第6話 ヤバすぎる勘違い。
学校からの帰り道、俺は悶絶していた。
う、うお〜!! 何故、俺はあんな恥ずかしい行動を〜〜!!!!
ほぼ初対面の今宮さんに向かって、いきなり廊下で右手を差し出して『友達になってください!! 』なんて叫ぶなんて、ただの奇行の他、何者でもないじゃないか。
それに、自分の仕出かしてしまった事の重大さから、今日は一日、今宮さんと目すら合わせられなかったし。
まあ、相変わらず夢中になって本を読んでるっぽくて気にしてないっぽいから良かったけど。
とは言え、せっかく勇気を振り絞ったんだ。
とにかく嫌われないようにしないと。
オフィシャルで友人扱いされるまでの道は長いな……。
そんな風に小さくため息を吐くと、菱谷は背負っているカバンを掴んできてこう言った。
「まあ、良かったじゃないの。今宮さんだって、悪い気はしなかったんじゃないの? 」
先程、事の顛末を伝えると、そう励まされた。
コイツだけは、謎にいつも味方で居てくれる。
……傷心には沁みるわ。
それに、あの時、隣のクラスの奴らに俺の奇行はバッチリ見られた訳だが。
『入学三日目でいきなり告白決め込んでた』などと噂になりかけのところを、友人伝いでフォローをしてくれたらしい。
『友達が欲しかっただけみたい』と。
おかげさまで、中学の時の様に嫌なヒソヒソ話は聞こえてこなかった。マジで、どんな細工をすれば一瞬で沈静化出来んだよ。神かよ。
……とは言え、純粋にありがたかった。
故に、俺はいつも通りに振る舞う菱谷に向けて、こう告げたのであった。
「フォローありがとう。それに、アドバイスも含めて、本当に感謝してる。多分、俺一人じゃ勇気を振り絞らなかったし」
照れを隠しながらも、率直な感謝を伝える。
……それに対して、彼女は悲しそうな顔で微笑んだ。
「いや、気にしないで。優斗が変な感じになるのを、アタシが嫌だっただけだし」
普段の明るい口調とは違って、突然マジレスされた事によって、微妙な時間が流れる。
「それに……」
菱谷は、さらに続けて何かを言おうとした。
しかし、すぐに言葉に詰まった。
それから、再びいつも通りの彼女に戻った。
「……にしても、右手突き出してお願いするとか、傍目から見たらただの告白じゃないっ! ホント、優斗はずっと不器用なんだから〜」
核心を突かれた。
確かに、第三者として見ても、告白みたいだなと思うだろうな。
……でも、今宮さんはこう言ってくれたわけだし。
「だけど、勘違いはしてないと思うぞ。だって、ちゃんと"友達から"って言ってくれたしな! とは言え、まだ友人審査の途中ではあるが」
俺が菱谷にそう伝えると、彼女はキョトンとした顔でこちらを見た。
「えっ、それってさ……」
その言葉の意味を説明されて、俺は自分のしてしまった事の大きさを理解した。
*********
やばい、やってしまった……。
つまり、昨日の俺の発言は、今宮さんには完全に"告白"と捉えられていたのだ。
こんな陰キャのコミュ障が、そんな後20ステップ以上の行動ができるかよ。
ただ、単純に友達になりたいだけだったんだから。
後、絶対にフラれる。こんなフツメン男子(自称)に彼女なんて出来るわけがないし。
とは言え、気を遣ってくれたのか、奇跡的に保留状態。
つまり、まだ修正可能なのだ。
今、この段階でフラれたら、俺の高校生活は終わりを告げるし、みっともなさから死ねる自信がある。
故に、また『リア充育成計画』にこう記した。
【勘違いさせてしまった相手に、面と向かって友達になりたいだけだったと訂正をする】
これは、今後の人生を左右するもの。
それに、今宮さんに嫌な思いをさせたくない。
つまり、絶対に今日中に片付けなければならない課題なのだ。
正直、これに関しては一人では太刀打ち出来ない事案なので、昨日の帰りと今日の登校時間を利用して菱谷の協力を仰いだ。
どうにかして今宮さんと二人きりの状況を使って貰うと。
そのお願いに対して、菱谷はあっさりと受諾してくれた。
「まあ、マブダチのお願いだからね。ホント、ポンコツだなぁ〜」
とか、ニヤニヤされながら。なんかアナタは楽しんでない?
まあ、何にせよ、強力な仲間がいるのは、良い事。
だからこそ、着座をすると、俺は今か今かと今宮さんの到着を待っていた。
……にしても、始業10分前だと言うのに、なかなか教室に現れない。
あっ。もしかして、こんなコミュ障の陰キャにいきなり告られたショックで寝込んでいるとか……?
やばい、俺はとんだ重罪を犯してしまったのでは。
ごめん、今宮さん、俺なんかに告られたら、それはショックだったよね。ちゃんと、心を込めて謝りますから。やばい、吐き気が……。
ーーネガティブ満載でガタガタと震えていると、教室の入り口から妙な歓声が聞こえた。
「えっ? 誰だアレ」
「あの可愛い娘、クラス間違えてねえか? 」
「ブボボボボ〜。現世に迷い込んだ天使でやす……」
そんな声に、俺は一度顔を上げて話題の先に視線を移す。なんか変な奴が一人紛れ込んでいたのは無視して。
……すると、そこには、サラサラの黒髪ロングに茶色い瞳が輝かしい、とても顔の整った女性がいたのである。
なんだ、あの超絶美少女。
思わず、見惚れてしまう。
しかも、何故かこちらをジーッと見つめながら、真っ直ぐに向かってくる……。
歩く度に揺れる胸。近づくに連れて漂う甘い香り。
ま、マジで、何なんだ。
俺はすっかり今宮さんの事を忘れて、そこに現れた学園カースト最上位と思しき存在にビビっていた。
……そして、俺の眼前までやってくると、彼女はこう告げた。
「おはよう、田中くん。昨日の話だけど、前向きに考えたいと思うの」
「えっ、もしかして、今宮さん……? 」
脳が処理し切れず、ただ、そのまま固まる事しか出来なかった。
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