第17話 凛の命を奪った犯人は誰だったのか?



 村本清という男に接して見て分かった事は、村本はいくつもの顔を自由自在に使い分ける事が出来るカメレオンのような男なのではなかろうか?


 田口は清という男の外見は一見爽やかな善良な市民のお手本のような男だが、実は奥底に潜む闇がそこはかとなく深い恐ろしい男なのではと勘ぐっている。


 亜美を心から愛していたのも噓ではない。

 また少女たちを意図的に夢中にさせて、その挙句金を貢がせてもなんとも思わない冷淡さも併せ持つ残酷な男だと言う事だ。


 更には妻泉の死の原因は、「直美が意図的に妻泉を殺害したのではないだろうか?」と言っているが、果たしてそれはそうなのだろうか?


 ギャンブル依存症で首が回らなくなった清が、お金を絞り出せなくなったので子供まで宿してしまった直美が邪魔になり犯人に仕立て上げ、金がすっからかんになり底を付いた泉を殺害させて、更には自分の手で直美とお腹の赤ちゃんにまで手を下したという事は十分に考えられる。


 ギャンブル依存症で首が回らなくなった清は、もう金を絞り出せないと分かると、あの手この手で少女たちを操り殺害に加担させ闇に葬り去り、自分だけは善良な先生を演じていたのではなかろうか?


 まさに死人に口なしとはこの事だ。

 村本清という男は、まさに幾つもの仮面を持った恐ろしい男なのではないだろうか?


 

 ★☆


 中学の時のグループの中の1人で、高校になってもグループ交際が続いていた女の子で、さくらという生徒の話で分かって来たことだが、とんでもない事実が判明した。


「だって……先生は学校で一際目立っていたわ。そして…輝いていたわ。身長が高くて足が長くて顔は爽やかイケメンだったから、中学生の私達からしたら憧れの的だったの。ましてや女子校だったから、皆先生に集中していたわ。そして……延々と長きに渡りグループ交際が続いて行ったわ。そして……高校大学と個人的に先生と深い関係になった子も何人かいるらしいのよね」


「ギャンブル依存症という事は女子生徒からお金を貢がせていたって事?」


「先生が付き合っていた子は皆金持ちのお嬢様が多かったわ」


「じゃあ君……亜美ちゃんて子知っている?」


「嗚呼……有名な子だった。それはそれは評判の美人だった。ましてやお金持ちだし。だって……おじいさまが「日の丸製薬株式会社」社長だって聞いたわ」


「ってことは先生が付き合った子は大概お金持ちのお嬢様って事?」


「ハイ!そう思います」

 だが、田口が調べていく内に新たな事が判明して来た。実は……このさくらという女性は現在は50代中半だ。そして……何と……あの清の子供を妊娠した直美の大親友であったことが分かって来た。


 という事は……直美が行方知れずでどこにいるか知っている筈。


 もしかしたら……清に殺害されている可能性も捨てきれない。

 

 ★☆

 あの夜凛の母泉がベランダから落下して車に正面衝突して亡くなった日に何が行われていたのか?

 そう……あの夜中学校の教え子たちが数名村本邸に足を運んでいた。そこで事件は起きた


 あの夜妻泉と3歳になったばかりの凛それに清、更には直美がいたが、他にもいた。それは亜美と3歳の大樹だった。


 実は……父清はギャンブル依存症だった。これが原因で生徒たちが悲劇に見舞われる事となった。


 この時亜美は直美に言い放った。


「私は先生が困った時には、いの一番にお金を用立てて先生を助けて来たの。直美さん、あなたは……あなたは……何が出来たっていうの?」


 これは直美の友達さくらの証言だ。あくまでも憶測でしかない。

 

 この話からも分かるように、凛の母泉がベランダから階下に落下したあの夜、金銭面で大揉めしていたことが伺える。


 このような付箋があり、刻一刻と凛の死のカウントダウンが近付いている。 


 ★☆

 

 夏休みの終盤に差し掛かった8月28日の夜9時過ぎの事である。塾の帰り道大通りで母が迎えに来てくれるので車を待っている水島凛の姿があると、その時人通りの少ない路地裏の方から男の声が微かに聞こえた。


「タッ助けてくれ―――っ!」

 

 元来正義感溢れる優等生の水島凛がその路地裏に駆け付けると、数人の若者が自転車に乗った高齢の男性のカバンを奪い、強引に持ち去ろうとしているではないか。


「何てことするの!あなた達待ちなさい。恥を知りなさい。恥を!」


「嗚呼……優等生さんよ。この事を言ったら……この事を言ったら……只じゃ済まないからな!」


「戻って……戻って来て!その盗んだ財布を相手の方にちゃんと渡して!」


「嫌だってんだよ!リ・ン・さ・ん😩」


 それではあの夜高齢の男性のカバンを奪い、強引に持ち去ろうとしていた犯人は誰だったのか? 

 

 何とあの夜のグループの1人が特定された。それは凛の大親友茜の双子の兄だった。


 茜は確か2人家族で母子家庭だった筈。という事は双子の兄優は父に引き取られたことになる。それでも茜と優はせめて高校だけでも一緒になりたいと思い、必死で頑張り難関校に合格していた。


 そんな優が何故窃盗まがいの事件に手を染めてしまったのだろうか?


