第4話 ペン落とし大作戦。
今日、俺に課せられたミッション。
それは、【自分自身の力で、友達を作る】である。
ターゲットは、読書好きの地味な女子。
俺は、彼女に話しかける為、昨晩に計画を立てた。
手応えがあったので、登校中、友達を渇望している事を知っているであろう菱谷にだけは、ミッションの実行を伝えた。
無意識にアシストをされてもなんだし。
今回は、俺だけで完結したかったから。
だが、返答は芳しくない。
「うわぁ……。マブダチにはあんまり言いたくないけど、そんな面倒臭い事を考えるなら、普通に話しかければ良いと思うけどね」
……どうやら現役リア充コミュ力お化けは、その勇気がないのを理解していないらしい。
故に、「菱谷としか話せない俺には、ハードルが高すぎるわ」と素直に告げた。
すると、菱谷は「そっか……」と、しおらしく答えた。
……んっ? なんだ? 勘に触る事でも言ったか?
とは思ったが、話を続ける。
「何にせよ、アシストは要らないから、お前は普通に学生生活を続けてくれれば良いから」
その言葉を聞くと、「わかった」と小さく頷く。
続けて、電車のシートにもたれ掛かりながら、こんな事を呟いた。
「……てか、今日は登校中でも普通に話してくれるんだね。ちょっとだけ嬉しいかもっ! 」
あどけない笑顔をこちらに向けてきた。
……おいおい、かわぃ……。
ハッと我に帰る。
「は、はぁ?! し、知らねえしっ! お、俺は、お前に邪魔されたくなくて忠告しているだけだしっ! はぁ?! は、はぁ?!?! 」
照れ隠しに思わず騒ぐと、サラリーマンに睨まれながら咳払いをされた。
それに対して、力無く「すみません……」と呟いた。
菱谷め、いちいち俺の心をかき乱しやがって。
そんな風に、思考が乱れる内に、学校に到着した。
*********
では、教室に到着したところで、早速今日のミッションの概要を説明しよう。
ターゲットは、あの大人しそうな黒髪ロングの眼鏡少女。
入学式の後の自己紹介では菱谷がいる事に対してテンパリすぎて名前を聞いていなかった。
ちな、俺の挨拶は散々。ボソッと喋ってサラッと終わった。周りからの反応はなかった。菱谷はニヤニヤと笑ってた。残念すぎたからそこは忘れよう。
その後、座席名簿に目を通した事で、対象の名が"今宮サヨ"であると特定。
ぶっちゃけ、それ以外の情報は掴めなかった。
強いて言えば、本好きくらい。
あれだけ夢中になっているんだ。
見ればすぐに分かる。
……と言う事で、友人との会話の中でさりげなくこちらを気にする菱谷を横目に、早速、作戦を実行するとしよう。
今回は"ある計画"を練ってきた。
内容は、移動授業の際に彼女の近くでさりげなくペンを落とす。
拾って貰った所で、お礼を伝えるついでに、さり気なく会話へとシフト。
野球ばかりしていたからあまり本を読んだ事はないが、無理やり読書の話題を振ろうか。
「ところで、何を読んでるの? 良かったら面白い本を教えてよ」的な、ね。
生憎、次の二限は音楽の授業。否が応でも動くだろう。
ここはコミュ障の見せ所。
キッカケさえあれば出来る気がした。
そう「自信を持て」と自分に言い聞かせると、深呼吸をした後で、意を決して立ち上がる。
しかし、今宮さんは、授業が終わるや否や取り出した本に夢中になっていて、クラスメイト達が移動を開始しても、その場から立ち上がることはなかった。
……ちょっと待って。まさか、次が音楽だと忘れているのか?
俺は、予想外の展開に焦る。
説明しようっ! 実は俺、アドリブに超弱いのだぁ! ドンっ!
故に、彼女が読書に夢中になって立ち上がらない事実を目の前に、思いっきり固まる。
気がつけば、教室には数名の生徒を残すだけとなっていた。
く、くそっ! 何故だっ! なぜ動かないっ!
脂汗が全身から溢れる。
このままでは……。
俺はその場に立ち尽くしながら、動揺していた。
……すると、現状に見かねたのか、菱谷はミカちゃんとヨウコちゃんに「ちょっと用事があるから先に行ってて」と彼女らを遠ざけた後で、俺にこんな耳打ちをした。
「何してんの? 逆にチャンスじゃん。『次、音楽の授業だよ』って伝えれば自然なんじゃないの? 」
そう助言をすると、腐れ縁の味方は俺の元を離れた。
……確かに。言われた通りだ。
今、ちょうどクラスには俺と今宮さんしか居ない。
つまり、チャンス到来だ。
結局、サポートを受けてしまった身ではあるが、名案でしかない。
し、しかし、初対面の女子に、い、いきなり、は、話しかけるなんて、ま、まずいだろ……。
震える。脳裏で葛藤が生まれる。
キモがられたらどうしよう、と。
そんな緊張で武者震いをする。
だが、せっかく菱谷から貰った助言。
ここで踏み出さなくて、漢になれるか。
じ、じゃあ、行くぞ!!
俺はそう覚悟を決めると、重すぎる右足を彼女の方へ踏み出した。
……だが、その瞬間。
今宮さんは「パタン」と本を畳むと、満足げな表情を浮かべた後で、勢いよく立ち上がって、早歩きで教室を後にしたのであった。
俺の存在に全く気づかず。
同時に、たった一人固まったまま取り残される。
これは……。
完全に、ミッション失敗を意味していた。
故に、俺は呆然としたまま音楽の教科書を手に取ると、真っ白な状態で移動を始めた。
……なんて、ことだ……。
圧倒的敗北感と共に。
そして、無気力に教室を出ようとする。
――しかし、廊下に踏み出すと、そこには今回のターゲット今宮さんが立っていたのだ。
「あの……。昨日の夕方から思っていたんですけど、チラチラとこちらを見てどうしたんですか? 」
……どうやら、バレていたらしい。
そこで早速、窮地に立たされた。
つまり、彼女からすると、俺は完全に不審者。
この絶体絶命のピンチ、どう乗り切れば良いのであろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます