第39話 だから、俺は〝相棒〟を捨てた

 初めてモンスターを召喚したあの日のことは今でも鮮明に思い出せる。


「ミシカライズ!」


 スマホを手にして最初に入っている原初の石版。そこからはミシカライザーの魔力に呼応し、一体のモンスターが生まれる。


「コーン!」

「わあ、ダギツネだ!」


 俺が最初に使役したモンスターはダギツネ。三本の尻尾を持つキツネのモンスターだ。


「俺はケイム! これから一緒に頑張ろうな!」

「コン!」


 言葉は通じない。それでも嬉しそうに鳴いていたダギツネが喜んでいることくらいはわかった。


「名前を付けなくちゃな……そうだ、尻尾が三つに分かれてるし〝ミサキ〟って名前はどうかな?」

「コーン!」


 初めて使役したモンスター。それはミシカライザーにとって特別な存在だ。

 名前を付けて〝相棒〟として愛情を注ぐことは一般的なことだった。


「よし、ミサキ! 絶対お前と神剋のミシカライザーになるぞ!」


 思えば、それは無謀な夢だった。

 ミシカライザーの頂点に君臨する最強の存在。神剋の称号を得るなんて、まず無理な話だったのだ。

 時が経つにつれて夢は覚め、現実が突きつけられる。


 ジュニア部門で禄に結果を出せなかったという事実。それは一人の少年が夢を諦めるには十分すぎるものだった。


「コーン……」

「ミサキ、大丈夫だ。次は勝てる。諦めずに頑張ろう」


 めげずに頑張ったところで結果は着いてこない。

 理由は簡単だ。一番最初に使役したモンスターで勝つことにこだわっていたからだ。

 負けが込み、かつての夢は遙か遠く。信頼や愛情で勝てるのなら苦労はしないと思い知らされる。


「もっと、冷静に試合展開を考えなきゃ……」


 勝つためには冷静でいなければいけなかった。


「そうだ。どんなに傷ついても後で治るんだから捨て駒も全然ありじゃないか」


 勝負の世界に余計な感情は必要ない。


「最終的に勝てばいいんだ。途中過程で何体倒れようが勝ちに繋がるならなんでもいい」


 誰よりもうまくモンスターを〝使う〟必要があった。


「立て、ビコリ。実戦じゃ相手は攻撃を止めてくれないぞ」


 いつからか、名前ではなく種族名で呼ぶようになった。


「神化すればお前は全属性の魔法を使える。スタメンを外されたくなきゃ俺に価値を示せ」


 誰で勝つかじゃない。俺が勝つために誰が必要かを考える必要があった。


 負け筋を増やす奴はいらない。勝率を上げるために必要なことは、負ける確立を限りなくゼロに近づけることだ。

 毎日ボロボロになって地面に横たわるだけなら誰だってできる。


「キュー・ビコリ、お前はもうスタメンから外す」


 だから、俺は〝相棒〟を捨てた。


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