12.繋がりの先に
私は読書が好きだ。
読書好きのパパとママの影響で産まれたときから本はすぐそばにあった。もはや本は私の体の一部ではないかとさえ思う。
どんな感じだったかあんまり覚えてないけど、両親は小さいころから絵本の読み聞かせをしてくれていたらしい。
「
そうこっそり教えてくれたママは楽しそうに笑っていた。たしかにパパの声は低くて全部ホラーになっちゃいそうだ。
それはさておき、本が大好きだった私は、中学生になったら文芸部に入部する! と決めていて、入学前からパパとママにもずっと宣言していた。
周りの子は何個も体験入部して部活を決めていたけど、私は誰よりも先に文芸部に入部届を出しに行った。
文芸部イコール本好きな人が集まってひたすら本について語り合うんだとばかり思っていたけど、活動内容は意外とたくさんあるみたい。本が好きな人だけじゃなくて、小説や短歌、川柳、詩を創作するために入部した人もいた。
人数でいったら私みたいにただ読書が好きな人は少数派で、みんな何かしら自分で作品を生み出すのが好きな人が多かった。
◇
「彩乃も小説書いてみたら?」
中一、中二と、私はずっと読む専門部員として活動していたけど、三年になって
「そんな急に無理無理。書く才能なんてないもん」
手を振りながら抵抗を見せてみると、三人は「えー」と不満そうな顔をした。
「中学最後くらいみんなで小説コンテスト出してみようよ。それに、個人的に彩乃ちゃんがどんな小説書くのか気になる」
「わかる、俺も
本宮さんと須藤くんは前のめりで私を誘ってきた。
私の地元では在住者限定の規模の小さい小説コンテストが毎年開催されている。中学生の部、高校生の部、一般の部の三部門あって、原稿用紙30枚以内の短編作品を募集している。
テーマもジャンルも自由で、優秀賞をとった人は地元新聞に掲載されるのだ。
私が押しに弱いことを知っている夏海ちゃんは「チャンスだ!」とばかりに私の手を握り、詰め寄ってきた。
「ね、二人もこう言ってることだし。みんなで応募しよ?」
三人の期待に満ちた目を見ていられなくて、私は小さく息を吐いた。
「……わかったよ。でも出来栄えは期待しないでね」
そうして私は人生で初めて小説を書くことになった。
◇
思いつく限りのアイディアを裏紙に書き出してみる。うーん、ミステリを読むのは好きだけど書くのは難しそうだな。かといって恋愛小説も恥ずかしいし……今回はファンタジー要素のある物語を書いてみよう。
ときどきペン回しをしながら、登場人物の設定や話の簡単な流れを書いていくと、あっという間に時間が過ぎていった。自分で物語を考えるって思ったより面白いかも。
数週間後、とりあえず完成させた短編小説をみんなで読み回し、感想を言うことになった。みんなの小説を読むと、自分で書いたものが本当に面白いのか不安になってくる。
「みんなはやっぱすごいね。どれも面白い」
ホラー好きの須藤くんは今回もホラー小説を書いていた。前回読んだものはグロテスクだったけど、今回は爽やかなホラーになっている。爽やかとホラーが両立していることがすでにすごい。
本宮さんは普段男性向けのライトノベルを読むことが多いみたいで、書く小説もラブコメが多い。主人公もヒロインも好感度の高いキャラクターだし、ドタバタ展開は声を出して笑うほど面白かった。
文芸作品を書いている夏海ちゃんの短編は、リアルな日常と、丁寧な登場人物たちの心情が描かれていた。中学生の女の子が主人公で、共感する部分がたくさんあった。
「彩乃の短編、良いね! 可愛くてほっこりした」
真っ先に私の作品を読んでくれた夏海ちゃんがそんな感想をくれる。そのあとに読んだ須藤くんと本宮さんからは、間違った言葉の使い方を指摘されたけど、面白かったと言ってもらえた。
「ありがと。みんなは部員以外誰かに読んでもらったりするの?」
「わたしと須藤くんはwebに投稿してるよ」
本宮さんの発言に須藤くんはうなずく。今はwebで小説を投稿する人が多く、サイトも色々あるらしい。サイトごとに人気ジャンルが違うため、ラブコメ書きの本宮さんとホラー書きの須藤くんの投稿サイトは違うようだ。
「夏海ちゃんは?」
「あたしはお姉ちゃんに読んでもらってる」
それに対し、本宮さんと須藤くんは露骨に嫌そうな顔をし出した。特に本宮さんは首をぶんぶんと横に振りながら「家族とか絶対無理!」と拒否反応を示す。夏海ちゃんは二人の反応を予想していたのか、苦笑していた。
「そういう人の方が多いかもね。でも身内だと容赦ない感想とかくれるから、結構参考になったりするんだよね。彩乃ももし抵抗ないなら親に見てもらったら? 読書好きでしょ?」
「うーん、たくさん読んでるから私みたいな素人の作品なんてつまらないんじゃないかな……」
「そんなことないと思うけどな。お世辞抜きで彩乃の作品面白かったし。もっと自信もっていいんじゃない?」
「そ、そうかな……じゃあ今日見せてみるよ」
◇
パパとママに読んでもらうと決め、帰宅するが、なかなか話を切り出せない。あっという間に夜ご飯を食べ終え、お風呂も済ませてしまった。
自分の部屋で読み返してみるが、読めば読むほど、これは本当に面白いんだろうか? という不安が溢れてしまい、用紙を二つ折りにした。
ええい、とっとと二人に読んでもらってスッキリしよう。
私はリビングのドアをそっと開け、中の様子をのぞく。パパとママはソファに並んで座り、お酒を飲みながら仲良くテレビを見ていた。ママはときどきパパにちょっかいをかけていて、パパに「やめろ」と言われているのになぜか笑っている。パパも「やめろ」と言っているわりに顔は穏やかだ。
二人でいるときはとことん恋人みたいでちょっと恥ずかしい。
私の視線に先に気づいたママは、すぐに親の顔になる。
「あれ、どうしたの? お腹空いた?」
首を傾げるママに対し、パパはちょっとだけ呆れたようにツッコミを入れた。
「腹減ってるのは
「えー、彩乃も小腹が空いてたりするよね?」
「ううん、お腹は空いてないんだけどね。ちょっと二人に見て欲しいものがあって……」
背中に短編小説を印刷した用紙を隠しながら、言葉がしりすぼみになっていく。
「なになに! 見せたいもの?」
ママがわくわくした様子で身を乗り出した。
よし、いけ、彩乃。
「あのね、小説読んで欲しいんだ……!」
パパとママは顔を見合わせたあと、我先にと私が差し出した用紙に手を伸ばした。
「彩乃が書いたの? すごい! ――ちょっと優大くん、わたしが先に読むの」
「紗穂は読むの遅いから俺が先に読む」
「レディーファーストだよ!」
「いつも紗穂ファーストしてるだろ」
「うっ、で、でもやっぱりここはママであるわたしが先に読むべきなの!」
「いや、父親が先に読むべきだ」
意味のわからないパパとママの言い合いを聞いていたら、思わずふき出してしまった。二人は「なに笑ってるんだ?」と不思議そうに私を見る。私はママの隣に座った。
「じゃあ三人で読もうよ」
「ま、それもそうだね」
「ああ」
二人はソファに座り直し、読む体勢に入る。真ん中に座るママが用紙を持って、三人で静かに読み始めた。
……ママ、想像以上に読むのが遅い。
三人で読もうと提案したのは私だけど、これじゃ人数分印刷すれば良かったな、と今さらながら思った。
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