第5話 直美という女
元警視庁心理捜査官の経歴を持つジャーナリスト田口は、この事件には心理的な底深い闇が隠されていると直感した。だからこそ、この事件を題材に徹底的に調べ上げて記事にしようと思い立った。
(この事件を解決するには凛という少女の過去を徹底的に洗い潰さないといけない)
ジャーナリストとは、新聞、雑誌など、あらゆるメディアに報道用の記事や素材を提供する職業であるが、それ以前にジャーナリストとして、この事件をうやむやに闇に葬ろうとする警察の言動に不信感を拭えなかったからだ。
人間の心の奥底の闇、心の葛藤が見え隠れする事件であることは間違いない。
そこで田口は徹底的に水島凛の生い立ちを探った。
そして……過去を追っていく内に最初の壁にぶち当たった。それはどういう事かというと、実父がいながら何故姉夫婦に引き取られたのかという事だ。
幾ら養父母が子宝に恵まれずに困り果てていて、妹泉の忘れ形見凛を実子にと切望したところで、今現在も父清は健在だ。普通だったら可愛い我が子を父清が絶対に渡す筈がない。
あれだけ愛していた娘凛を何故父清が引き取らなかったのか?
それから……清は5年前に60歳の校長職退職と同時に、富山県魚津市の片田舎で不登校支援施設ひまわりの塾長として働いているのだが、何故東京都出身の清が地方に引っ込んだのか?
分からない事だらけである。早速ジャーナリスト田口は村本清の元に向かった。
★☆
魚津市は春先から初夏にかけて富山湾に現れる幻想的な蜃気楼は有名で、海沿いの「しんきろうロード」では、シーズンになると一目見ようとたくさんの観光客の車で賑わう。
また春の到来を告げる「海からの使者」として有名なほたるいかは魚津の名物といわれ、3月下旬から沖合いに姿を現す。幻想的な青白い光は、なかなか人工では作れない柔和で清らかなミルキー・ブルーで、一度目にすると、ずっと心に残る色。
そんな綺麗な海と山が拝める、魚津市の不登校支援施設ひまわりに到着した田口は、早速庭園にいた生徒らしき14歳くらいの子供に声を掛けた。
「嗚呼……君……ここで働いている村本清という先生に会いに来たのだけれども、今先生はどこにいらっしゃるか分かるかい?」
「嗚呼……塾長の事だね?僕が連れて行ってあげるよ」そう言うと裏庭に連れて行ってくれた。そこには犬と戯れる清がいた。
この「不登校支援施設」ひまわりでは、子供たちに動物と触れ合い、動物と接する事で命の尊さや優しさを生み出すために、数年前から数頭の犬を飼育していた。
「嗚呼……村本塾長ですか?僕は元警視庁捜査官の経歴を持つジャーナリストの田口と申します。何故こちらに足を運んだかと申しますと……村本さんのお嬢さん凛さんの犯人がまだ捕まっていませんが、初動捜査から見ても……本当に犯人を捕まえようという意思が非常に希薄に感じます。それから……犯人と言われているあの当時学生で恋人の桐谷正幸君が犯人だと言われていますが、どう見ても犯人というには無理があります。そこでお父様に詳しいお話を聞きたくて伺ったのです」
「僕も……凛が亡くなったと聞いてとても許せない気持ちで一杯でした。あんな良い子がううっ(´;ω;`)ウッ…本当に許せません!」
こうして応接室に通された田口。
するとふくよかで優しそうな用務員さんがお茶を運んで来てくれた。
さっきまで何人かの子供達とすれ違ったが、どこか虚ろで覇気のない子供達に重い気持ちを隠し切れなかった田口だったが、何か……ふくよかな如何にも肝っ玉母さんの様な、優しさに満ち溢れた用務員のおばさんを見て少しほっとした。きっと親元から離れて寮生活を余儀なくされている生徒たちの、お母さん的存在なのだろうと直感したのだが、その用務員さんが笑顔でお茶を運んで来てくれたので、これから塾長と話す内容が余りにも殺伐とした会話になる事が予測されるので、田口も救われた思いがした。
「本当に凛が亡くなったと聞いてショックでショックで、あの日の事は今も忘れません」
「そうなんですよね。何故あのような事件が起こってしまったのか、今尚謎だらけの事件です。そこで……僕が調べた結果凛さんの高校時代のグループ交際のお友達大樹君、翔君、舞さん、美穂さんとあと1人達也君がいましたが、この中の大樹君の父親が警視庁の警視監 だったのです。かなりの大物で引っ掛かっているのですが、もし……このグループ内に犯人がいるとしたら……大樹君ではなくても……他の子をかばってという可能性だってあります。第一あの当時大学生だった桐谷正幸君が犯人で有る事は極めて低いのに、当時の警察は無理に桐谷君を犯人に仕立てようという意図が見て取れました。その挙句……20年間誰も桐谷君を見たものはおりません。それこそ……海外へ逃避行でもしていれば別ですが?多分……死んでいる可能性が……」
