第12話

 やれやれ。もうお昼だっていうのに、まだ買い物が終わらないわ~。


 最初に攻撃を開始した食器?屋でも、次の寝具屋でも、これってないくらい電光石火で買ったのに、まだまだ買う物が残っている。技法屋にも市場にも行かなくちゃならないのにさ~。


〈ロリーナ。そろそろ転移させろよ。もう持てんぞ!〉


 荷物係の天騎が悲鳴をあげた。


「蒼騎。お願い」


〈怠け者〉


 はい、あたしは怠け者です。使わなくていい力は使いたくないのです。


 ぐぅ~!


「はいはい、もうちょっと待ってね」


 お腹の虫さんに謝りながら穀物屋に向かい、一月分の小麦粉と豆を買い込み、近くの卸商会で砂糖、塩、油、チーズ、薫製品、干し肉、ハチミツ、乾燥野菜を選び、また蒼騎に転移させてもらう。


 まあ、完全とは行かないけど、当分の食料は大丈夫ね。残すはお酒とお茶ね。その二つが揃えば怖いものはない。砂漠だろうが無人島だろうが暮らして行けるわ!


「うんっ。これこそ命の水だわぁ~!」


 ズラリと並ぶお酒ちゃんたち。あなたたちがいないでなにが人生よッ!


「おっじさぁ~ん、ライ酒四十本に葡萄酒三十本。葡萄酒が樽であるなら三樽お願い。火炎酒があったら二十本。なければあるだけちょうだい。あ、宝石酒はあるだけちょうだいね~」


「……へい……」


 というのがやっとらしく、注文したお酒ちゃんたちを集め始めた。


 そんなおじさんの背を見ながら近くにあった椅子に腰を下ろした。


 そこは、試飲や商談をするテーブルらしく、軽めの果樹酒が置かれてあった。


 それを一杯頂き、空腹をまぎらわせた。


 やれやれ。拠点造りで色々集めたときも大変だったけど、飛空船で生活するのも同じくらい大変だわ。用意でこれだけなら維持にはどれだけ大変なのよ? ヤメヤメ。考えたくない。なるようになれ、よッ!


 なんてことを考えていると、愛らしい女の子が入ってきた。


 年の頃は、十二、三。山岳民族のような衣装で身に纏い、銀髪を隠すように薄汚れた灰色っぽい布で巻いている。


 その背には籠と狩猟用の弓と幾本入った矢筒を背負っていた。


 セセレアの北部にイズライル大森林が広がる。まあ、そこの民だろうと気にせず視界の隅に入れてたら、その女の子があたしの前にきた。


「お姉さん、もしかしてロリーナさんですか?」


 淀みもなければ怖れもない。しっかりとした口調で話しかけてきた。


「ええ、そうよ。お嬢さんとどこかで会ったかしら?」


 あっちこっち旅をしてたから結構な出会いと別れをしてるから、名前が出たらそう尋ねることにしてるのよね。


「いいえ。外にいち鎧さんたちが以前ルミアンお姉ちゃんから聞いた通りだったから、そうかなと思って」


 あらら。その名はもうちょっと後に出てくると思ったのに、もう出てきちゃったわ。


「ルミアンとはお友達?」


「ルミアンお姉ちゃんはあたしの命の恩人です」


 ニッコリ笑う女の子をじっくり観察する。


 銀の髪に銀の瞳。見た目的には人魔族だが、微かに感じる魔がちょっと違う。なんとなく精霊魔法の流れに似ている。まあ、精霊魔法を学んでいれば納得だが、この年で操れるほど簡単な精霊魔法ではない。なら答えは一つだ。


「混血ね」


 あたしの台詞に目を丸くして驚いている。だが、それも一瞬。直ぐに感嘆の表情になった。


「ルミアンお姉ちゃんのいう通りだわ。すぐ見破られちゃいました」


「いいえ。話しかけられなければわからなかったわ」


 それほど上手いのだ、この子の気配消しが。


「あ、まだ名乗ってませんでしたね。あたし、ネルレイヤーっていいます」


 なかなか賢い子ね。それに相手の気配を読んでいるわ。


「ネルレイヤー、か。確か、精霊語で"静かなる湖"って意味だったかしら?」


 となると、水の精霊王レーセを祭る種族ってことだ。レーセを祭る種族は少ないから、多分、水龍族か双月族のどちらかね。


「……詳しいんですね?」


 不思議そうな顔であたしを見ている。


 まあ、無理もないか。飛空船により世界が狭くなったとはいえ、まだまだ世界には謎があり、未開の地が多くある。


 一歩街の外にでれば危険な生物や魔王が生み出した魔獣が多く闊歩かっぽしている。好奇心旺盛な冒険者か学者バカ、あとは商人でもなければ街の外に興味を持ったりはしないでしょうよ。


「……も、もし、お客さん。用意ができました……」


 おじさんがおずおずとあたしたちの会話に入ってきた。


「店の外にいる連れがいるんで渡してください。あ、青い方にお願いしますね」


「あ、いや、そうなんだが……」


 店先にいる蒼騎や天騎を見て怯えている。


 ……まあ、魔鋼機なんて街中で見れるものじゃない。一般的にもなってない。知らない人からすれば恐怖でしかないか……。


 怖くないと幾らいっても駄目なので、甲殻兵を出したら更に怯えられてしまった。やれやれ。


「凄いですね」


 興味津々な瞳を甲殻兵に向けていた。


「ネルレイヤーは怖くないの?」


「全然怖くないです。だって、ルミアンお姉ちゃんが尊敬する人だもん」


 あらあら。ルミアンったら立派になったじゃないの。


 ルミアンと出会ったのは四年前。奴隷商の地下牢でだ。


 いつものごとく素っ裸で拉致された


あたしに服を被せてくれた優しい子を助け、生きる術を教えたらなつかれちゃったのよね。


「お店は順調にいってる?」


 いつでもどこでも戦闘開始の人生に巻き込むわけにはいかないから小さな食堂を持たせたの。料理が得意な子だったから。


「……それが、余り良くないんです……」


 さっきまでの笑顔が消え、悲しい表情を浮かべた。


「なにかあったの?」


 場所も腕もいい。品もだって良いし値段だって安い。お客がつくまで側にいた。それでお客が離れる訳がない。ならば、問題が外からやってきたと見るべきよ。


「はい。最近、お客の周りが買い占められてお客さんが減ってるんです」


 うーん。買い占め、か。確かに立派条件は良いところだったわね。良い場所が裏目に出ちゃったわね。


「ネルレイヤー。悪いけど、ルミアンのところまで連れてってくれるかな?」


 まあ、場所は知っているんだけど、消えるような別れだったから間に誰かいてくれると助かるのよ。


「はい。実はあたし、ルミアンお姉ちゃんのお店で働いているんです」


 おやまあ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る