第4話 東京デズニ―ランド


 

 凛は近所の達也とは大の仲良し。

 だが、大人しい性格の達也はよく虐めの標的にされていた。


 あれは確か凛が八王山小学4年生の時の事だ。4年生は3組有って松組、竹組、梅組に分かれていて近所の同級生で達也は松組で凛は梅組だった。


 そんな時に達也が酷いいじめに遭い、冷やかしや、からかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる。例えば机に豚と落書きを書かれたり、外でのドッジボールの仲間外れにされたり、集団による無視をされる等々。最近は一層虐めが酷くなり、強くぶつかられたり、叩かれたり、蹴られたりする状態が続いている。


 そんな時に松組で誰かが虐められていると聞いた凛は、(これは達也のクラス……ひょっとしたら?)そう思い松組に一目散で駆け付けた。


 すると案の定達也が皆からキックされたり蹴りを入れられたりして、床に倒されていた。

「君たち何しているの?達也立ちなさい」そう言って達也を松組から救い出そうとした。


「フン!優等生さんよ……良い恰好しいのリ・ン・さ・ん……他組のお前が出しゃばり過ぎだって—の!サッサと達也の手を放して自分の組に戻りな!」


「コノヤロウ!私は両親が学校の先生だから教育委員会に訴えてやるからな——っ!」

 

 とうとうボス的存在の健司が「ううん💢……ううん💢クッソー!ここは引き下がるしかないか。嗚呼……ゴッゴメンナサ——イ!」


「もう達也を虐めたら承知しないからね!」


 するとその時、余りに達也に肩入れする凛に、またしても健司が言い放った。


「お前ら出来てるな!」


 「お前ら出来てるな!」の意味なんか何にも分かっていないが、例え意味が分からずとも男の子と女の子が仲良く話をしているという意味で、この学校ではチョット男の子と女の子が話しているだけでも「お前ら出来てるな!」というのが口癖になっていた。要は思春期特有の異性と仲良くしている生徒へのやっかみも入っているのだ。


 まだ小学4年生くらいだと深い意味までは理解していない。


 すると……他の悪ガキどもも「お前ら出来てるな!」と一斉に言い出した。


「ヒューヒュー」


「お前ら出来てるな!」


「お前ら出来てるな!」の合唱になってしまった。

 

 ※「出来てる」:恋人関係が出来てる。「もう(エッチ)やってる」。二人の仲が出来上がってる(完熟)している。


 お転婆な凛が黙っていられる訳がない。

「もうあったまに来た!」


 そう言うとボスの健司に「エイヤー」と言って蹴りを入れた。するとその蹴りの破壊力の凄さに”バタン”と崩れ落ちた。


 健司は怖くなって逃げた。

 ★☆


 凛と達也は幼少期から非常に仲が良かった。

 今までも当然2人の間の力関係は凛が一歩リードしていたが、あの日虐められていたのを救ってもらって以来、一段と力関係に大きな差が開いた。


 完全に凛のパシリとなった達也。 そんなパシリとなってしまっても達也はそれでも……やはり凛と同じ市立中学に通い出した。


 いよいよ本格的な思春期到来(子どもが大人へと成長するための移行期間を指し、8歳頃から17、18歳頃までの時期)社会性が成長して親よりも友達優先に移行する時期だ。


 美しく成長した凛は八王山中学のマドンナ的存在だ。

 だが、成績優秀で両親は共に先生で、おまけに超美人の凛には普通の男の子は高根の花過ぎて近づけない。


 それでも……いつも一緒にいる達也に男子生徒は驚きを隠せない。成績もパッとしない。ルックスも普通の達也が何故我が校のマドンナ的存在の凛の側に、付かず離れずいられるのか不思議で仕方ない。


(それこそ……達也では嫉妬にも値しない。何故?何故?何故?全く釣り合わないでしょう?)


