第19話 凛に恨みを持つ輩
「お前ら面白くないよな……凛は大樹とキスしていたけど……」
「俺さぁ……凛にやばい現場抑えられちゃってさ……継母が……継母が……口うるさくて……家追い出される可能性があるんだよな?」
「確かに……俺も……凛に不満が……凛に不満がある」
これは桜台学園高等学校3年生の翔と優とそれと工業高校達也の話だ。達也だけは学校は違うが、翔と達也はすっかり友達関係になっていた。それは大樹翔、舞、美穂それに凛のグループの中にいつも達也がいたからだ。
*翔の場合
あれは確か高校2年の事だ。
実は……翔は凛の事を入学して同じクラスになった時からずっと思い続けていた。だが、凛は大親友大樹とAまで行ってしまった。
それは……高校2年のゴールデンウイークの時だ。皆でアウトレットモールに出掛けた時大樹が急にいなくなったので探し回ったところ、何と木陰で凛と大樹がキスをしているではないか?
翔はスポーツ万能で、醤油顔のイケメンである。何なら大樹よりも学力的にもルックス的も上といっても過言ではない。
チョットいうと鼻筋の通った切れ長の和顔でツンとしたイメージが強く、近寄りがたい雰囲気を醸し出しているので、一見お高く留まっている風で敬遠されるタイプなのだ。
だから……現代風のソース顔の濃い顔ではないので好き嫌いがハッキリするかも知れない。
これだけのイケメンだ。雰囲気のまんまにプライドが超高い。
だが、自分の思いを遂げる為にはプライドもかなぐり捨てて突き進むタイプだった。要は思い込んだら命がけ!
だから……あの時は……慌ててしまった。
影に隠れて見ていると凛と大樹は見詰め合いキスまで発展したが、それ以上発展している様子が見受けられなかったので、今自分の思いを心の中に閉じ込めて友人に渡してしまう気持ちなど、どこにも存在していない事が分かった。
(もう突き進むしかない。大樹になんか取られてたまるか!)
こうしてゴールデンウイーク明けに、校舎の裏の人気の少ないところに連れ出し、清水の舞台から飛び降りる以上に勇気を振り絞り、もうどうなろうと構わない。プライドも何もかもかなぐり捨てて自分の気持ちをぶつけた。
「凛……凛……凛は俺のこと……俺のこと……好きかい?」
「ええ!それはそうよ……そうじゃなかったら一緒に行動しないでしょう……」
「凛……凛は……俺と大樹……どっちが好きだい?」
「ウウウン……うううん……どっちとも言えない?」
この時翔は自分にも望みがあると確信した。そして……大樹から凛を絶対に奪おうと決めた。
「どっちとも言えない?」と聞いた途端一気に凛の唇を奪った。
それは一瞬だったが、凛は嫌がる素振りも見せずに暫くキスは続いたが、我に返り凛が翔から後ずさりした。
こんな事があり気が気ではない翔は凛が大樹と急接近するのではと思い心配で仕方ない。
こうしてストーカーのようになって、大樹といい雰囲気になろうとするとガサゴソと現れるので怒れてしまった。
こんな事が何回か繰り返されたある日、またしても凛が1人の時に翔が現れて馴れ馴れしく手を握ろうとした。
「……翔ゴメン……私……大樹と……大樹と……付き合っているの。こんな事よしてくれない?」
「じゃあ……この前の事は一体何だったんだい?」
「……だって……あれは一方的に翔が……私に……」
そういうと「ああああああ……ダメなんだよ……ダメなんだよ……凛は……凛は……僕だけのもの」
そう言うとまたしても、今度は凛を押さえつけて凛が拒むのも構わず、延々とディープキッスに持ち込み思いを遂げようとした。
「もういい加減にしてよ!あなたなんか……あなたなんか……大嫌い!」
「何故だよ……何故大樹なんだよ!」
「もう……私と大樹は……後戻りが出来ないのよ」
「どういう事だよ!」
「そういう事ヨ!」
「俺はそれでも……俺はそれでも構わない……凛は……誰のものでもない……俺のものだ!」
「イヤ!絶対にイヤ!」
翔はそんな深い関係だった大樹と凛が許せない!
