第5話 遂行

 エリア51は砂漠が広がる荒れ地だが、その中にアメリカ空軍の基地がある。基地からはある程度離れた場所に、彼とエリック…いやその肉体はひとつなのだが…は立っていた。先ほど撃墜した戦闘機から立ち上る煙が三本遠くに見えている。


『君たちの種族は馬鹿なのか?最初の飛翔体の攻撃で何ら効果が無いことは分かったはずだ。なのになぜもう一度同じ行動を繰り返すんだ?』エリックは頭の中で彼に答える。

『軍という組織は上官から攻撃中止命令が出ない限りは、攻撃を繰り返さなければいけないんだ』

『我々には理解不能だな。しかし24時間後に行動を開始するとして、我々一機だけでは地球に存在する人類は多すぎる。君の言う核弾頭という奴を使えば効率的に人類を間引けるような気がするのだが、それではだめなのか?』

『人類は君たちが言う通り、愚かにも何度も自分たちを全滅させられるだけの核という攻撃手段を持っている。しかしそれは一部の先進国向けに照準が合わされていて、完全にランダムに人類を淘汰するという、君たちの考えからすれば偏りが生じてしまうだろう。ここは手がかかっても複数の機体で各地で活動すべきだろう』


『前に話した通り、我々の機体は一機起動するには人間の肉体と精神が一人分必要だ。月面にいる君たちだけでは数基しか起動できないだろう。まずは己を提供する意思のあるものを集めて、月面に連れ帰る必要がある。なかなかに手がかかるぞ』

『それでも、人類の存続の為に大量虐殺をするのだから不公平があってはいけない。それが君と融合するときの俺の条件だったはずだ。それより君が言っていたひふみとかいう奴らはいつ出て来るんだ?』

『心配はいらない。我々の波動を彼らが感じ取れるように、彼らの波動は我々も感じることができる。ほら君にも分かるだろう。彼が近づいてくる気配が…』


 ◇


『続きは私から話そう』確かに琢磨にはその石像がそう言ったように聞こえた。


『君たちが気付いているかどうかは知らないが、この太陽系には太陽の連星であるもう一つの恒星ネメシスが存在している。それは2600万年周期で太陽に接近する。次の接近までは2000万年以上あるのでそれは問題ないが、このネメシスにも衛星…惑星と言った方がいいかもしれない…が、存在していて知的生命体もいる。彼らの脅威に対抗すべく人類は月の地下で人型兵器を製造して残して来たのだ。そうして彼らの監視役として地上にも三体の人型兵器が配置された」


「今風の言葉で言いかえると『縄文式玉髄』って事になるんだ。玉髄ってのは石英の微小な結晶で出来た鉱石だ」胸の中の小人が付け加えた。


「人型兵器は石でできているのか?」琢磨は驚いた。この手の機械は金属製と相場が決まっている。ファンタジー世界のゴーレムでもない限り、石が動いて戦うなど全くもって想像ができなかった。


「鉄なんてたかだか硬度4の鉱物だ。その点玉髄は硬度が7もあるんだぜ」小人が得意気に言う。


『我々は君たちの文明とは全く異なった理をもっている。太陽は常に陰陽波という波動を放射し続けているが、この陰派を動力源としているのが月の玉髄で、我ら地上の機体は陽波を動力源としている。陰派は動力源であるだけではない。君らの科学ではこの陰派で覆われている彼らを攻撃しても傷ひとつつけることは叶わないだろう』


「それで僕をここに呼びだした理由は何なんですか?」


『我々の機体の起動には君たち人間の肉体と精神が必要になるんだ。しかも地上に残された機体に関しては、縄文人のDNAを色濃く受け継いだ人間が必要になる。君は少しまわりの人間とは違っていただろう?詳しくはまた今度説明……私が君と融合して起動すれば説明は不要かもしれないがな…とにかく既に月から玉髄が一機地上に降り立ったようだ。彼らが人類に害をなす存在となった場合には、我々がそれを止めなければならない』

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