第27話

 翌日の夜。

 柴と伊野崎は近くの蕎麦屋で夕食を食べて家に戻ると、どちらからともなく唇を重ねた。


「今日は泊まって」と伊野崎が言い、頷いた柴は伊野崎の形の良い耳たぶに口づけする。


「伊野は、俺と別れてから誰かとした?」

「…顔も忘れた相手なら」


 聞かなければよかった。

 もし、その男と伊野崎が付き合っていたらと思うとぞっとする。

 

 柴が結婚しなければ、伊野崎が誰かとセックスすることもなかった。

 この嫉妬は醜い。すべて柴のせいなのだから。


 柴は伊野崎の肩に顔を埋める。

「ごめん。嫉妬できる立場じゃないのに」


「今はこの話やめよ」

 伊野崎の手のひらが柴の脇腹を撫で、腰に移動し尻を弄る。


「前立腺を刺激したら勃起するかも」

「どうかな」

 柴は伊野崎の首筋を甘噛みする。


「ぁ…あとで…試してみよ」

 伊野崎は身悶えながら言った。


 伊野崎の背中を撫で、服の裾から手のひらが侵入する。

 滑らかな肌の感触に目眩がするほど興奮した。


「伊野を抱きたい」

 柴は鎖骨に吸いついた。


「っ…でも…勃たなかったら諦めろ」


 寝室に移動すると、ベッドの上で伊野崎のTシャツを脱がす。

 

 柴は感嘆する。在宅になったことで脂肪が増えることもなく、筋肉が衰えることもなく、相変わらず惚れ惚れとする伊野崎の身体だった。


 胸の粒を指で弾いた。伊野崎が甘い声を漏らし、柴の耳を刺激する。


 伊野崎のデニムを膝まで下ろすと、ボクサーパンツの中から窮屈そうな器官を出した。

 

「伊野はどこも綺麗だ」

 柴がそこに顔を近づけ息を吹きかけ、口に含む。

 伊野崎はあっという間に達した。


「柴も脱げ」

 伊野崎に言われ、柴もデニムを脱ぎ捨てる。


「勃ってないか?」

 伊野崎が柴のボクサーパンツを下げた。


 伊野崎が口で刺激をしても反応はなく腰に痺れる快感が走るものの、実際は芯がないままだった。

 柴は顔を顰めた。

 

 伊野崎は顔を上げる。

「どうする?」







 伊野崎の指が後孔にゆっくりと挿れられ、柴は圧迫感に耐えた。

 敏感な前立腺を探る指が根元まで入ると「どう?」と伊野崎が柴の様子を窺う。

 伊野崎の指の動きに合わせて柴が震えた。


「苦しい」

「リラックスしろ」


 柴は本能的に上へと逃げる。

 奥を掻き回されて、全身が硬直した。次に痙攣する。

 

「柴」

 

 伊野崎に抱きしめられ、パズルのピースのように、ぴったり密着する体に安心する。

「大丈夫か?」と問われ、柴は深く息を吸った。


 すると下腹部に違和感を感じ視線を下げると、角度も硬度も大きさも半分も足らないが、形が変わっていた。

 

「挿れたい」

「まだ無理だろ」

 

 柴は伊野崎の尻の狭間を指先で辿り、蕾に指を潜め捻り入れると、容易に咥え込んだ。


「柔らかい。自分で慣らした?」

「…慣らそうとしたわけじゃなくて……柴が泊まりに来ると…思ったら…」


 柴は伊野崎の唇を唇で塞ぐ。

 ぞくりと悪寒のような動悸が頭からつま先までを走り抜けた。


 指を増やし、伊野崎の敏感な奥の壁を探る。


 立場が逆転し、伊野崎がベッドに沈み、柴が伊野崎の中を指でかき回す。

 伊野崎が腰を揺らし、シーツの上で裸体をくねらせた。


 柴は伊野崎の胸に吸い付き、舌の先で粒を潰し、歯をたてた。

 

 柴は自身を確認する。

 まだ完全には勃ってない。

 こんなに興奮しているのに不思議でならなかった。


 それでも伊野崎の後ろに先端を当てる。


「あぁ……」

 伊野崎が背中をそらし声を上げる。

 シーツを掴み恍惚とした顔で、柴に視線を向けていた。


 柴の頭の中が真っ白になる。

 硬さと張りを取り戻し、ゆっくりと内壁の奥まで入ると、待ちきれないとばかりに、それだけで果ててしまった。


 柴は伊野崎に覆い被さるように抱きしめた。


「伊野」

 もう、離さない。間違えない。

 伊野崎しか愛せない。

「愛してる」


 白濁を吐き出したにもかかわらず、まだ圧倒的な質量のままだ。


「動くよ」

 柴が腰をひき、再び奥まで激しく叩きつける。


 伊野崎の中で育った屹立を緩急をつけて抽挿した。腰が止まらない。

 

 伊野崎の背中に腕を回して支え起こした。

 挿れたまま柴が寝そべると、伊野崎が腰の上に馬乗りになる。

 

 伊野崎が後ろに倒れそうになり、すかさず、柴と両手を握り合わせた。

 伊野崎がゆっくりと腰を沈める。







 翌朝。

 伊野崎をベッドに残し出勤しなくてはならない柴は、名残りおしげに寝室の様子を覗く。


 真剣に欠勤しようかと考えたが、朝に会議があることを思い出し、シャワーを浴びてスーツに着替えた。


「伊野、寝てる?」


 昨夜、柴の昂りがおさまったのは三回の射精後だった。

 

「起きてる」と言った伊野崎の声は掠れきっている。


「鍵はどうしたらいい?」


 柴は、ベッドに近寄る。


「…鍵は玄関のを持って行って。返さなくてもいいよ」


 伊野崎の乱れた髪を整える。

 射抜くような伊野崎の瞳が髪の間から現れた。


「ありがとう。もう絶対に返さないからな。行ってきます」


 柴は伊野崎にキスをしてから家を出た。

 手の中の鍵を握りしめ、つかみ取った幸せを実感する。




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嫌いになりたい 犬白グミ ( 旧名・白 ) @shirome220

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