第43話 逆鱗転火
『グッ、ガ、ア、アァァァァァァァ――――…………』
グランドーガに神化したマチョルの一撃に、グリムゾンは戦闘不能になり、光の粒子となってチャガの端末へと還っていく。
光が端末に収まるのと同時に、チャガの端末に表示される【Grimson】の文字の色が本来の黒から赤く変わってしまう。
それは彼の相棒がしばらくの間戦えない状態であるということを示していた。
しかし、代償も大きかった。
合わない属性の魔力を無理に取り込んだ影響で、マチョルは体内から炎が発生して全身を燃やされてしまっていた。
『ごめんなさい、マチョル……《棍棒を放り投げなさい》』
唇を嚙みながらも、レイナは最後までマチョルに適格な指示を出す。
そして、炎に焼き尽くされたマチョルは光の粒子となってスマホ内へと戻ってきた。
スマホ内にはマチョルの姿ではなく、【Groundogre】と赤い文字の刻まれた石版が出現する。
「マチョル、よくやってくれた。あとは俺に任せろ」
治療が終わるまで聞こえるはずもないが、俺はマチョルを労って臨戦態勢に入った。
「セット、カスレア。ミシカライズ!」
「セット、サンドラ。ミシカライズ!」
同時にスマホから飛び出した眩い光と燃え盛る炎は、徐々に現実世界に存在を形作っていく。
「ニャニャン(こっちは準備オーケーだ)」
「キュ、キュウン!?(えっ、グリムゾンさん負けちゃったんですか!?)」
召喚された俺とサンドラの戦い。それがこの石版大戦の雌雄を決する対戦カードとなるのであった。
はっきり言って、ここからは消化試合。戦闘経験のないサンドラなら俺でも勝てるだろう。
「バニラ、《バフデバフ全盛りよ!》」
ただサンドラは追い詰められると、とんでもない火力の炎を出してくる。
できるだけ一撃で倒さなくてはならない。
「《渾身の一撃を叩き込みなさい! 〝コンボルグ!!!〟》」
「ニャラァ!」
俺は棍棒にバフを、サンドラにデバフをかけてマチョルの残した棍棒を蹴り飛ばした。
「《死ぬ気で耐えろ》サンドラ! 耐えられなきゃ何度でもぶっ殺し続けてやる!」
「キュルッ(ヒッ)」
チャガの脅しめいた指示に、サンドラは恐怖に顔を歪ませる。
光を纏った棍棒がサンドラに直撃する直前。俺は彼女の全身が竜鱗で覆われていくのが見えた。
「やったの!?」
「クソが! 耐えてなかったら承知しねぇぞ!」
棍棒が直撃し、土煙が起こる。
いくら無傷だったからといって、それは耐えられるはずのない一撃だった。
「キュー、キュルルル……(ったく、腹立たしい限りさねぇ……)」
しかし、土煙が晴れるのと同時にそこに立っていたのは青い炎を纏ったサンドラだった。
俺のカスレアとして直感が警鐘を鳴らしている。あれは、さっきまでのサンドラじゃない。
「バニラ、《棍棒を回収して!》」
「ニャウ!(わかった!)」
今の俺は武器を投擲してしまった。急いで回収しなければ、あのバケモノに太刀打ちできなくなる。
「いいぞ、サンドラ! そのまま――」
「キュラァ!(うるせぇ!)」
「なっ……」
サンドラは荒々しく咆えると、チャガに炎を放つ。ミシカライザーが使役するモンスターの攻撃を受けることはないが、サンドラが拒絶の意志を示したことにチャガは目を見開いていた。
「キュル。キュラァ(やっと出てこれたんだ。楽しませてもらうよ)」
弱気な彼女とは似ても似つかない獰猛な表情。それを見て俺の脳内にある仮説が浮かんだ。
「ニャウラ、ニャニャニャン(まさか、特殊能力の影響か)」
「キュラ。キュラララン(ご名答。あたしはあの弱虫が生み出したもう一つの心さね)」
サンドラの特殊能力、逆鱗転火。それは追い詰められれば追い詰められるほどに、繰り出す炎の火力が上がる特殊能力だ。
「ララキュラァ!(焼き尽くしてやるよ!)」
だが、サンドラは日常的に追い詰められていた。それこそチャガの指示でモンスターに襲われ、殺されて治癒されるということを繰り返していた。
自分を守るため、彼女の特殊能力は炎の火力を上げるだけではなく、強い自分を生み出した。追い詰められ、限界を迎えたときに現れる本来の力を最大限に引き出して戦える好戦的な性格の自分を、だ。
「バニラ、逃げ回って魔力切れを――くっ、うぅ……!」
レイナは俺に指示を出そうとして、胸の辺りを抑えて苦しそうな表情を浮かべた。どうやら、限界が近いらしい。
ただでさえマチョルには、実力差を補うために多めに魔力を回していたのだ。俺がバフとデバフをかけるときも惜しみなく魔力を回していた。
その上、マチョルはグランドーガに神化してまで戦い続けた。今のレイナじゃ、これ以上の無茶はできないだろう。
「ニャウニャ!(レイナ!)」
逃げ回って相手の魔力切れを狙うレイナの判断は合理的だ。
攻撃力こそ高いが、今のサンドラは一撃食らわせれば簡単に倒せるほどにボロボロだ。
「そうね……弱気になっちゃダメよね。バニラ、正面から行くわよ!」
「ニャニャン!(そう言うと思った!)」
俺は棍棒を構えてサンドラを迎え撃つ体勢を取る。
「キュラキュラキュラァ!」
「ニャラニャラニャラァ!」
炎を纏ったサンドラのラッシュを俺は的確に棍棒で弾いていく。
「キャララン!(やるじゃないか!)」
「ニャルラ!(お前もな!)」
でも、これで終わりだ。
ラッシュを完全に防ぎきれば、レイナが勝利を掴むための博打を打ってくると予想していた。
「いくよ、バニラ……《炎を食べて!》」
「ニャウ、ニャニャラァ!(待ってたぜ! 〝サン・バイダー!!!〟)」
マチョルがやったことを俺もやる。たとえこの身が炎に焼かれようと関係ない。
俺の全身を真っ赤な光が覆う。その瞬間、全身に今まで感じたことがないほどの力が溢れ出してくる。
「キュララン!?(あんた正気か!?)」
炎を食べる俺を見たことで、サンドラが目を見開く。
堅牢な竜鱗に強固な角、強靭な翼と尻尾。
本来、サンドラとは太陽竜子とも呼ばれるほどに強力なモンスターだ。
その肉体を貫くには、太陽の如き力を宿した剣が必要だ。
「バニラ、《棍棒に全魔力を回して! 〝
「ニャラァァァ!」
光の刃を宿した棍棒は剣となり、横薙ぎに振るわれたそれは堅牢な竜鱗を物ともせずに両断した。
「キュ、キュルゥ……(ちく、しょう……)」
肉体を両断されたサンドラは悔しそうに呻きながらも、光の粒子となってチャガのスマホへと吸い込まれていく。
そして、炎を食った反動で業火に焼かれながらも俺はつい笑ってしまった。
レイナ、多少はマシな技名を考えられるようになったじゃないか。
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