第18話 凛殺害犯?

 


 傷害致死罪の時効は、被害者が亡くなった時点から20年。今年の9月1日午後4時30分時効が成立してしまう。


 警察の余りの怠慢に怒りを通り越して、ましてや優秀な日本の警察がここまでいい加減な捜査を行う裏には何があるのか、ずさん過ぎて反対に勘ぐってしまう田口だった。


(警察が全くやる気を見せないのであれば、独自に犯人を暴き出してやる!)そう誓ったジャーナリスト田口だった。


 ★☆

 それではここで、もう一度凛が殺害された経緯を詳しく追っていこうではないか。

 

 夏休みの終盤に差し掛かった8月28日の夜9時過ぎの事である。塾の帰り道大通りで母が迎えに来てくれるので車を待っている水島凛の姿があると、その時人通りの少ない路地裏の方から男の声が微かに聞こえた。


「タッ助けてくれ―――っ!」


 元来正義感溢れる優等生の水島凛がその路地裏に駆け付けると、数人の若者が自転車に乗った高齢の男性のカバンを奪い、強引に持ち去ろうとしているではないか。


「何てことするの!あなた達待ちなさい。恥を知りなさい。恥を!」


「嗚呼……優等生さんよ。この事を言ったら……この事を言ったら……只じゃ済まないからな!」


「戻って……戻って来て!その盗んだ財布を相手の方にちゃんと渡して!」


「嫌だってんだよ!リ・ン・さ・ん😩」


 その時だ。携帯が鳴ったので携帯を見ると母からだった。


「もう……優君たち……ちゃんと返しなさいよ!」


 茜の兄優たちを尻目に注意だけはしたが、母が待っているので慌ててその場を去った凛。


 それは……当然困った人を見たら放っておけない思いが人一倍強い凛なのだが、それ以上にいい格好しいの凛は、度々この様な場面を親に見せて親の愛を取り戻す事が出来ていた。


 要は寂しがり屋の凛は親の愛情を妹愛に独り占めされて、孤独で仕方がないのだ。


「嗚呼……ゴメン。ゴメン」そういうと車に乗り込んだ。


「どこに行っていたの?」


「嗚呼……おじいさんが財布を盗まれて見ていられなかったので、助けに行っていたの」

 女だてらにと思われがちだが、凛は空手の有段者。少々の男たちが掛かって来ても負けない自信があった。


「凛は本当に正義感溢れる立派な娘で、私はいつも凛を誇りに思っているのよ」

 凛はこうして……また暫くの間母の愛を独占出来る。そう思った。

 

 車は一路家に着いたのだが、今日も早速茜からお誘いの連絡が届いていた。


「親が夜勤だからよろしく」


 家に着くなり夏休みという事もあり準備をして、茜の家に直行した。だが、まさか…これが最後の目撃者が茜になろうとは誰が想像出来ただろうか。


 凛は茜の家に泊まり翌朝の8月29日茜と一緒に朝食を済ませ、コンビニで2人分のプリンと、チョットした駄菓子を買い茜の家に戻った。


 その後、午後4時頃まで夏休みの宿題と受験勉強をして凛は茜の家を出た。それは……茜の家の近所の住人が証言してくれていた。


 だが、その後の消息は全く分からず仕舞いだ。


 そして…3日後の9月1日午後4時30分頃凛が、南浅川河口付近で遺体で発見された。


 こうして「八王子市17歳少女殺害事件」の容疑者として近所に住む学生桐谷正幸が、捜査線上に上がった。その理由は殺害された水島凛と桐谷正幸が交際関係にあったからだ。

 だが、最近は喧嘩が絶えず凛さんが友達に愚痴をこぼしていた矢先の事件だった。


 滅茶苦茶な話だ。桐谷正幸の彼女は凛の大親友茜だ。一体誰がこんなデマを?


「最近は喧嘩が絶えず愚痴をこぼしていた」

 このように証言している友達とは一体誰だったのか?


 完全に桐谷と凛を、恋人同士の痴話喧嘩に仕立て上げようとする意図が見て取れる。

 この友達が凛を殺害した犯人なのではないだろうか?


 実は……この証言者は翔だった。翔と言えば凛の大親友ではないか?

 高校のグループ大樹と翔、更には舞に美穂そして……凛の5人はどこに行くにも一緒だった。その1人が翔だ。


 実は……翔は凛の事を入学して同じクラスになった時からずっと思い続けていた。

だが、凛は大親友大樹とAまで行ってしまった。


 それは……高校2年のゴールデンウイークの時だ。皆でアウトレットモールに出掛けた時大樹が急にいなくなったので探し回ったところ、何と木陰で凛と大樹がキスをしているではないか?