*達也の場合
この供述は田口と大樹の会話
「あれは高校1年の夏休みでした。例の5人、僕と翔と舞と美穂と凛で湘南の海に出掛けた時の事です。僕と凛は友達以上恋人未満の関係だったのです。だから……凛とカップルで電車に座りました。凛がトイレに立った時に、1人で後ろの席で座っていた達也君が僕の席に来て言ったのです。凛にはれっきとした彼氏がいますから。名前は桐谷正幸という学生です。だから凛ちゃんに告っても駄目ですよ。凛はその彼に夢中だから……」
「それは……彼氏がいるのに、あなたが凛に夢中になって、これ以上深入りしない為に親切心で言ってくれたのではありませんか?」
「桐谷とかいう学生が行方不明になって美穂が言ったのです。もう2人ともいなくなったからバラすけど、達也君に『桐谷さんが凛の彼氏だという事にしておいて』と言われていたけど……後追い自殺に見せかけ達也君が殺したって事?美穂がそう言ったのです。桐谷さんも最初は可愛い愛する凛に告るだけのつもりだったが、断られてカ—ッ!となって首を絞めたか、それともABCに発展しようとしたのか分かりませんが、凛が受け入れてくれなくて桐谷さんが凛を殺害して、その一部始終を見ていた達也君が桐谷さんを自殺に見せかけ殺害したってのはどうですか?」
田口はこの話を聞いて、これには疑問が残る。普通は一部始終を見ていたなら桐谷が凛を殺害する前に達也は出て行って凛殺害を阻止する筈だ。凛が殺されかかって、それを黙って見過ごす筈がない。
だから……大樹君が言っていた、桐谷さんが凛を殺害して、その一部始終を見ていた達也君が桐谷さんを自殺に見せかけ殺害したってのは、どうにも腑に落ちない。
この様な桐谷とは何もないのに、他にも洋介をデズニ―シーの海に突き落としたりと、ことごとく邪魔をする達也に堪忍袋の緒が切れた凛は怒り狂っている。
交際している愛する大樹に達也がことごとくデマを飛ばす事に、カンカンに怒っている凛の姿がある。
そうなのだ。凛と達也が夕暮れ時の人気の少ない寂れた商店街の一角で口争いをしている。
「達也いい加減にしなさいよ。もう我慢できない!大樹と私の邪魔ばっかりして……何故私の大好きな大樹にことごとく変なこと言うのよ。もう私に近づかないで!大っ嫌い。もう達也とは絶好よ!」
凛が怒って去って行く。
するとその時後ろから何の前触れもなく達也が凛に覆いかぶさった。凛も空手の有段者だが、不意を突かれて抵抗しようにも抵抗できない。
「何を……何をするのよ?バカな……馬鹿な真似はよして!」
「凛を……凛を……誰にも……誰にも渡したくない。俺……俺……凛の事が……凛の事が……」
そして……強引に凛の唇を奪った。
「…もう……いい加減にして!怒るわよ!」
凛は空手の有段者。何とか達也を振り切り思いっ切り強く達也の頬っぺたを叩いた。
「大っ嫌い!もう二度と私の前に顔を出さないで!」
「うう(´;ω;`)ウッ…わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭」
これは……あの夜の恐喝事件の数日前の事だ。また達也はあの夜の恐喝仲間の1人と親しい関係だった。ひょっとしたらあの夜の恐喝仲間の中に達也も……。
それと……凛を最も恨んでいる事は、自分を唯一頼って甘えてくれる可愛い愛を、自分の都合で上手く丸め込み、理屈にもならない理屈をまくし立て拒否できないように追い込んで強姦させた恨みは大きい。
欲望の権化と化したのはお前だろうが!そんな声が聞こえてきそうだが、それは違う凛に睨まれて致し方なかった。
魅力もない愛を抱きたいなんて思った事もなかった。ただの心の通い合う唯一の友達で妹のような存在だった。その妹を残酷に傷つけさせた凛に強い恨みを抱いている。
*優の場合
それではもう1つの凛が殺害された要因を辿って行こう
何とあの夜のグループの1人が特定された。それは凛の大親友茜の双子の兄優だった。
優は父が再婚した事により継母から酷い扱いを受けるようになった。継母は倹約家で優はろくに小遣いも貰えない状態だった。
こうして…金欲しさに窃盗に手を染めてしまった。その父の再婚相手の連れ子が、何と……今尚行方不明となっている大学生の桐谷正幸だった。
両親が離婚したと言えども通勤時間等々考えるに、両親は職場は共に八王子だった事もあり離婚したと言えども、さほど生活圏は離れていない。
元々桐谷と兄優が義兄弟という事もあり、妹茜は桐谷と顔見知りの関係だった。更には生活圏が近い事もありアルバイト先までが一緒になってしまった。
こうして……桐谷と茜はいつの頃からか、何でも話せる本当の兄妹のような関係になっていた。そして2人は秘かに交際を始めていた。
実は……桐谷は凛も交えての交際が頻繁になって行く中で、茜と距離を置くようになっていた。それはズバリ!凛に気持ちが傾いたからである。
でも……この桐谷も悪い男で、もう茜とチャッカリⅭまで済ませていた。
まだ高校生の茜にすれば、処女まで授けた大切な桐谷が、見る見る離れて凛に近付く姿は耐えられなかったに違いない。
凛と茜の間に微かな溝が出来た事は否めない。その矢先に兄優が起こした窃盗事件を大きくして騒ぎ立てるので2人の溝は収拾のつかない状態になってしまった。
双子というものは普通の兄弟以上に非常に仲が良い。何なら一心同体と言って良いほどの関係だ。そんな兄を犯罪者に追い込む凛は、幾らそれが正しい意見だとしても、茜にすれば絶対に許せない行為。
「今まで散々助けてやったのに……その挙句がこれかよ……」
兄優を犯人として警察に通報したら、茜は幾ら親友といっても凛を恨むであろう。
それは……兄優は張本人だから尚更凛に対して怒りは収まらない。
こうして凛殺害に歯止めが利かなくなり凛は無念の死を遂げる事となる
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