第161話 雪と言えば
「おはよう!」
翌朝、食堂に案内されたらもうタビーとルーンは席に着いていた。師匠もいる。
「おはよう」
「お、おはようございます」
「おはよう。雪積もってるぞ」
タビー、ルーン、師匠と声をかけられながら席に着く。
雪が積もってるのか。雪溶かさないとダメだよね。
「馬車が通れるのか確認してから送っていくから二人ともゆっくりしていくといい」
「ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます」
「後で庭に出てみようよ!」
俺は二人を誘ってみる。雪がどのくらいなのか見たいし。
「雪が降ってなきゃ、まあ」
「いいですよ!」
「やった!」
俺はそうと決まればと朝食に手を付けた。出来立ての朝食はとっても美味しかった。
師匠は微笑ましげに見て、手早く食事をして出ていった。
いつも忙しいものね。
食事が終わると、一旦部屋に戻ってコートを着て玄関前に集合だ。着替えるとラヴァが首に巻きつくように乗っかった。
(僕、温める!)
ラヴァがあったかくなって、ポカポカしてきた。
「ありがとう、ラヴァ」
玄関のエントランスに集合したら、スピネルが扉を開けてくれた。
「う、寒い」
タビーが吹き込む冷気に怯んだ。
「わあ、真っ白!」
ルーンは景色に見惚れ、誘われるように外に出た。
俺もそれを追って外に出る。
何故だか結界を張らないといけない気がした。
「雪、溶かすね! ラヴァスタンバイ!」
「え? ルオ?」
「ど、どうしたんですか? ルオ、目が……」
(主! もっとあっためる?)
きゅっと首に巻きついてるラヴァがますますあったかくなる。
「ファイアー!」
母様と訓練してた時ファイアーボールを主に使ったんだけど、段々面倒になってガスバーナーのような感じになっちゃったんだよね。
火炎放射器のノズルが俺の手だ。
「ま、待て、ルオ!」
「そうですよ! 庭に草木があります!」
「大丈夫! イメージで雪以外溶かさないって思ってれば燃えないから!」
「ええ!?」
「ル、ルオ様、そんなわけは……」
呆然としてたスピネルが突っ込んだ後、奥へ走っていった。
「よし、どんどん行くよー!!」
俺は屋敷の周りを除雪しまくった。ついでに屋敷前の道も。
タビーとルーンはぽかんとしていた。
「完璧?」
思わず腰に手を当てて胸を張った。
スピネルが師匠を連れてきたが、俺と庭を見比べてあちゃと呟いて顔に手を当てていた。
とにかく外は寒いので中に入った。
「ルオ、なんというか、すまん」
なぜか師匠に謝られた。
「ルオ、大変だったんだな」
しんみりとしたタビーの目が憐憫に溢れている。
「ルオ、王都はそんなに雪積もらないから!」
「え? あっという間に溶けちゃったから、物足りないくらいなんだけど」
道行く人が、うちだけが雪がないので、時折のぞき込んだりしていた。
「馬車の御者の席で、道の雪解かしてもいいよ?」
「それは冒険者の雪かきの仕事を妨害してしまうから却下だ」
あ、そうか。そうだよね。
「わかった。また積もったら屋敷の周りだけすればいいんだよね」
「本当に申し訳ない」
なぜか、師匠が土下座した。
「奥様に手紙を書くか」
なんで手紙を書くのだろう?
(主、僕も今度ブレス吐きたい)
「そうだね。一緒に力合わせて溶かそうか」
「そ、それだけはやめてくれ」
師匠に懇願された。
「わかった」
(つまんない)
「ルオ、ルオはもう、魔力制御凄いことになってるからな?」
「そうですよ! 繊細な魔力の使い方です!」
「だから雪は溶かさなくていいと思うんだ。ここは王都で、ルヴェールじゃないからな」
タビーとルーンが代わる代わる説得してくる。必死だ。
「……王都は雪を溶かさないでいいの?」
「ああ、大丈夫だ。庭師が整えてくれるから」
師匠が土下座から立ち上がって頷いた。
「……わかった」
そうか、もう、冬にずっと雪解かさなくていいんだ。
「でもちょっと物足りない気もする」
そう呟くと三人は必死にいろいろ言ってきた。
訓練は学院でやるからとか、もうそんなに制御の訓練はしなくても十分だとか。
もしかして俺のこと、心配してくれた?
嬉しいな。みんなが優しい。
師匠もなんだか優しい。あ、師匠はいつも優しいか。
それからみんなでお茶を飲んだ。お菓子もお茶も美味しかった。心もあったまるお茶だった。心が軽くなった気がした。
「皆様、馬車の通行が可能になったとのことです」
「よし、二人とも気をつけて帰れよ!」
師匠がほっとした様子で二人を見送る。師匠の馬車で送ってくれるんだけどね。
「お邪魔しました!」
「ありがとうございました!」
タビーとルーンは馬車に乗り込んで去っていった。
「さて、ルオはまたポーション作りだな」
「はーい」
中に戻ろうとしたら、また雪がちらついてきた。
「今年は雪が多いのかもな」
師匠が空を見上げて言った。
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