 多くの凛ファン、凛信者達は、この奇怪な到底カップルとは思えない歪な2人の関係に興味津々。


 そこで野郎の1人が興味本位で達也に聞いた。


「お前ら全く釣り合わないが……カップル?」


 すると達也が答えた。

「凛と俺はそんな関係じゃないんだ。そんなこと言ったら凛ちゃんに空手の技掛けられて入院しなきゃいけなくなるんだ。全くそんな関係じゃないね」


 この言葉を聞いた男子たちは、達也を返して「凛に手紙を渡して」だとか「今度達也も交えて凛ちゃんとデズニ―ランドに行く約束取り付けてよ」とまあこの様に達也は凛ちゃんとお近づきになる窓口的存在となって行った。


 ★☆

 今日は野郎3人と凛ちゃんでデズニ―ランドに出掛ける日だ。


 凛と達也は近所なので一緒に最寄りの駅まで出掛けた。こうして後の2人の男子生徒2人の4人で東京ディズニーランドに向かった。


 そして……目的地の東京ディズニーランドに到着した。だが、早速凛が達也に頼みごとをしている


「達也お茶買って来て。嗚呼……疲れたので……この手提げ袋も持って頂だい」


 もうこんな関係が2人の仲では当たり前になっていた。まさしく女王様と使用人。奴隷。

 それでも……達也は自分だって鞄を持って重いのに、お茶買いに走らされ手提げ袋まで持たされ気の毒な位だ。その理由は自分がまたいつ虐めに遭うか分からないので、凛という強い味方を付けて置きたいのは分かるが、どう見てもこれは行き過ぎだろう。


 これでは奴隷ではないか!


 達也は心の奥底に幼い頃から、いつも女王様気質の凛の存在があった。

(例え叶わない恋でも……いつも一緒にいれるだけで良い)竹馬の友達也には随分昔からそんな思いがくすぶり続けていた。


 確かに2人の関係は女王様と奴隷かも知れない。

「分かったよ」

 

 達也はその時すでに凛の手提げ袋も持っていた。それなのにその手提げ袋も持ってお茶買いに出かけた。どう見ても……端から見ても女王様と奴隷ような関係だ。


 ★☆

 色んなアトラクション巡りをして最後に4人はお化け屋敷に入った。


 その時凛ともう1人洋平が2人でお化け屋敷に入り、いつまでも出て来ない時間があった。実は……洋平は成績も優秀でチョットだけイケてる少年だった。


(凛ちゃんはあんな冴えない達也にでも心を許して友達になっている。俺の方が達也より勉強だって出来るし、スポーツだって俺の方が出来る。この際だから凛ちゃんとお近づきになりたい)


 洋平は凛が4人での東京ディズニーランド行きをOKしてくれた時から、絶対に凛ちゃんを自分の者にと考えてやって来た。


 わざと2人切りになれる隙を狙っていた。


 そして……わざと2人をけむに巻いてお化け屋敷の暗闇で、凛が怖がった所を抱きしめて距離を縮めようと企んだ。


「凛ちゃん大丈夫かい?」


「……私……私……お化け屋敷チョット苦手なのよね~」

 その時ろくろ首のお化けが首をフラフラ伸ばして凛に近づいて来た。


「キャ—―――—―――ッ!」

 凛は恐怖の余り洋平に抱き着いた。


「凛ちゃん大丈夫かい?僕が付いているさ」

 そう言うと尚も凛を強く抱き締めた。


「凛ちゃんそんなに怖いんだったら……僕の……手を握って……」


 凛は恐怖で誰かに触れていないと一歩も歩けない状態だ。こうして洋平の言葉に甘えて手を繋いでお化け屋敷会場を歩いていた。すると達也ともう1人の克己が凛たちに追いついた。


 だが、これには恐ろしい結末が待っていた。

 洋平がディズニーテーマパーク、東京ディズニーシーの海の中に突き落とされてしまった。


 誰かが一瞬後ろから突き落としたように見えたが……

 

 あれは確か……?







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