第16話

 ラ・シィルフィー号の上甲板に完全武装の六騎団ろっきだんが並んでいた。


「諸君。準備はよろしいかな?」


〈オーッ! いつでもどこでもあたしは出撃可能よ!〉


 戦闘狂の雷騎ちゃんが炎のように燃えていた。


 相手が『ナイタル』と知るや張り切ること張り切ること。携帯用の武器んなんにしようかと真剣に悩んでいたっけ。


〈いつでも結構ですが、そこのお嬢さん方も連れて行くのですか?〉


 騎士道精神が盛んな風騎ちゃん。ルミアンとネルレイヤーへと視線を移した。


「もちろんよ。あたしといるなら日々戦いですからね」


 ネルレイヤーは別としてルミアンの戦闘能力は六騎団に匹敵する。たゃんと"実戦"を経験させればちゃんと"戦力"になるのよ。


〈親子揃って外道だな〉


〈親子だからでしょう〉


 軽口を叩く天騎と蒼騎を睨みつけて黙らした。


「シルビートさんは、天騎と魔神獣を相手してください。天騎、よろしくね」


〈よろしくな、シルビートどの〉


「え、ええ。こちらこそ……」


 なんともいいがたい表情で天騎に応えるシルビートさん。


 まあ、魔術とか技法とか無縁の種族には無理からぬこと。人魔ヒュードゥ族ですから魔術や技法を理解している人は少ないんだからね。


「では、各自所定の場所に」


 完全武装の六騎団といつもの格好をしたシルビートさんが闇に消えて行った。


 さすがというべきか聖騎士にまで到達した人は違うな。相手がなんであろうと表情一つ変えたりしない。その心も変わらないでしょうよ。


〈ロリーナもでしょう〉


 銀騎から突っ込みが届く。


 あたしの場合は慣れよ。生き残るたために戦っていたらこうなっちゃっただけ。今は、おもしろく生きるために敵は撃つ(ついでに奪うも有)の心境ね。


「どうしたの、おねえちゃん?」


「ううん。なんでもないわ」


 いかんな。ここ一年、六騎団とだけの生活だったから人との付き合いに舞い上がっているわ。こりゃ気を引き締めないと自滅しかねないわ。


「うん。作戦変更。あたしも出るから襲撃計画を六の十四にするわ。皆、あたしの前に出ないでよ」


 ラ・シィルフィー号からの攻撃に徹しようと思ったけど、ここは一つ、気分転換と気を引き締める意味で肉体労働に勤しみましょうかね。


〈捕まっている人まで殺さないでくださいよ。熱くなると見境がなくなるんですから〉


 へいへい。わかりましたよ。


「ルミアンとセーラは、計画通り捕まっている人の救出ね。あと、何度もいうけど、殺すときに躊躇しないこと。一撃必殺で殺すのよ」


 情けは相手の好機。殺されるのが嫌なら先に殺せ。『三大悪』を相手するなら絶対的心得よ。


「うん。わかった……」


「……はい」


 十六歳と十四歳の女の子には非情でしょうが、この世はもっと非情にできてるの。弱い者が生き残れるようにはなってないのよ。


「さて、ネルレイヤー。あたしは出ることになったから操縦席に座りなさい」


 端っこで静かに控えていたネルレイヤーに目を向けた。


 ネルレイヤーには、航法席(まあ、色々専門的知識が必要な席だけど、視力が良いので索敵役を任せたの)を任せたけど、あたしといるなら戦う方法は幾らあっても困らない。しかも、人魔ヒュードゥ族と精霊エルフ族との混血なんだから魔眼まがん航法に慣れさせおくのも良いでしょう。


「お、おねえちゃん、ネルには荷が勝ちすぎてるよ……」


「だって。止めておく?」


 すぐ様、ネルレイヤーに尋ねると、これまた直ぐに首を振った。


「必要なら極めろ。そうルミアンおねえちゃんから学びました」


「だって。ルミアン」


「……そうでした……」


 恥ずかしそうに答えた。


 守ってくれる者はいるだろう。一緒に戦ってくれる者もいるだろう。でも、人生常に二人以上とは限らない。そのとき、生きる手段も方法も知らなければ死ぬしかないのだ。


 二年前、奴隷商たる『グリクス』から一緒に逃げ出したルミアンに叩き込んだことだ。


 ……それが叩き込む立場になっているとはね。なんだか背中がこそばゆいわ……。


「じゃあ、あたしの厳しさも聞いてるわね」


「はい。いっぱい泣かされたって聞きました」


「ネ、ネルったら内緒っていったじゃないのっ!」


「あ、そうだった。ごめんなさい」


 この子は穏やかな気性かと思ったら、なかなか剛の強さを持ってるわね。


「も~! ネルのバカ!」


「ほらほら。和んでないでお勉強よ。襲撃時間まで必要なことを覚えなくちゃならないんだから」


「はい!」


 襲撃まであと少し。その少しでも生き残る手段と方法を覚える。それができない者に生きる資格はないのだ。

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