第16話 ギャンブル依存症


 1984年にレスター大学の遺伝学者アレック・ジェフリーズが、科学雑誌『ネイチャー』に論文を発表した。それは次のようなものだった。DNAで「個人の特定ができる」この様に説いた。

 

 この発表により、DNA型鑑定は個人特定の切り札として飛躍的に発展していく。 


 ⁂

 愛人登紀子の娘由美子は自分は絶対に父太蔵の子だと思って疑わなかったのに、太蔵の「容態」が日ごとに悪くなっている今日この頃、本妻美代子の思いもよらない暴言と言い掛かりに怒り心頭である。


「私はね、ここで提案したいのです。由美子さんが誕生した頃DNA鑑定は出来なかったわよね。私と夫太蔵にはとうとう子供は出来ませんでした。それでね……私にも原因があるのか、あちこちの病院で診てもらいましたが、私に異常は見つかりませんでした。そんな時に……登紀子さんあなたが太蔵の子を身籠ったと聞いて……ずっと疑問に感じておりました。だから……太蔵の子である事を立証するためにも一度DNA鑑定を要求します」

 

 それでは何故このような問題が起きたのかという事だ。


 実は……太蔵は妻美代子との間に、とうとう子宝に恵まれなかったが、その理由は太蔵が患っていた病名「造精機能障害」これが原因だった。


 ※造精機能障害:精子を作る機能に障害があり、精子濃度や運動率といった精子の機能が弱まってしまう状態のこと。 精子の機能が弱まることで、自然妊娠が難しくなり、人工授精や体外受精、顕微授精をすることになる。


 それでもどうしても子供が欲しかった太蔵は漢方薬やビタミン剤、抗酸化剤などを用いる薬物治療を行ったが、とうとう美代子との間には子供は出来なかった。


 だがどういう訳か、愛人との間に由美子が誕生した。 太蔵と血液型が一致したから親子と見なされたが、どうも怪しい。ハッキリ言って正確性に欠ける。そこで本妻美代子がDNA鑑定を要求して来た。これなら99,999%立証できるのだ


 由美子が誕生した1950年当時は当然の事ながら「DNAで個人の特定ができる」という事はなかった。


「美代子さん人を侮辱するのも大概にして下さいね。それって……まるで私が他の相手との間に由美子が生まれたのに、嘘をついて太蔵さんの子だと言っているという風におっしゃっているようにしか思えません。失礼な!絶対に太蔵の子です」


「そんなに自信がお有りならDNA鑑定を行って下さいよ。そうすれば疑念が晴れます」


「太蔵さん可愛い由美子を侮辱されて……何とか言って下さいよ」


 妻美代子が大樹を次期社長にと切に願っているが、実は太蔵も大樹に次期社長の座を譲りたいと切に願っていた。


 その理由は、由美子の子は女の子で、亜美の子は男の子という事も多分にあるが、大樹だけは絶対に自分の子だという確証がある。高校生の純粋な亜美にそのようなハレンチな男がいる筈がない。だが、愛人の登紀子はホステス時代太蔵の他にも男がいた。だから……由美子が自分の子かどうかという疑念はずっと持ち続けていた

 

 この様なことからDNA鑑定には、愛人登紀子が随分反発したが、最後には折れてDNA鑑定が行われた。

 

 すると……なんとその結果由美子は太蔵の娘では無い事が判明した。


「全くお前という女は酷い女だ。よくも長年嘘をついて来れたものだな。さも由美子はワシの娘だと大芝居をしてくれたわ。許せぬ!」


「そうは言っても……私はあなたに長年身も心も捧げて来ました。それはどうしてくれるのですか?私だってあなたとこのような関係になっていなかったらチャンと結婚も出来ていたのに……私の人生を返してください!」 

 

 まあそうは言って見たものの散々尽くしてくれた愛人登紀子を今更捨てる訳にもいかず。どっちもどっちという事で、結局愛人登紀子と由美子の現状は変わらず仕舞い。由美子の夫で亜美の父誠が大樹が社長職を継ぐことになるまで続行する事になった。



 このショックで太蔵は寝込んでしまった。そして絶対に大樹に社長の座を譲ると書面に一筆書き留めて急遽入院してしまった。今まで娘だと思い込んでいたのにそのショックたるや相当のものだった。


 だが、美代子の方はとても納得できない。この噓つき女登紀子一同を追い出したいばかりだ。

「もう、あなた達さっさとこの家から出て行きなさいよ!」

 