 だが、この一件は後々大問題となって行く。


 ★☆


 桐谷と凛と茜は3人でよく出掛けるが、桐谷と茜が恋人同士で凛は桐谷とはただの友達だ。全く見当違いも甚だしい。


 更には警察が発表した死亡推定時刻が司法解剖を担当した医師の見解と違う。


 水島凛の遺体を司法解剖した東京医○○○大学の医師からは、死亡推定時刻は「8月30日から9月1日」との見解が出されているが、8月30日と31日の2日間桐谷はコンビニのバイトで9月1日は立川の実家で目撃されている。


 だが、なぜか警察は「死亡推定時刻は8月28日の深夜から、遺体が発見された9月1日の午後4時30分頃までの間」と答えている。


 これについてジャーナリスト田口の見解は次のようなものだった。当初医師が示した死亡推定時刻に当てはめると桐谷はコンビニや自宅で目撃されていて、アリバイが成立してしまい犯人は他にいる事になる。


 なぜか、真犯人がいる事を頑なに隠そうとしている警察の意図が見え隠れする。


 そこには一体何があるというのか?


 更には桐谷は、8月29日午前2時の時点で右手に大怪我を負っていた事がわかっている。この右手を診断した医師は、「桐谷の右手は大怪我を負っていたので、運動機能障害があり握力は0の状態で、人間の首を絞めて殺害する事はまず不可能だと思う」と証言している。

 だが、次の日の30日と31日桐谷はコンビニに勤務していたという事は、どう説明がつくのか?

 30日と31日桐谷は左利きなので、この2日間は伝票整理を任されていた。


 それというのも……桐谷は大怪我を負っていたので仕事を休むと伝えてあったが、「どうしても来て欲しい!」と呼び出されてしまった。


 あってはならない事だが、公共料金の支払いでアルバイトの子がポカしたので、急きょ呼び出しがかかった。その対応で予想以上に時間が掛かった。また……右手を怪我していて思うように働けないので、優秀な桐谷がこの2日間新しく入って来たアルバイトの新人教育を任されていた。




 いくら左手は自由に使えたからと言って……この様な状態で首を絞め水島凛さんを殺害して、橋の下に突き落とす事ができたのか?この点からも別の真犯人の存在が疑われている。

 

 警察の対応がいかにずさんだったのか分かる一幕だ。この様ないい加減な事を、何故警察たるものが発表したのか?窮地に立たされて無理くり辻褄を合わせた感が否めない。 


 ★☆

 それではもう1つの凛が殺害された要因を辿って行こう

 何とあの夜のグループの1人が特定された。それは凛の大親友茜の双子の兄優だった。

 優は父が再婚した事により継母から酷い扱いを受けるようになった。継母は倹約家で優はろくに小遣いも貰えない状態だった。


 こうして…金欲しさに窃盗に手を染めてしまった。その父の再婚相手の連れ子が、何と……今尚行方不明となっている大学生の桐谷正幸だった。


 両親が離婚したと言えども通勤時間等々考えるに、両親は職場は共に八王子だった事もあり離婚したと言えども、さほど生活圏は離れていない。


 元々桐谷と兄優が義兄弟という事もあり、妹茜は桐谷と顔見知りの関係だった。更には生活圏が近い事もありアルバイト先までが一緒になってしまった。


 こうして……桐谷と茜はいつの頃からか、何でも話せる本当の兄妹のような関係になっていた。そして2人は秘かに交際を始めていた。


 実は……桐谷は凛も交えての交際が頻繁になって行く中で、茜と距離を置くようになっていた。それはズバリ!凛に気持ちが傾いたからである。


 でも……この桐谷も悪い男で、もう茜とチャッカリⅭまで済ませていた。

 まだ高校生の茜にすれば、処女まで授けた大切な桐谷が、見る見る離れて凛に近付く姿は耐えられなかったに違いない。


 凛と茜の間に微かな溝が出来た事は否めない。その矢先に兄優が起こした窃盗事件を大きくして騒ぎ立てるので2人の溝は収拾のつかない状態になってしまった。


 双子というものは普通の兄弟以上に非常に仲が良い。何なら一心同体と言って良いほどの関係だ。そんな兄を犯罪者に追い込む凛は、幾らそれが正しい意見だとしても、茜にすれば絶対に許せない行為。


「今まで散々助けてやったのに……その挙句がこれかよ……」


 兄優を犯人として警察に通報したら、茜は幾ら親友といっても凛を恨むであろう。


 

 ★☆

 それでは事件の経緯を紐解く上でも、関係性を把握しておかなければいけない。

 何故恋人でもない凛と大学生の桐谷正幸を、彼氏に仕立て上げなければならなかったのかという事だ。


 ジャーナリスト田口は考えた。すでに桐谷も亡くなっている可能性は大だ。もう2人共々この世にいないので田口なりに推測してみた。それは……顔の見えない恐ろしい犯人が、どうしても2人が邪魔だったので消したかったからではないだろうか?


 そこで考え出されたのが、同じバイト先も一緒だった2人を恋人同士と偽って後追い自殺に見せかけて殺害した。


 確かに田口の考えは的を得ているかも知れない。


 ★☆

 だが、今現在も桐谷は見付かっていない。


 一体どこに消えたのか?



 

 








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