第9話 失いたくない未来。


「いや、だから、何度も言うけど……」


 あまりにも理解を示さない今宮さんに、もう一度否定をした。


「だから、あなたは早とちりしすぎなの。まだ物語は序盤なのだから、後半のシーンを持って行ってはダメ」


 ……早とちりは、まさにお前だわ。


 思わず心の声が出る。


 しかし、エンジンの掛かった彼女は止まらない。


「1ヶ月後に初デートに誘いなさい」

「基本的に、大人しくしててくれれば良いけど、たまにはサプライズで優しさを見せて」



 やばい、どれだけ要求してくるんだ。



 むしろ、二人になった事で、エスカレートしている気が……。



 ……そして、最後にこの様な提案をしてきた。


「後、帰りは偶然を装って私の後ろを付いてきなさい。あなたの家は、ここから随分と遠いみたいだけど、私も隣の駅だから、少しの間でも電車で親交を深められる筈よ」



 いや、何故、俺の家を知っているんだ。



 確かに、今現在は菱谷と帰ってるから地元が一緒なのは推測は出来るであろう。



 しかし、彼女も人見知りな俺の気を遣って、教室でクラスメイトへその話題が出た時はさり気なく避けていてくれてるし。

 

 コイツ、もしかすると、尾行とかしてたのか?



 控えめに言ってやばすぎるだろ。



 それに、このまま流されて今宮さんと帰るって事は……。



 そう思っていると、まるで子どもの頃に大切にしていたぬいぐるみを捨てられてしまったかの様な哀しみが胸をチクっとさせた。


 ここ最近、当たり前になった、菱谷との通学時間がなくなるのだと。



 妙に寂しく思えた。



 ここ最近は、今宮さんの件もあってか、登下校では普通に会話をしていたし。



 いつも味方で居てくれる彼女は、とても心強かった。



 しかし、その"当たり前"がなくなるなんて……。



 ……見えかけた考えたくない未来や不安が脳裏をよぎると、自然に言葉が出た。



「ごめん。それは出来ない。俺は、親友の菱谷と一緒に帰るって約束してるから。……後、もう小説になぞった恋をしようなんてやめないか? 俺は、本当に今宮さんと友達になりたかっただけ。だから、普通に仲良くしてくれると嬉しいよ」



 これまでのコミュ障が嘘みたいに、普通に言えた。


 勇気をくれたのは、不覚にも菱谷の存在。



 だが、改めてアイツの救われていたのだと実感した。



 ボッチになりそうな弱気な俺を支えてくれている大切な親友。



 だからこそ、自分が引き起こしてしまった余りにも歪な日々を正常に戻すのは、俺自身がやらなければならないんだ。



 堂々と発した俺の声を聞いた今宮さんは、狐に摘まれた様な顔をしていた。



 やっぱり、現実を突きつけられたら、傷つくよな。



 中学時代の自分を思い出した。



 故に、共感してしまい心苦しい。



 ……そして、今宮さんはすっかり事実を把握すると、次第に顔を赤らめた。



「も、もしかして、私、また勘違いしちゃったの〜?! は、恥ずかしい〜!!!! 」



 震え上がりながら悶絶してそう叫ぶ、キャラ変しすぎた彼女。



 その姿に、俺は呆然とする。


 

 しかし、暇も与えずに、「ごめんなさ〜いっ!! 」という言葉を置き去りに、走って逃げてしまった。



 やった……のか?



 そう思うと、隅に隠れていた菱谷の方を見る。



 あれ? 



 ーー気がつけば、彼女の姿はなかった。

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青春渇望男子のリア充活動日記。 寿々川男女 @suzunannyo_ss

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