 すると最後の一撃が由美子から返って来た。

「何よ!私たちばかり恥かかされて……じゃあ大樹もDNA鑑定しなさいよ」

 

「あなた達滅茶苦茶なこと言わないで、大樹のDNA鑑定の意味が分からない?大樹は亜美と結婚した稔さんの子供に決まっているわ。何で今更DNA鑑定しなくちゃいけないの」


「じゃあ言うけど……第一赤の他人亜美の子供に何で跡を継がせる話が出るのよ。おかしいでしょう?ひょっとしたら……太蔵の子?」


「もう下品な方ね。貞操観念が低すぎ。何でこんな老人が孫に手を出すの?考えてごらんなさい。もう……頭に来た。亜美ちゃん、大樹もDNA鑑定させて頂だい。もうこの際だからハッキリしましょう」

 

 こうして大樹もDNA鑑定が行われた。

 その結果、大樹の父は太蔵ではなく、何と亜美が恋焦がれていた先生清の子供である事が判明した。

 

 当然の事、亜美が極秘裏にDNA鑑定を行った。

 


 ★☆

 亜美はビックリした。てっきり大樹は太蔵の子だと思っていた。

そこで清に連絡を取った。


 そして……検査に使うサンプルとして、歯ブラシや髪の毛、タバコの吸い殻などを清から徴収して極秘にDNA鑑定を行った。


 すると大樹は清の子供であることが立証されてしまった。だが、夫稔は人一倍嫉妬深いし、疑り深いだから……若い頃の過ちとして清に大樹が清の子供であることは伝えて清とは連絡は一切絶った。



★☆

田口は新たな情報を入手した。

それは村本先生の事だ。モテモテ男清先生には別の顔があった事が判明した。

田口は村本清という男は生徒のアイドル的存在だった事は否めないが、何故先輩先生の妹泉がいながら、更にはマドンナ的存在の亜美がいながら、直美や他の少女たちとも付き合う必要があったのか徹底的に調べた。


 すると……それも……中学の時のグループの中の1人で高校になってもグループ交際が続いていたが、その中の1人さくらという生徒の話で分かって来たことだが、とんでもない事実が判明した。


 さくらが言うには「村本先生はギャンブル依存症だった」というのだ。


 こうしてお金持ちのお嬢さんを見つけると、深い関係になって行ったらしいというのだ。

「だって……先生は学校で一際目立っていたわ。そして…輝いていたわ。身長が高くて足が長くて顔は爽やイケメンだったから、中学生の私達からしたら憧れの的だったの。ましてや女子校だったから、皆先生に集中していたわ。そして……延々とグループ交際が続いて行ったわ。そして……高校大学と個人的に先生と深い関係になった子も何人かいるらしいのよね」


「ギャンブル依存症という事は女子生徒からお金を貢がせていたって事?」


「先生が付き合っていた子は皆金持ちのお嬢様が多かったわ」


「じゃあ君……亜美ちゃんて子知っている?」


「嗚呼……有名な子だった。それはそれは評判の美人だった。ましてやお金持ちだし。だって……おじいさまが「日の丸製薬株式会社」社長だって聞いたわ」


「ってことは先生が付き合った子は大概お金持ちのお嬢様って事?」


「ハイ!そう思います」


 ★☆

 あの夜凛の母泉がベランダから落下して車に正面衝突して亡くなった日に何が行われていたのか?

 そう……あの夜中学校の教え子たちが数名村本邸に足を運んでいた。そこで事件は起きた


 あの夜妻泉と3歳になったばかりの凛それに清、更には直美がいたが、他にもいた。それは亜美と3歳の大樹だった。


 実は……父清はギャンブル依存症だった。これが原因で生徒たちが悲劇に見舞われる事となった。


 そのギャンブルにハマったのが大学生の頃からだった。一度大当たりしてその時の興奮が忘れられなくてギャンブル狂になってしまった。


 だから……ギャンブルと名が付くものには目がない。


 パチンコ、競艇、競輪と何でもござれだ。それでも学生の頃はこんなギャンブル依存症でも親が裕福だったので、全て尻拭いをしてくれていたが、社会人になったらそうはいかない。


 父清は泉と結婚した理由はギャンブル依存症でも、それを受け止め返済してくれる力が泉にあったからなのだろうか?


 こうして取り返しのつかない事件が起きた。



 

 


 




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