第162話 お茶会
「これで大丈夫?」
贈られてきたお茶会用の衣装を身に着ける。着心地はいいのに、居心地は悪い。地味なようでめちゃくちゃいい生地が使われていて、汚さないかはらはらする。王宮は魔法使えない可能性あるから、結界とか使わないように言われたけど、魔道具はどうなんだろう。一応前にもらった一人用結界バージョンⅢを持っていって大丈夫だろうか。
「あれか? うーん、ちょっと待っていろ」
師匠がなにか呟いて部屋を出ていった。
「ルオ様、もう少し我慢してください」
「あ、はい」
着付けまだ終わってなかったよ!
しばらくしたら師匠が戻ってきた。
「よし! これなら大丈夫だろう。一人用結界隠密くん一号だ」
師匠! ネーミング!
「こほん。正式名称はそれでない方がよろしいかと」
スピネルが突っ込んだ。
「え、あ……し、試作だからいいんだ」
まさか今作ってきたの!?
小さな魔石がペンダントに嵌っている。
「魔力を流せば張れる」
師匠がペンダントを首に掛けてくれて、服の中に隠す。
魔力を流すと薄く体に膜を張ったような結界ができる。しかも、これ、感知できない奴だ。
「王宮の警報にも引っ掛からないはずだが、引っ掛かったら謝るからカルヴァを通して教えてくれ」
謝るんだ! 俺かな? 王妃様かな?
「わかった。ラヴァ、カルヴァに連絡よろしくね」
(任せて!)
ラヴァがいつも通り前足を上げて頷く。王宮にラヴァは連れて行ってもいいことになっているんだけど、大丈夫かな? もちろんアームはお留守番らしいけどどこか土の中に潜んでることはありそう。
支度が出来て手土産(料理人特製のお茶菓子)を持って馬車に乗り込んだ。今回は付き人にスピネルと侍女頭がついてくる。師匠は来ない。招待されてないしね。
王妃様には絶対会いたくないらしい。何故だ。
馬車の中で、挨拶の言葉を反芻していたらあっという間に王城だった。
スピネルが招待状を見せると、衛兵が馬車の中を改めて通過のお許しをもらって王城の門をくぐった。城壁は結構な高さがあって、それでも王城の威容は見えるから、大きいということがわかる。
門の先には中庭があって、衛兵が見回っているのが見える。
馬車は王城の正面ではなく、もう少し格の落ちる門の前で止まった。
その門の前には騎士らしき人が待っていた。
「フルオライト・ルヴェール様ですね。ご案内いたします」
俺とスピネルと侍女頭は案内する騎士の後をついて王城の中に入った。
天井が高く廊下の壁には所々絵画が飾ってあった。
通路は緩くカーブを描いていて建物に沿って作られているのかなと思う。
天井へ伸びる柱はゴシック様式に近く高い天井と、光を取り入れたステンドグラス窓。
そういえば一時王族で流行ったとか、師匠が言ってた気がする。
前世のヨーロッパの宮殿の中を歩いているようでちょっとわくわくする。
「こちらでしばしお待ちください」
小さな控えの間のような場所に案内された。
「ルオ様、こちらにお座りください」
スピネルがソファーに座るように言うので座った。沈む!
「すごい、ふかふかだ」
「ルオ様、言葉が」
スピネルに注意されて口を押さえた。
扉がノックされて、侍女頭が開ける。
王宮の侍女がワゴンを持って現れた。お茶を淹れてくれるらしい。
侍女が紅茶を俺の前のテーブルに置く。
仕草は優雅で、音一つしない。置かれた紅茶からふわりと芳香が広がった。
「しばしお待ちください」
ワゴンを置いて侍女が出ていった。
飲もうとしたら先に侍女頭が残ったポットから手にした小さな皿に紅茶を注ぎ口に含んだ。
え、毒見!?
思わず紅茶を鑑定したけれど、毒は入ってなかった。
「え、王宮で?」
「王宮だからこそです」
スピネルが言った。
「これからは鑑定するから、大丈夫。警報もならないし」
「かしこまりました」
侍女頭がワゴンの脇に下がった。
王宮の侍女が淹れてくれた紅茶は物凄く美味しかった。
しばらく紅茶を味わっていると、ノックがされて、また騎士が現れた。
「ご案内いたします」
俺たち三人は騎士の後について歩いた。
しばらくすると、観音扉の前に着いた。
騎士がノックする。
「フルオライト・ルヴェール様がいらっしゃいました」
そうすると扉が開き、侍女が顔を出す。
「どうぞ中へ、お待ちしておりました」
騎士が頷くので、俺は扉の中へと入った。
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