第3話 愛憎劇



 たったの3歳までしか一緒に暮らせなかったが、凛は実の両親の愛情を一身に受けて育った記憶を今でも鮮明に思い出す事がある。


 いつも笑顔で溢れかえっていた我が家。だが、あれは只凛の前だけでのパフォーマンスで夫婦はとっくの昔に冷めていたのかも知れない。まさしく仮面夫婦だったのだろう。


 あんなに小さかったにも拘らず、鮮明に記憶を呼び覚ます事が出来るという事は、それだけ愛情溢れる家族だったという事だ。あんなに強い絆で結ばれていた筈の家族だったが、ある日を境に粉々に崩れ去った。


 あんなに小さかったにも拘らず、あの日の事は鮮明に覚えている。それこそ……胸をえぐられるような、雷を全身に受けたような衝撃で、心に大きなダメージを受けた事を今でも鮮明に覚えている。


 あんなに仲の良かった家族だったが、ある日突如として父は家を出て行ってしまった。泣き狂う母。こうして家族はバラバラになった。


 何故父は大恋愛で結婚した愛する母を捨て、10歳も年下の高校生に走ってしまったのか?


 ★☆

 実は……凛の父清は現在の養父母と同じ中学校の教員だった。


 新任教員だった清は養父母に非常に可愛がられていたので、よく養父母の新婚家庭に図々しく転がり込んでいた。そんな時に養母の妹で大学生の母泉と顔見知りになり付き合い出した。


 これが凛の両親清と泉の馴れ初めだった。


 だが、イケメンだった父清は新任教師という事もあって中学生の女子に大人気で、ファンといって良いほどの生徒も少なからずいた。そんな生徒たちは高校、大学となっても、相も変わらず近況報告と訳の分からぬ屁理屈をこねて、清に会いにやって来ていた。まあそれだけ中学生から見ても圧倒的なハンサムボーイだったという事だ。


 そんな事もあり狂信的なファン信者がいたという事だ。1年が経ち……3年が経ち……それでも……グループで清の家に遊びに来たり、誕生会だと言っては無理矢理清を呼び出し、また中学校際記念日だと言っては無理矢理清を呼び出し、子供たちとの仲を深めていった。


 あれは確か父の誕生会の帰り道でのことだ。


 1人の女子と駅まで一緒になった夜の事だ。


「今日は皆有難うね。こんな俺の為に誕生会を開いてくれて……」


「先生は皆の大切なアニキだから……これからもよろしくね」


 人通りの少ない暗がりに差し掛かった頃、その女子がいきなり先生の手を握って来た。

「……君……ダメだよ……こんな事……放しなさい」そう言うと、その手を強引に放した。すると……その女子が思い詰めたように言った。


「私、先生の事を思うと胸が苦しくて……ぅうう(´;ω;`)ウッ…わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭どうにも出来ないの……わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭」


「……君……そんな事を言ってもだな……僕には……僕には……れっきとした家族があるから……」


「わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭それでも……それでも……わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭」


「困ったやつだなあ」

父清はアタフタしてどうしたらいいものか手立てが見つからない。それでも……延々と泣き続ける少女に困り果てて、おどお肩を抱きしめた。


 するとその女の子が一層強く身体をくっ付けて来たのだが、その時ふわりとした胸の膨らみまでも十分に感じ取る事が出来て、清は微かに眠る男が呼び起こされるのを感じ、それがグングン大きくなるのを感じグッとその欲望を飲み込んだ。


 だがその生徒は一層純真で真剣で、この時を逃したら先生を自分のものに出来ないと思い、まだ未熟で何も分からない17歳だったが、先生を自分だけのものにしたいと思う気持ちだけが先走りして無我夢中で唇を清に押し付けた。


 清にすれば絶対にダメだとは分かっていても、欲望を抑えきれずに受け入れてしまった。

 

 少女も愛する先生清とキスまでしてしまい、この純粋な感情をコントロールする事などどうして出来ようか、若い娘が一度この様な関係になってしまい、それでも相手が独身の先生ならまだ安心して待つ事も出来るが、相手には列記とした妻と子供のある身、大切な唇を許してしまった先生にいつ捨てられてもおかしくない立場。好きだった相手とここまでの近距離になった自分は先生しかない。この一途な狂った感情をコントロールする術などどこにあろうか?


