31〜

第31話 普通という名の呪い

『その……すんませんでしたッ!』


 は?

 何を言っているんだ、お前は。


『攻撃するつもりはコイツには全くなくて、魔眼のせいで石になっちゃっただけで』


 ダークディグラーはそう言うと、まだ無傷なバジリスクの左眼に大きめの眼帯を巻きつけてみせた。脳内再生で『ほら、これなら――』とゴマをするような動きをしている。 

 

「攻撃するつもりがなかったのなら、何故あの人たちを殺したんだ!」

『それは正当防衛……いや、些か過剰だったかもしれやせんがね。人族であれ、魔物であれ死にたくないのは同じでございますよ』


 それはそうかもしれないが、この状況はどう見ても過剰も過剰。僕は奴らに「どう落とし前を着けるのか」と詰め寄ると、2体は慌てて土下座で平謝り。


『もう、人族は襲わねえと約束します。なあ、お前もだろ?』


 ウンウンと頭を縦に振るバジリスク。


「分かった、それじゃあ――」

『僭越ながら! ひとつ条件というか……お願いを聞いてはくれやせんか?』


 ダークディグラは土下座の状態のまま顔をゆっくりと上げると、再びゴマをするように動いた。それにしてもこんな動き、どこで覚えたのやら。


「なんだ?」


 聞き返してからの間が異様に嫌な予感がする。


『オイラたちを子分にしてくだせえ!!』


 いやあ、無理でしょ。


『そ、そんなあ……』

「え? もしかして心読めるの?」

『ええまあ、心で会話しているようなものですし』


 その後、僕は何度もこの2体の魔物に頭を下げられ、断り続けた。そんなコントみたいなことをやっていると、戦闘の気配が無くなったことに違和感を感じたダリオンとアレクが戻ってきた。


『あっ、さっきはすいやせんでした!』

「これは一体、どういう……?」


 そりゃそうなるよな。

 僕は2人にここまでに起きたことを説明し、納得はされなかったものの、“そういうものだ”という感じで落とし込んでもらった。


「そうだ、子分になりたいならこの2人のどちらかでも良いんじゃないか?」

『かなり申し上げにくいのですけど……ダンナの方が強いでしょうから、その……』


「まあバルトよりは弱いね」

「悔しいけどな」


 悔しくなさそうだぞ。

 あ、変に見栄を張って魔物2体の面倒を見るのが嫌なんだな。

 

 絶交します。


「それはそれとして、もうすぐ騎士団が来る。子分にするならそっちの方が被害は少なく済むんじゃないか?」

『名案ですぜ!』

「いやいやいやいや……」


 騎士団との戦闘となれば死傷者が出ないわけがないし、この2体も別段“攻撃的”というわけではなさそうだ。今だってこちらをウルウルとした瞳で見つめているのだから。


「はあ、分かったよ。契約みたいなのってできるのか?」

『〈魔の契約〉がオススメですぜ。ですがダンナの今の魔力量では人間の姿になることはできませんな』


 〈魔の契約〉は本来、奴隷やペットを従わせる強力な“呪い”の一種であり、主人の命令には死んでも逆らえず、死後の魂もが束縛されるという恐ろしいものだ。

 ちなみに、スキルの【テイム】やバルト兄さんの【調教師】などと似ているが、この契約は魔力がある者なら誰でもでき、加えて強制力の面においてはこれらのスキルよりも遥かに上なのだ。


「お前たちはそれで良いのか? 強力な呪いなわけだし、やめておいた方が」

『いいえ! オイラたちは魔物としての生活に飽き飽きしていたんです。もっとの生活が送りたい、と!』


 その言葉で僕は彼らと契約を交わすことに決めた。


「待たせたな!」

「アラン団長、お疲れ様です」

「えっと、もしかして終わっちゃったの?」


「ええ、万事解決です!」


『この男、なんだか胡散臭い顔をしてますな』

『私もこの男の匂いは嫌いですわ』


 僕の懐では一時的に霊魂となった2体の魔物が楽しそうに話していた。


 これはどう考えても

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