第2話 凛の生い立ち


 20年前に水島凛に一体何が起こっていたのだろうか?

 そこには桜台学園高等学校の一見仲良しグループに見えているが、その中のドロドロした人間模様も一つの要因だった。


 口には出さないが徐々に牙をむく各々の思惑があった。裏切り、絶望、嫉妬、色んな感情が交差して起こった事件ともいえる。


 


 それではその前に殺害された水島凛の生い立ちや、人となりを追って行こう。

 

 凛の両親は共に中学校の先生で共働きなので、祖母が母親代わりになり育ててくれた。祖母はとても厳しいおばあちゃんだったが、愛情をたっぷりと注いでくれた。

 

 実は……凛の両親は本当の両親ではなかった。母の妹が実母なのだが、交通事故で他界していた。


 そんな時に永らく子宝に恵まれずに苦しんでいた姉夫婦が、これは神が与えし宝物と思い喜んで凛を実子として向かい入れてくれた。


 この様な理由から、幼少期の凛はそれはそれは、蝶よ花よと大切に育てられ幸せな幼少期を送っていた。またそれだけ大切にされるだけの要素が備わった娘でもあった。


 それはどういうことかというと、凛は幼少期からお人形さんのように可愛らしく評判の美少女だった。更には両親の期待に応え成績も優秀であった。


 こんな事もあり両親は凛に惜しみない愛情を注いでくれた。いつも褒められて「可愛い、賢い」と形容詞でくくられていた凛はいつの間にか、取り返しのつかない女王様気質の傲慢な少女となって行った。


 だが、そんな傲慢でいられる時間は束の間で終わりを告げる事となる。 やっと凛という可愛い子供をもらい受けた姉夫婦は、今までのような何が何でも子供を作らなくてはと思う強い既成概念から解き放たれて、穏やかな夫婦関係に変わっていった。


 するとそれが返って良かったのか、幸運な事に、直ぐに子宝に恵まれた。こうして愛情は実子の妹愛に注がれて、凛は今までの愛情が噓だったかの様に見向きもされなくなってしまった。


 ★☆

 そんな両親の宝物愛が小学校に通い出したのだが、何と愛に障害が見つかった。


 それは先生からの呼び出しで判明した。早速両親は学校に向かった。


「お父様お母様お嬢様には問題行動が多々見受けられます。何か分かりませんが、授業中にぐるぐる回る。目的なしに飛び跳ねる。頭を壁などにぶつける。不自然な姿勢を維持する等です。一度病院で診てもらって下さい」


 こうして両親はすぐさま病院に連れて行った。そこで先生から告げられた障害はASD(自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群)だった。その特徴は次のようなものだった。

 数を数えるのが苦手。

 時計が読めない。

 時間がわからない。

 算数の足し算や引き算ができない。

 九九がなかなか覚えられない。

 カタカナが習得できない。

 

 この様な理由から小学校に隣接する特別支援学校に、2年生から在籍する事になった。


 凛には近所の同級生で達也という竹馬の友がいた。同級生という事もあり幼い頃から達也とは大の仲良しだった。だから愛も一緒に3人は仲良く小学校に通い出した。と言っても一方は6年生、片や一方の愛は隣接する特別支援学校に2年生から通い出した。だが、心無い生徒の中には優等生の凛の妹が特殊学級の生徒なので、好奇の眼差しで見る生徒も中にはいた。


 凛はそんな子供には容赦なく言い放った。


「愛をバカにするけど愛は天才なんだからね!」

 


 凛が自慢するのも無理はない。やはり凛が言った通り、妹愛は勉強は全くダメという発達障害の特徴が全面にでているが、図工だけは滅茶苦茶得意で東京都絵画コンクールで優勝した。その他いろんなコンクールで入賞を果たしていた。


 このASDの中には、ある分野に天才的な才能を見せる人もいる。それが、サヴァン症候群だ(左脳が損傷し、右脳だけが補うように発達する)


 何と愛もサヴァン症候群だった。

 

 両親も発達障害と聞いて最初は落胆していたが、愛は絵に異様な執着を見せた。両親は娘可愛さにクレヨンや絵の具の画材道具をこれでもかと買い与えた。これが功を奏したのか、部屋に籠り水彩画、油絵といろんなジャンルの絵を描き出して行った。


 こうして凛の生活は一変する。今までは成績優秀な凛を中心に家族が回っていたが、愛が徐々に絵の才能が開花して絵画で賞を取っていく内に、4歳年下の妹を守るための付き添いのような扱いになって行った。


 妹の愛を微笑ましく思う一方凛は言いようのない不満と不安に駆られていた。

(今までは私だけを見ていてくれた両親が……もしかしたら……私を嫌いになってしまうかも知れない。だって……私は実子じゃないんだから)


 それはそうだろう。やっと誕生してくれた娘がASD(発達障害)と診断されては不憫で仕方ないのは良く分かる。それでも……それがひょうたんから駒とはこのことで、凄い才能に恵まれていたことを知った両親は周りが見えなくなって有頂天になっている。


 ★☆

「凛頼むよ愛と遊んでやっておくれ」


「は~いおばあちゃん、じゃあ公園に遊びに連れて行くよ」


「有難うね凛頼んだよ」

 この様にの愛を凛が必死に支え続けて一見非常に仲の良い姉妹だった。





 こうして月日は流れ、凛は色んな友達と別れたり、また新しい友達が出来たりと、色んな事があったが、達也だけはどんな時も一緒だった。中学生になると凛は部活動があるので、愛に付きっ切りになる事は出来なくなった。また凛は身長が高かったのでバレーボール部のエースとして活躍していた。


 この頃には凛は交友関係も広く、よくグループで出掛けるようになっていた。それでも……達也だけは相も変わらず、付かず離れず凛の側にいてくれる。


 更には高校生になった凛にはグループ交際する大樹、翔、舞、美穂 という友達が出来た。それでも相も変わらず達也だけは、グループの皆と一緒にカラオケに行ったりツーリングと大の仲良し。この中に妹愛も仲間入りする事があった。


 愛はこの時期には既に、テレビでも取り上げられる程の有名人で、天才少女の名を欲しいままにしていた。


 そんな時にまだ14歳の愛は男の子に強姦され瀕死の状態に追い込まれた。


 それは皆で自転車でツーリングに出掛けた時の事件だ。犯人はひょっとしたらグループの中の誰かかも知れない?何故14歳の子供にそんな残酷な事が出来たのか?


 そこには、まだ語られていない子供達の様々な思惑と、傲慢、裏切り、様々な感情が渦巻いているのであった。


 それでも……愛の心の傷は相当なもので立ち直れそうにない。

 その理由は犯人を見ていたのかも知れないのだ。















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