第163話 お茶会(二)

 案内された一室には丸いテーブルと、椅子が五つ。

 空いている椅子は一つきり。そして、この場に女性は一人きりだ。

 王妃殿下は物凄い美人だ。金髪を綺麗に結い上げ、青い目はきらきらしてパッチリしているけれど優し気な感じだ。白い肌に控えめなアクセサリーと華美ではないが質素でもないふわりとしたデイドレス。一部に絹のルヴェール染めを使っている。

 正面に王妃殿下、その右隣にアリファーン、左隣にルーン、ルーンの隣にタビーがいた。俺が最後か。アリファーンの隣かあ。王妃様の隣じゃないのはよかったけれど。

 スピネルと侍女頭は他の使用人が控えている側に行って控えた。


「お招きにあずかり、光栄です。お初にお目にかかります。フルオライト・ルヴェールです」

「ようこそ、いらっしゃい。今日は本当に身内だけのお茶会なの。畏まらずに楽しんでいって。さ、席について。始めましょう」

 フットマンなのだろうか、若めの男性に椅子を引かれて座る。

 王妃殿下の侍女がお茶を淹れてくれる。

 ふわりと柑橘系の香りがした。


「どうぞ召し上がって」

 まず王妃殿下が口をつけた。俺は鑑定を使ったけれど、特に何もなかった。咎められもしなかった。

 テーブルの中央には花が飾ってあって、白いテーブルクロスが掛けられている。

 侍女が押してきたワゴンの上にはお菓子の皿が乗っていた。俺が持ってきたお菓子もあった。

 ワゴンが王妃様のところにまず行き、テーブルの皿に取り分けられた。

 それからルーン、アリファーン、俺と回ってきた。

 これは身分順か。

「お好きなものをどうぞ」

「では、それと、これを」

 見たことのないカラフルなお菓子を取ってもらった。

 とりあえずみんな鑑定して何ともないのを確認した。


 そして本格的にお茶会が始まった。

「皆、アリファーンと仲良くしてくれてありがとう。合同演習では助けられたと言っていたわ。本当にありがとう」

「いえ、一緒に逃げただけですし」

 ルーンが申し訳なさげにして両手を横に振った。

「お……私もそうです」

 タビーがものすごく緊張した顔で言った。

「いえ、助けたのは冒険者と先生なので……」

「あら、そうだったの?」

「ええ、ヴァンデラー先生が魔法であっという間に」

 俺は師匠にすべてを押し付けた。

「ヴァンデラー先生が……そうなの。さすがは賢者ね。……あら、お菓子もどうぞ遠慮なく食べてほしいわ。こちらは……」


 王妃殿下はお菓子の説明をしてくれた。


 それからは和やかにアリファーンが普段学院でどう過ごしているかとか、そう言った話題を中心に話した。

 王妃殿下は常に穏やかな笑みを浮かべて柔らかに話しているので、母の師匠というのが少し信じられないくらいだった。

 そろそろお開きの時間かな、という頃に入口の扉前が騒がしくなった。

「今、お茶会の最中で……」

「いいだろう? 母の……」

「いけません殿下!」

 バンと扉が開いて一人の人物が入ってきた。金髪に琥珀の瞳。顔はどことなくアリファーンに似ていた。


 スピネルがすすっと静かに移動し俺の後ろに陣取った。

「弟よ。元気でやっているそうだな」

「フェン兄様。母主催のお茶会ですよ」

「母上、ぜひ私も参加させていただきたいのですが」

「フェン、今回はアリファーンがお世話になっている学院のお友達を招待したのよ。今回は遠慮してほしいわ」

「そう言わずに」

「フェン」

 王妃殿下の周りの空気の温度が下がった。

 威圧だ。水属性が得意なのかな?

「わかりました。いずれ紹介してもらえるだろう? アリファーン」

「……はい。いずれ」

「お邪魔してしまいましたね。では失礼します」

 貴族の礼を取って、出ていった。最後まで名のりはしなかった。


「困った子ね」

「すまない。今のは私の兄でフェン・オーアだ。挨拶もなしで無礼だったかと思うが……」

「い、いえ、大丈夫です!」

「はい、全然!」

「大丈夫です!」

 ルーン、タビー俺は全力で顔を横に振った。

「ほんとにね。一度締めないとダメかしら。最近どうも、尊大な態度が鼻につくようになってきたわ。しつけ間違えたかしら?」

 低い声で聞こえた言葉に俺たちは心の底から震えた。

 母の師匠はやっぱり母の師匠だった!

 武闘派! 絶対武闘派だよ!




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