第32話 認め合い、高め合い
『ダンナ、今日はどこに行くんですかい?』
あの後、騎士団が到着し、アラン団長に事の顛末を(魔の契約をしたという部分は省いて)説明した。そして騎士学校に戻った今日もライアン先生に同じことを説明。2人とも納得していなかったようだが「バルトだから」という理由で認められた。
「今日はこれからお見舞いだ。それにしても、バジリの片鱗があって助かったよ」
『いえいえ、お役に立てたのなら良かったです』
『オイラは役に立たないみたいな言い方を――』
「当たり前だろう!? グラウス、お前が現れた跡の説明が1番大変だったんだから」
『す、すいやせん……』
僕は子分となった2体に名前をつけてやった。
妖艶なお姉さん感が漂うバジリスクのメスはバジリと、江戸っ子風なダークディグラのオスにはグラウスと名付けた。
『お見舞いというのは、その……私が蹴り飛ばしたあの女性ですか?』
「ああ、イシュクルテのところだ。ちゃんと謝れよ」
『も、もちろんですわ』
緊急招集があった僕たちは今日の訓練を免除。その隙に騎士学校の医務室へ運び込まれたイシュクルテのお見舞いに向かった。幸い命に別状はなく、脚を骨折しただけらしい――のだが。
「随分と元気そうだね」
彼女はムシャムシャと骨つき肉を頬張っていて、聞けば松葉杖も要らないほど急速に回復しているそう。
「わ、わざわざ私のためにきてくれたの?」
「あれだけ吹き飛ばされたら心配にもなるよ」
「そ、そうか、ありがとう……」
さてどこから説明しようか。
彼女は信頼における人物だということはわかっている。でも、もしバジリの声に反応して憤慨してしまったら、それこそ信頼関係などというものも無くなり、僕は騎士学校にいられなくなってしまう。
だけど隠し続けるのは無理だろうし、僕のプライドが許さない。
「あのさ、イシュクルテ。例のバジリスクなんだけどさ」
「ああ、配下にしたんですって? さっきダリオンがお見舞いに来て教えてくれたわ」
なんだか覚悟を決めて言い出したのが馬鹿らしくなってしまった。
「私に気を遣ったのなら、それは要らぬ心配よ」
「でも戦ってこうなっているわけだし……」
「それは、悔しいけど私の実力不足。あのバジリスクに罪はない」
あくまでも自分の力が足りなかったから負けたのだ、謝ることは何もないと言うイシュクルテに対し、それを聞いていたバジリが自ずから口を開いた。
『イシュクルテ殿、戦いの中での出来事とはいえ、この度は大変申し訳なかった』
彼女は突然聞こえた声に驚いていたようだったが、すぐにその正体がバジリスクだと分かると声色を変えた。
「聞こえていただろうけど、謝罪は不要。それに、次は負けないから覚悟しておいて」
「次って……バジリにはもう人は襲わないよう約束してもらったんだ」
「なら、練習相手として稽古をつけてほしい!」
いつにも増して目をギラつかせるイシュクルテ。
『私はかまいませんが……』
「負けっぱなしでは悔しいしな!」
あまりの勢いに流石のバジリもタジタジ。
「それと……女だということが1番納得いかない……」
何やら呟いていたがきっとやる気の表れだろう。しかし――
「魔力不足で元の姿に戻れなくなったああ?!!」
『はい、残念ながら旦那様の現在の魔力量では難しいかと』
「よし、特訓だ!」
翌日から僕の魔力増強訓練が始まった。
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