 実は……優は父に引き取られたのだが、両親が離婚した時期が丁度多感な中学1年生の時だった。


 優は父が再婚した事により酷い扱いを受けるようになった。継母は倹約家で優はろくに小遣いも貰えない状態だった。


 こうして…金欲しさに窃盗に手を染めてしまった。その父の再婚相手の連れ子が、何と……今尚行方不明となっている大学生の桐谷正幸だった。


 両親が離婚したと言えども通勤時間等々考えるに、両親は職場は共に八王子だった事もあり離婚したと言えども、さほど生活圏は離れていない。


 元々桐谷と兄優が義兄弟という事もあり、妹茜は桐谷と顔見知りの関係だった。更には生活圏が近い事もありアルバイト先までが一緒になってしまった。


 双子で兄思いの茜は、この頃丁度兄と顔を合わせれば継母の愚痴を聞かされて心を痛めていた。


 そこで……偶然にもアルバイト先が一緒だったので心配になり、何故兄優と継母が上手くいかないのか聞いてみた。


「正幸君ちょっといい?優が言うにはあなたのお母さんが優に辛く当たるってのは本当?」


「それは考え過ぎだよ。俺の家は父を早くに亡くしているから、質素倹約が当り前。でも……優は両親共働きで豊かな生活が当り前じゃないか?だから……金銭面で優君は不満なんじゃないかなぁ?」


 どちらにも言い分があるので、ひいきは出来ないが、それでもあの時代にゲーム機も買って貰えないようでは、友達付き合いにも悪影響が出るというもの。


 1990年には任天堂株式会社よりファミコンの後継機種「スーパーファミコン」が発売、圧倒的に進化した画質で当時の子供はビックリして、どこの学校でもスーファミの話題で一色だったのではないだろうか?


  優君が中学生の頃だった2000年代は任天堂vs SONYの2強時代に突入して、2000年には、プレステの後継機種「PlayStation2」が発売、翌年の2001年には「ニンテンドーゲームキューブ」「ゲームボーイアドバンス」が発売と、任天堂 vs SONYの熾烈な2強時代に突入していた。


 ★☆


 この茜と双子の兄優は共に凛と同じ八王子市にある、桜台学園高等学校の生徒である。

 凛はあの夜こう言っていた。

「優私茜に言うわよ。それでもいいの?さっさと財布を男性に返しなさいよ」


 こうしてあの夜のセリフ「嫌だってんだよ!リ・ン・さ・ん😩」が出た。

 凛は確かに正義感もあるが、自分が周りからよく思われたいが為に、正義感を振りかざすことも往々にしてある少女だった。


 この後話は決着を見たのか……凛は母の車で帰路に付いている。


 凛は確かに塾の帰り母に迎えに来てもらい家路に付いたが、その後夏休み最後という事もあり友達と一緒に宿題をやりたいからと茜の家に行った。


 茜の家は母子家庭だったので寂しい茜は、看護師の母が夜勤の時はよく凛を誘っていた。凛も家にいるのが嫌だったらしく何かと口実を付けて外泊していた。



 ★☆


 桐谷と茜はいつの頃からか何でも話せる本当の兄妹のような関係になっていた。

そして2人は秘かに交際を始めていた。別に本当の兄弟じゃないので結婚もありだ。


 だが、ここに凛も加わった。そこで凛と茜の間に微かな溝が出来た。その矢先に兄優が起こした窃盗事件を大きくして騒ぎ立てるので2人の溝は収拾のつかない状態になってしまった。


 双子というものは普通の兄弟以上に非常に仲が良い。何なら一心同体と言って良いほどの関係だ。そんな兄を犯罪者に追い込む凛は、幾らそれが正しい意見だとしても、茜にすれば絶対に許せない行為。


「今まで散々助けてやったのに……その挙句がこれかよ……」


 兄優を犯人として警察に通報したら、茜は幾ら親友といっても凛を恨むであろう。


 

 ★☆

 それでは事件の経緯を紐解く上でも、関係性を把握しておかなければいけない。

 何故恋人でもない凛と大学生の桐谷正幸を、彼氏に仕立て上げなければならなかったのかという事だ。


 ジャーナリスト田口は考えた。すでに桐谷も亡くなっている可能性は大だ。もう2人共々この世にいないので田口なりに推測してみた。それは……顔の見えない恐ろしい犯人が、どうしても2人が邪魔だったので消したかったからではないだろうか?


 そこで考え出されたのが、同じバイト先も一緒だった2人を恋人同士と偽って後追い自殺に見せかけて殺害した。


 確かに田口の考えは的を得ているかも知れない。


 そこで考えられる犯人。


 実は……桐谷は凛も交えての交際が頻繁になって行く中で、茜と距離を置くようになっていた。それはズバリ!凛に気持ちが傾いたからである。


 でも……この桐谷も悪い男で、もう茜とチャッカリⅭまで済ませていた。

まだ高校生の茜にすれば、処女まで授けた大切な桐谷が、見る見る離れて凛に近付く姿は耐えられなかったに違いない。


 ※恋愛ABC:「A(キス)」、「B(ペッティング)」、「C(エッチ)」という男女交際において体の関係を持つまでの流れを表すワード。



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