第15話

 皆が寝静まった頃、あたしと銀騎は上甲板にて襲撃計画を練っていた。


 シルビートさんから聞いた『ナイタル』の隠れ家(古城)を幻術で作り出し、銀騎を攻め、あたしは守りで疑似攻防戦を繰り広げているのだ。


 腐れ外道により『三大悪』に売られたが、一番多く売られたのが魔獣屋であり生命法学に長けた『ナイタル』だ。


 そこの警備はほとんどが魔獣で、まるで見本市かと思うくらい多種多様な魔獣を配置しているのだ。


 更に、戦う爆弾こと『魔神獣ましんじゅう』まで放っているのだから参っちゃう。一匹自爆するだけでちょっとした街が吹き飛ぶんだもん、始末に終えないわ。


〈また負けた。少しは手加減してください〉


 最後まで激闘していた雷騎らいきが魔神獣の自爆に巻き込まれた。


「やーよ」


〈交代です〉


 瓦礫と化す隠れ家を消し、元通りに復原させ、手元に六騎団ろっきだんを並べる。


 銀騎の前には魔獣の群れと魔神獣を四体並べる。


 それらを各所に配置し、隠れ家全体に死王円しおうえんの結界を張り、隠れ家を覆う森に爆雷陣や多種の防衛陣を敷設した。


「では戦闘開始」


 六騎団だけで相手していた銀騎とは違い、あたしは、隠れ家の三方から三使徒を出現させた。


〈卑怯じゃないですか〉


「そ。あたしは卑怯なの」


 十九年生きたあたしと四年しか生きてない銀騎とは年季が違う。腐れ相手に正々堂々してる義理はない。そっちが腐れたことしてくるならそれ以上の腐れ攻撃で潰してやるのがあたしの流儀よ。


 三方から放たれる核石弾かくせきぢだん。闇より濃い森を灼熱の炎が焼き払った。


 続けて六方に散った六騎団が出力最大の魔砲まほうを死王円に放った。


「ほら、死王円が崩壊しちゃうわよ」


 銀騎が結界に意識が移った瞬間、隠れ家の上空に超小型魔力炉を搭載した『魔甲鎧まこうがい』を纏ったあたしが転移。集束魔砲を放って死王円を破壊した。


〈行け、魔神獣〉


 隠れていた魔神獣が襲いかかる。が、足下がお留守。山に隠れていたラ・シィルフィー号が飛び出し、特大の魔砲を発射した。


 これで隠れ家の擬装が剥がれた。これで地下施設に入りやすくなったわ。


 あとは簡単。六騎団が襲いかかり、二十四体の甲殻兵を放って制圧完了。まっ、あくまでも殲滅を目的にした襲撃計画だけどね。


 ……救出作戦もこれだけ簡単なら楽なんだけどね……。


〈良くいえば疾風迅雷。悪くいえば鬼畜ですね〉


 後者の方がなによりの誉め言葉だわ。


「……そんなところにいると風邪引いちゃうわよ」


 気密扉の向こうで躊躇する気配に向けて語りかけた。


 ──聖賢者アルフミーツ・ミナコ──。


 あたしが無条件で尊敬できる『覇王ミーコ』さまは、精霊エルフ族でありながら大魔導師を遥かに超える魔力と七賢者にも勝る知識を持ち、四大魔王の二人を倒して歴史から消えたが、奇蹟の姫と剣姫の冒険で、百年ぶりに表舞台に出てきた。


「……なるほど、奇蹟が起きたわけか……」


 しかし、奇蹟の姫もメチャクチャなことするわね。忌み嫌われる種族であり、不老長寿の妙薬になる精霊エルフ族を取り込むなんて、どれだけの種族を敵にしたかわかってるのかしら……?


「ますます奇蹟の姫に会ってみたいわ。いったいどんな人物なのかしらね?」


「船長のようなお方よ」


 と、まったく気配を感じさせずにシルビートさんが横にいた。


 これでも気配読みや魔力感知には自信がある。なのに、全然わからなかったわ……。


「失礼。いつもの癖で近寄ってしまいました」


「いいえ。聖騎士さまを見くびっていたあたしが愚かなだけです。気にしないでください」


 セーラがいるなら守るシルビートさんがいて当然。それを見落としたあたしが馬鹿なだけ。以後、気をつけろよ、あたし。


「あたしにといいましたが、それ程奇蹟を振り撒いた覚えはありませんよ」


「姫さまも自分が奇蹟を振り撒いているとは思ってないわ。ただ物好きで、人好きで、とうしようもないくらい人がいいだけよ」


「だから人が集まる、ですか?」


「ええ」


 王族でありながら生命精力たる『氣』がなく、特殊な力も存在しない。なのに、人を惹きつける力だけは凄まじいと聞いたことがある。それが奇蹟だって。


「シルビートさんも奇蹟に惹きつけられた口ですか?」


「いいえ。わたしは追い出された口よ。未熟者はもっと修行してこいってね」


 自分を嘲笑っているのに、なんて妖艶な笑みを浮かべるのかしら……。


 鋭い眼光なのに、なぜか寂しげな雰囲気を滲ませる亜麻色の瞳。哀愁を秘めた戦士の魂。片目片腕にも関わらずその生命力は少しも衰えてない。まったく、この人の全てが幻想記になるわね。


「……ほんと、物好きで、人好きで、とうしようもないくらい人がいいのが2人もいるなんて思わなかったわ」


 物好きと人好きは別として、人がいいのはどうだろう? 『ナイタル』を襲うのはあたしの利益になるから。必要だからするんであって慈善で動いている訳じゃない。


 そう反論しようとして止めた。なんだか墓穴を掘りそうな気がしたからね……。


「なら、あたしのところで修行してみませんか? 奇蹟の姫ではありませんが、その剣を振るう敵ならたくさんいますよ。もちろん、タダとはいいません。これも奇蹟の姫ではありませんが、一日八タム。食事つき。危険手当として一月五十タムを支払いますが?」


 たった一つの亜麻色の瞳が可笑しそうに笑っている。


 ……フ。あたしには一生できない大人の笑みね……。


「そこにお酒飲み放題がつけばこちらからお願いしたいわ」


「商談成立。では、準備金と支給品をどうぞ」


 懐に仕舞ってあったマグナの短剣と腐れが寄越し100タムが入った皮袋を放り投げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る