神剋のミシカライザー
サニキ リオ
第1話 頂上決戦
激しい衝撃音が轟き、土煙が舞い上がった。
轟音と共に、金色の牛ファラリウシの攻撃によって頭から三本の角が生えた馬のような獣トライコーンが吹き飛ばされる。ファラリウシの後ろに立っている筋肉質な体つきをした男は、その一撃が決まるのと同時に自身の勝利を確信して笑みを浮かべた。
『おおっと、ついに挑戦者レイブ選手が〝
熱の籠った実況に観客が大いに沸く。鬱陶しいがこれも仕事だ。割り切るしかない。
「ハッ、神剋のミシカライザー様もこんなもんかよ!」
「…………」
神剋のミシカライザー。そう呼ばれるようになってからもう長いこと経つ。
ずっと追い求めて止まなかった頂点の称号。それをこんなにも長期間保持し続けたのもこの世界では俺くらいだろう。
俺は無言のまま立ち上がることのできないトライコーンへ目を向ける。
「ヒィン……」
「……よし、体力はまだ残っているな」
計算通りトライコーンは相手の攻撃をギリギリで耐えた。これで戦闘不能にでもなったらどうしてやろうかと思ったが、耐久力は調整通りだ。神話モンスターの高いポテンシャルは伊達じゃない。
右手に持っていた召喚端末であるスマートホームデバイス――通称スマホを取り出して画面をトライコーンに向けてかざす。
「インプリズン」
すると、トライコーンの肉体は淡い光の粒子となってスマホに吸い込まれていく。その光景は、まるでトライコーンがこの世界には初めから存在していなかったかのような印象を抱かせる。
トライコーンが吸い込まれていったスマホの画面には、三本角の馬の絵が描かれた金色の石版が表示されており、その下には【Tricorn】という文字が表示されている。
「一番厄介な神話モンスター、トライコーンは落とした。残るはヴェスピマキナ……俺の勝ちだ」
自分の勝利を確信し、対戦相手のレイブは俺を見下したような視線を送ってきた。きちんと相手は油断しているようだ。問題は何もない。あとは一手一手を丁寧に進めて試合を終わらせるだけだ。
「セット、ヴェスピマキナ」
俺が唱えると、スマホの画面に表示されていた【Tricorn】の文字が【Vespemachina】へと切り替わる。
「ミシカライズ」
ミシカライズ。呪文のようなその言葉を口にした途端、スマホから銀色の石版が飛び出し、そこから目映いばかりの光が溢れ出した。
「ヴェススッ!」
光が晴れると耳障りな羽音と共に、機械的なフォルムの巨大な蜂ヴェスピマキナが召喚された。
『出たァ! ケイム選手のエースとも言えるモンスター、ヴェスピマキナ! 神剋の称号を賭けたこの試合中でも、何度も挑戦者のモンスターを屠ってきた機械蜂が勝負を決めるのかァ!』
「決めさせねぇよ! 所詮は毒虫が神化しただけだ。トライコーンが瀕死の今、神話モンスター、ファラリウシを止められる奴はいねぇ!」
目には目を歯には歯を、神話には神話をといったところだろうか。
「俺様の勝ちだ! 《決めるぞ、モージー! 〝アウルムドライブ!!!〟》」
「ブルァ!」
魔力を込められた指示により、ファラリウシは笛のような鳴き声と共に、金色の光を纏って突進してくる。
モンスターに名前までつけ、意気揚々と大技を支持する挑戦者レイブ。彼はどうやらモンスターとの絆を重視するミシカライザーらしい。
金色の光を纏った突進がヴェスピマキナへと迫る。
「チェンジセット、トライコーン。ミシカライズ」
俺はスマホをヴェスピマキナへ向けてそう唱える。すると、つい今しがたヴェスピマキナがいた場所にはトライコーンが召喚された。
「なっ!」
トライコーンの持つ特殊能力で一定時間相手の力を弱めることができる。場に出ただけでデバフをかけられるのだ。瀕死だろうと戦闘不能になってないのだから役割遂行はいくらでもできる。
ファラリウシ相手に二回もトライコーンを出せば、かなりの弱体化がされる。神話モンスターだろうと、その力はもう雑魚同然だ。
「ヒィン!」
攻撃をモロに食らったトライコーンは今度こそ戦闘不能になり、体が光の粒子となって崩れ落ちた。
光は俺のスマホに吸い込まれ、画面に表示されている【Tricorn】という文字の色が本来の黒から赤く変わっていた。
「セット、ヴェスピマキナ。ミシカライズ。これで詰みだな。ヴェスピマキナ、《胸の宝石部分を狙え〝ベノムボルグ〟》」
「ヴェルァ!」
魔力を帯びた俺の指示によって、ヴェスピマキナは体を一本の槍のように変形させる。
そして、そのまま攻撃の反動で隙だらけの弱体化したファラリウシへと突っ込んでいった。
黄金の肉体を貫き、胸部にある神秘の力を宿した赤い宝石を砕くと、やがてファラリウシの体全体にひびが入り、粉々に砕け散った。
『何とォ! 大技の隙をついてヴェスピマキナが決めたァ! さすが神剋のミシカライザー! ケイム選手の華麗な作戦が決まったァ!』
それと同時に会場からは歓声が上がり、実況も興奮気味に叫ぶ。
「インタビュー用のコメント考えなきゃな……」
勝利者インタビューでの受け答えを考えながらスマホを操作する。
「インプリズン」
ヴェスピマキナは光の粒子となって俺のスマホへと吸い込まれていく。それを確認してからスマホを懐へしまい、レイブの元へと歩み寄よる。
「レイブ選手、良い試合だったよ」
「ははっ、敵わねぇや……対戦ありがとうございました」
「こちらこそ、対戦ありがとうございました」
俺達が固く握手をすると、観客席は大いに盛り上がるのであった。
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