7.同棲なんて聞いてない
姉さんは可愛い。笑い方は絶妙に変だけど、とにかく可愛い。
そんな大好きな姉さんが初めて彼氏を連れて来たのは中学二年のころ。ひょろっとした頼りなさそうな男だった。
こんなやつに姉さんを任せられるかよ。俺が睨み続けていたからかはわからないが、あっという間に二人は別れた。
二人目の彼氏は高校一年のころ。俺にも馴れ馴れしく話しかけてくるようなやつで、性格はまあ良さげだったのだが、これまた殴ったらすぐにどこかの骨が折れそうな体の細い男だった。
三人目は高校三年のころ。またまた今までと似たような細身の男だった。
姉さんの彼氏はなぜかみんな細い。俺もどちらかといえば男子の中では細い部類だろう。だけど毎日筋トレしているし、いざというとき姉さんを守る自信は誰よりもある。
もし姉さんになにかあったとき、身をていして守ってくれるやつが恋人じゃないと、俺は弟として安心できない。
◇
県外の大学に進学した姉さんは一人暮らしを始めた。俺は不安でしょうがなかった。変なやつが姉さんに絡んでいるかもしれない。大学なんて高校までと比べてゆるゆるだ。危ないやつに付いて行っていないだろうか。
俺が心配していたのも束の間、あるとき、彼氏ができたと姉さんから電話で報告を受けた。そいつの名前は
『母さんと父さんに挨拶もしてないのに同棲!? 順番があるでしょ!』
俺はすぐさまそう抗議した。
『二人にはもう会わせたよー』
『え、なんで俺には会わせてくれないのさ』
『だって
ムッとしている姉さんの姿が容易に想像できた。
そんなわけで俺は週末、姉さんの彼氏を見るため、二人が住んでいるというアパートに向かった。もともと彼氏が一人で住んでいた部屋に、姉さんが転がり込んだらしい。どんな暮らしをしているのか
チャイムを鳴らすと、「はーい」と姉さん一人が出迎えてくれた。なにやら彼氏は仕事のため夕方に帰ってくるそうだ。
室内はいたってシンプルだが、やけに本が多い。
「細美さん、だっけ? 彼氏も本読むの?」
「うん! ブックカフェで出会ったしね」
満面の笑みで
夕方、鍵が開く音がし、俺は身構える。とうとうきたか。
姉さんは飛び跳ねるように玄関へと走っていった。
「優大くん、おかえり!」
「ただいま」
リビングの扉が開き、俺は彼氏の姿に驚いた。
でっけぇ……し、目つき悪。今までの彼氏も背は高かったが、今回の彼氏は筋肉がしっかりあるのがすぐにわかる。姉さんと並ぶと体格差が歴然だ。
顔が怖いのはとりあえず置いておき、この人なら任せられる、とまだ一言も会話をしていないのに俺はそう確信し、ソファーから立ち上がった。
「姉さんを、よろしくお願いします」
頭を下げると、彼氏さんは数秒間があったのち、まっすぐな声で「ああ」と言った。
「ちょ、ちょっと二人とも、先に自己紹介しようよ」
俺と彼氏さんの間に立った姉さんは、一人だけズレたことを言い出す。彼氏さんは姉さんの頭をポンとなで、「そうだな」と笑った。
その笑顔のあまりの破壊力に、俺は図らずもドキッとしてしまう。あー、これは姉さんも落ちるな、と納得した。姉さんはというと、彼氏さんの笑顔に頬を赤くし、「ぬへへ」と変な笑い方をしていた。
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