「そもそも……凛をどんな事をしても私がこの手で連れて行けばこんな事件は起きなかった。ううっ(´;ω;`)ウッ…私もあの時は……あの時は……何としても凛を引き取ろうとしたのですが、うう(´;ω;`)ウッ…ウウウッ…あの時……生徒の直美という子が……自殺未遂騒動を起こしまして……うう(´;ω;`)ウッ…それが元で姉夫婦と亀裂が生じまして……」
「それはお気の毒でした。一体あの時……何が起こったのですか?」
「それが……うう(´;ω;`)ウッ…それが……うう(´;ω;`)ウッ…あのですね……うう(´;ω;`)ウッ…私と直美が抜き差しならぬ関係になった事で、揉めに揉めて、最終的にあの日、妻泉と直美それに僕の3人で話し合いが持たれたのです。泉は最終的に『もう許せないから別れる!』と言ったのです。ですが……ですが……僕が妻と娘凛とは絶対に別れたくなかったので直美を説得したのです。すると直美がベランダに出て『今ここから落ちて死にます』と言ったのです。私と妻は折角買ったマンションから縁起でもないそんなことは絶対にあってはならぬ事。必死に引き留めたので御座います。その時泉がマンションから階下に落ちたので御座います。そこに車が正面衝突して泉は即死でした」
「おかしいですね?奥様が落ちた原因が全く理解できません。『落ちて死ぬ!』と言ったのは直美さんの方なのに……何故奥様の泉さんが落ちたのか?」
「……そうなんですよね?それから……夜だった事もあり妻泉は階下に落ちた時は意識がございました。木にバウンドして落ちたので軽症で済んだのです。要は木がクッション変わりとなったのです。私どものマンションは5階だったのですが、立ち上がった時に車が正面衝突したのです。まあだから……交通事故ということになります。ですが……私は腑に落ちなかったのです。何故あんな高いベランダの柵から落ちる事になってしまったのか?私はあの事故は直美が打った大芝居だったのではないかと思っています。それはどういうことかと申しますと……私と一緒になりたいが為に自殺すると脅かして、私ども夫婦をベランダにおびき寄せて……あの時は……大暴れしていましたから……ううっ(´;ω;`)ウッ…わあ~~~ん😭わあ~~~ん。泉を……泉を、あの直美が落としたのではと勘ぐってしまうのです…ううっ(´;ω;`)ウッ…あんな小柄な妻が何故?わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭」
「本当にそうですよね?ところで……直美さんの身長はどのくらいですか?」
「167㎝です。何故知っているかというと、直美が服を買ってやる時に身長を教えてくれたのです。ミニスカートだったので会うのを探していた時に聞きました。一方の泉は155㎝です。ですから……ですから……うう(´;ω;`)ウッ…でも私は警察には言えませんでした。泉を失い……うう(´;ω;`)ウッ…情が沸いてしまった直美まで失う事が出来なかったのです。それでも……それでも……心の中では直美に対する不信感で一杯でしたが、その直美も私の子供を身ごもり…うう(´;ω;`)ウッ…忘れようあれは絶対に事故だったと思って、無理にでもそう思うようにしたのです。直美は私には本当に尽くしてくれましたから……こうして子供の誕生を指折り数えて待っていましたが、わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭きっと……きっと……罰が当たったのでしょうね。子宮破裂が生じて胎児と母体も出血多量となり2人とも亡くなったと、ずっと思っていましたが、どういう理由からか急に私の前から姿を消しまして……どうも家族に思いもよらない不幸がありまして……故郷に帰ったそうなのです。うう(´;ω;`)ウッ…でも……でも……折角子供の誕生を指折り数えて待っていたのに……一体どうしたというのでしょうね?もう日本にいないので……もう直美の事は追及しないで下さい。うう(´;ω;`)ウッ…この様な理由から姉夫婦が暴れたのです。妹を散々苦しめ生徒に手を出した最低な男になんか凛を絶対に渡せないってね。それで……僕もいつ帰って来るかも知れない直美がいましたので……もうそれ以上言えなくて……凛を引き渡してしまったのです。うう(´;ω;`)ウッ…」
この直美は何故姿を消したのか?確かに…直美らしき少女がいた事は確認は取れたが、名前も全く違っているし……更には妊娠した形跡も残っていない。
まあ人によっては出産直前まで気づかない人や、妊娠5~6カ月になって、やっと妊娠に気付く人もいるので診察結果カルテがないから妊娠していなかったとは言えないが?
ましてや直美は日本にいないとはどういう事?
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