのにな~。
「まっ、あんだけ襲ってれば強化もするか」
さすが『三大悪』。日々精進してるのね。ってまあ、あたしがいうコトじゃないけどさ。
「しょうがない。ネルレイヤー、
『はい、第一から第四まで開放しましす』
船首左右にある発射管が開放される。
『開放よしです』
「では、全弾発射」
『核石弾、全弾発射ッ!』
開放された四つ発射管から全長一メローグ程の筒が発射された。
独自の風進機ふうしんきを搭載し、四枚の羽で姿勢制御する核石弾は、綺麗な軌跡を描きながら隠れ家の結界向けて翔て行く。
威力的には魔砲に負けるが、これは対魔力兵器。堅い要塞に向けて放つものである。
幾度となく使ったが、さすが
「さてと。ルミアンとセーラ。出番よ」
ラ・シィルフィー号の左舷側に浮かんでいる蒼く塗装された突入型強襲艇ダルナスに目を向けた。
魔力壁に覆われた戦艦に突入するために造られた艇に結界など無意味(まあ、核石弾で吹き飛んだだろうけどね)。これ一艇で小型の飛空船ひくうせんが買える程。『
二基の風進機が唸り、時速四百リノで突っ込むダルナスは、火の海を渡り、爆炎の中に消えて行った。
まあ、あの威力なら本当の隠れ家(地下施設)まで到達することでしょう。多分。
「ネルレイヤー。あたしも出るから時間通りに魔砲を撃ちなさい。あと、魔獣がきたら結界強化して耐えなさいね」
核石弾でも撃ってこない限りラ・シィルフィー号の結界は丈夫にできてる。まあ、魔力消費は激しいけどね……。
『は、はいっ! わかりましたっ!』
よろしい。では、あたしも戦闘開始と行きますか。
纏う法衣を鎧化させ、愛剣、
「シルバー。今日は思いっきり使うからね」
愛剣を構え、不幸なるバカを更なる不幸にしてやるために風の翼を羽ばたかせた。
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