 この不安定な状態にじっとしていられない直美は、不安で不安でどうにかなりそうだ。


 ダメだとか、悪い事だとか、そんな事を考える力も残されてはいない。只々感情が先生清を追い求めるのである。こうして清の行く場所行く場所に現れて狂ってしまった感情をぶつけた。

「嗚呼……先生!」


「……君……こんな……学校にまで押しかけて来て……」


「だって……家に電話しても……奥さんしか出ないので……」


「無言電話は君だったのか?最近しょっちゅう無言電話が掛かってくると妻が言っていたので……」


「先生この後どこに行くのですか?私……お腹空いた……」


「おうちに帰りなさい」


「ううシクシク(´;ω;`)ウッ…イヤイヤ帰りたくない!」


「嗚呼……チョットダメじゃないか……誰かに見られたら不味い。チョットこっちに来なさい」そう言うと少女を人気のない裏路地に引っ張り込んだ。


「……この前の事は……この前の事は……僕の……僕の……過ちだった。許してくれ!もう……もう……僕に近づかないでくれ!」


「ううシクシク(´;ω;`)ウッ…わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭」


「嗚呼……御免……御免」そう言うとまたしても肩を抱き寄せた。



「ううシクシク(´;ω;`)ウッ……先生……先生……私……もうどうなってもいい」

 

 こうして、この日清は車で直美を家まで送る事にした。清はこんな17歳の少女に付きまとわれて追い詰められている。

(あの時は……ついつい興奮してあんなことになってしまったが……強く拒絶をすれば何を仕出かすか分からないし、かと言ってこれ以上深い関係になり、のっぴきならぬ泥沼にはまりたくない。一体どうしたら良いものか?)


 そんな事を考えながら頭を巡らせていると、直美の家が近づいてきた。するとその時直美が異様な行動に出た。


(やっと2人きりになれたのに、もうこの日を逃したら……こんな間近で二度と会えなくなるに決まっている。どうしたら良いものか?もっと一緒にいる時間を延ばすためには何か良い方法はないものか?そうだ。夜で車はそんなに走っていない。それでも……裸になれば幾ら車が走っていないからといっても、他の車に見られたら大変。「そうだ!下着のパンティを外してどんな反応を示すのか様子を見よう?」)こうしてパンティを脱いでみた。


 だが、反応がないので徐々にスカートをめくっていった。


「直美君駄目だよ自分を大切にしなさい」


 直美はやっと2人きりになれた先生と別れたくないので、繋ぎ止める最後の手段として清に言った。

「先生……私を好きにして下さい」

 清は本当は若くて綺麗な姿態に釘付けになっていた。興奮が頂点に上り詰めて正常な判断を失った清は海辺のモーテルに向かった。


「先生……私は……先生と離れたくない」

 清はず~っと興奮して爆発寸前だったが、とうとう完全に平常心を失ってしまった清は、モーテルに入るなり直美の服を剝ぎ取り若い美しい体を堪能した。


 だが、直美は処女だった。こうして純真無垢な少女直美は益々先生にのめり込み清は逃げ場を失ってしまった。


こんな理由から母と父は別居中だった。


 ★☆

 結局父清は若い女を選んだという事なのか?

 それでは清は、その後その女子高校生直美と結婚をしたのだろうか?どうも……かなり両親とその直美との間の三角関係はこじれにこじれたらしい。だから……母泉の死はいろんな憶測が流れている。


 交通事故説、交通事故に見せかけた他殺説、自殺説、ジャーナリストの田口の見解は他殺説だ。


 凛殺害事件は、こんな過去にまで遡らなくてはいけない何かがあるという事なのか?


 確かに母泉の死の真相は交通事故と言われているが、不審な点も多い。

 幼少期……凛が感じていた一身に受けていた両親からの愛情の裏では、恐ろしい愛憎劇が繰り広げられていたに違いない。


 あの3人の愛憎劇の真実はどのようなものだったのか?

 そして……不可解な母泉の死。

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