第8話
〈ロリーナ〉
耳元で囁かれる銀騎の声に自分が寝ていることに気がつき慌てて目を擦った。
……ラ・シィルフィー号の資料を読んでるうちに寝ちゃったようね……。
「ごめん。なーに?」
〈セセレアの入口が見えてきましたよ〉
意識を窓に向けると、輝く海と緑の島々が視界いっぱいに飛び込んできた。
目が覚める光景ってこーゆー場合もいうのね。眠気が一気に吹き飛んじゃったわ。
〈自然は綺麗ですね〉
「そうね。腐り切った街とは大違いだわ」
まったく、心奪われる風景があるから旅は素晴らしいんじゃない。なのに、こんなお荷物背負わされたら動くに動けないじゃないのよ!
〈過去に怒らない。雄大な自然を眺めて心を落ち着かせください〉
「ええ、そうしましょう」
腐れに放り投げられたとはいえ、ここはセセレア。ミナス帝国でも風光明媚な土地であり第二の貿易都市。いろんな国々からいろんな種族が集まる。ここにくれば大抵の種族を見られ、珍しいものに触れらる。
あたしもいろをな場合を旅したが、海辺のあるところはきたことがない。海でも島でも面白くて仕方がなかった。
「さすが"宝石箱"といわれるだけあるわね」
それは自然だけではなく、いろんな国々からくる商船も含まれている。
今、追い越した飛空船など、超人族の商船だし、あちらに見える風速船は獣人族。翼人族や土人族の船まである。
「……とはいえ、なんか多くない?」
〈そうですね。まだ港までには距離があるはずですし?〉
島々で先は見えないが、セセレア公国の地図は頭に入っている。風速船が多いことからしてここはナイロアの回廊だろう。ならば、港まで二十リノは離れているはず。いくら混んでいるとはいえ、ここまで混むなんてありえない。なにか問題があったと見るべきでしょうね。
〈なんにせよ、飛行艇で確かめた方が経済的ですね〉
帝国一の収用力を持つ港がいっぱいとなれば個人の港を探すしかない。が、個人所有となれば相場より高くなるんだろうな~。
「ふぅ~。ま、しょうがない。設備がないとどうしようもないしね」
応急措置ならそこら辺の島にでも接岸するばいいでしょうけど、風進機は大破してるし、色々確認しなくちゃならない。最低でも陸揚げできる施設があるところでなければここから出ることもできない。
「銀騎と鋼騎は留守番。雷騎と風騎は魔鋼機でラ・シィルフィー号を守護。天騎と蒼騎も魔鋼機であたしの護衛ね」
〈あいよ〉
〈お任せ〉
ラ・シィルフィー号の甲板で自慢の魔剣を磨く天騎と上空で飛行を楽しむ蒼騎から軽い返事が届く。
「鋼騎。入れといてくれた?」
〈入れてあるよ〉
「相変わらず迅速ね、うちの技法師さんは」
〈それが自慢だ〉
ほんと、鋼騎がいてくれて助かるわ。六騎団の整備に時間を費やさなくてもいいんだからね。
「んじゃ、行きますか」
右の肘掛けにあるフタを開け、隠れていた幾つかのボタンから白の一番を押すと船長席が後退。昇降路レールに固定。白の二番を押すと降下した。
……ったく。こんな仕掛け造るくらいなら魔石に回せよな……。
二メローグ下の食堂に到着する。まあ、これだけの仕掛けである。
席から立ち上がり、後部に通じる通路を進み、第三格納庫の気密扉を開けると、白い飛空艇が固定されていた。
──エルラーザの三使徒にて風の『エルリオン』だ。
戦闘艇母艦じゃあるまいし、星船型飛空船に艇なんて積んでんじゃねーよ。しかも3使徒全てに武装なんて施しやがって。本当に戦争でもさせる気かよ!
「まったく、ここだけでも開けば色々使い道があるのにっ!」
第三格納庫は八メローグのエルリオンがすっぽりはいるほど。お陰で風進機や魔進機が横にずれて横幅が広くなったじゃないのよ。
ぶつくさいいながらエルリオンへと乗り込んだ。
「しかし、腐れの凝り性も凄いわね。飛空艇であっても妥協しないとは」
飛空艇や飛翔艇なんて操縦桿が常識で充填機が技術の限界なのに、まさか六騎団に搭載している超小型魔力炉を搭載しているとは。いったいどこから仕入れたのかしらね?
超小型魔力路もそうだけど、烈鋼砲や空雷弾も小型化され、帝国の飛翔艇より性能が勝っているわ。接岸用の飛空艇なのに……。
「エルリオン、始動」
ラ・シィルフィー号と同じくラ式の流れを組んでいるのか、だいたい同じくらいで魔力炉が動き出した。
「銀騎、開けて」
〈了解です〉
後方の扉が開き、セセレアの暑い日差しが飛び込んでくる。
操縦桿を握り、風進機を噴射。包む魔力壁を利用して艇を後退した。
なんとも滑らかな式組じゃないの。補助式組が自動で働いてくれるのか。これなら初心者でも操縦できるわね。
軽い衝撃が生まれ、エルリオンが着水した。
空水両用艇だけあって海でも安定感があるわね。なら水上航行も安心ね。
「じゃあ、慣らしで水上航行しますか。エルリオン、発進~!」
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