第164話 お茶会(三)
「みんなゆっくりと楽しんでいってね」
その言葉を残して王妃殿下は退出した。指が鳴ってたのは気のせいだと思いたい。
「王妃様ってすごい魔術師だったって母から聞いてるけど……」
俺はぐったりしているアリファーンに水を向けた。
「あ、ああ……最年少の魔法師試験合格者だったと聞いている」
「魔法師試験てあれだろ? 国家資格の。魔法の講師や宮廷魔法師になる第一歩の必須資格ってやつ」
タビーがどんな試験か解説してくれた! ルーンがそういう資格があるんですねと感心している。
「母はその資格を取ってすぐ貴族学院での魔法講師の仕事に就いたそうだ」
それで母を教えたのかな?
「私も母に少し魔法の手ほどきをしてもらったことがあるが……」
スパルタ!? スパルタだった?
「なんというか、感覚的で少し難儀した」
そっちか~! キュッとしてバーンとか言われたんだきっと。
「うちの母も感覚派だからわかる。うちの母の魔法の師匠は王妃殿下だって聞いてるし」
母の感覚派は師匠譲りなんだな。二人そろったら無敵な気がする。
「ルオ、王都の雪は屋根まで積もらないから、溶かさなくて大丈夫だぞ」
タビーが俺の肩をそっと押さえた。
「いいの?」
「い、いいんですよ!」
ルーンも頷いた。
「雪?」
アリファーンが首を傾げた。
「今度教える」
タビーがそう言うとアリファーンが頷く。なんとなく話題を変えた方がいい気がする。
「さっきのええと、殿下が第一王子殿下?」
「ああ、そうだ。私の三つ上だから、卒業したばかりだな。公務を優先するとかで上級の学院には進学してないんだが」
「そうなんだ。将来の王様になるんだね」
「まだ立太子はしてないけれど、そうなるんじゃないかな? 長子が継ぐのが基本だしね」
アリファーンが苦笑しつつ言う。
「なんか問題あるの?」
「いや、なにかと私に突っかかって……こほん。いちゃも……こほん」
「正直に言っていいんじゃない?」
「もう、兄は! 私に王になる気持ちはないっていうのに! なにかと絡んでくるんだ! もういい加減にして欲しい!」
おお?
周りの使用人がすすっと離れて聞いてませんと言う顔をした。気配も消してる感じだ。
「私は確かに兄に何かあった時のスペアで帝王学を学んでいるが、あくまでスペアなんだ。そこのところを理解して欲しい」
あー、もしかしてアリファーンの方が優秀と思われてるみたいな? 人望はアリファーンのがありそうな気がするな。
「王妃殿下がガツンと言ってくれるんじゃない?」
「そうなることを願うよ」
はあ、とアリファーンは深いため息を吐いた。
俺とルーンとタビーは顔を見合わせて何とも言えない表情を浮かべた。
その後は学院のこととか、課題のこととかを話してお茶会は終わった。
名残惜しそうなアリファーンに手を振って別れた。
それぞれの馬車に別れて帰宅の途に着いた。
「それぞれに悩みがあるんだね」
ぼそっと呟いたら、スピネルが優しげな顔をした。
「ルオ様も何かお悩みが?」
「もちろんだよ。……いろいろと」
「大変ですな。手助けができるようでしたらおっしゃってくださいませ」
「ありがとう」
(主悩みがあるの?)
(課題とか、ガラスとか? ラヴァに手伝ってもらうことも出てくるからその時はよろしくね)
(わかった!)
ラヴァが頬を摺り寄せてきた。ほんのりあったかくて、外は寒いのにとってもあったかくなった。
「お帰り、ルオ」
師匠が出迎えてくれた。
「あのね、王妃殿下って武闘派だった!」
「何をやったんだ? あいつは」
「あいつ?」
「ああ、いや。とりあえず中に入れ、風邪を引く」
「はい」
すぐ夕食になって師匠に報告した。
「第一王子殿下がそんな感じなのか」
「それで、王妃殿下が威圧を」
「何をやってるんだ」
師匠が頭を抱えていた。
「だから、武闘派だって……」
「ああ、俺の知っている王妃殿下はそれこそ拳一つで男子生徒を黙らせていたからあながち間違いじゃないと思うが」
「こぶし」
ステゴロ?
「魔法で身体強化して殴るから、被害が半端じゃなかったぞ」
「え! ほんとに殴ってたの!?」
「美人で狙われるから身に着けた護身術だって言っていたが……」
師匠が遠い目をした。あれ? 師匠と王妃殿下って親しかったのかな?
「まあ、さすがに今は殴らないだろう」
指鳴らしてたからわからないよ。師匠!
後日、料理人へお菓子のレシピを買い取りたいという王宮からの依頼が来たと師匠が言っていた。
「エリックと一緒に作ったお菓子ですから、相談します」
そう料理人が言っていたので師匠が手紙を飛ばしていた。
「カラフルなお菓子も美味しかったよ。ふわさくって感じで」
「くわしく!」
料理人が食いついた。新しいレシピに飢えてるのかな?
でも、着色料はわからないんだよね。あれって前世でいうマカロンぽいんだよな。
とりあえず砂糖と卵白と木の実の粉っぽいと言っておいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます