第160話 三人よれば……

「タビー、ルーン、遊びに来た!」

 バアン! と派手に扉を開けて、二人が泊まることになった客間にやってきた。

(来た)

 ラヴァも俺の肩の上で前足を上げて挨拶した。

 二人はパジャマに着替えていた。

 絹の薄いシャツとズボンだ。多分これ、カリーヌが狩ってきた魔物の糸から作られたと思う。うっすら水色なんだもの。

「おお? もう寝ようかと思っていたんだが……」

「そうです。寒いですしね」

 ちらっとルーンが窓を見る。

 この部屋にはガラスが嵌っているんだ。

 俺は窓に寄ってガラス窓を開けた。その外側の鎧戸を開ける。びゅうっと冷たい風と共に雪が舞い込んできた。結構降ってる。

「お、おい! 寒いのに開けるな!」

「そうですよ!」

 二人に止められてしぶしぶ窓を閉めた。


「温風」

 俺はあったかくなる魔法を使った。髪を乾かすのに使うんだけど、部屋全体に使えばあったかくなるよね。

「おお? あったかい。これ生活魔法か?」

「そうそう。髪乾かす時とか便利だよ」

「へえ。風属性ですか?」

「生活魔法だから属性はないんじゃないかな?」

 俺はベッドに腰かけた。

(主、暖める?)

 ラヴァが俺の肩から降りて、サイドテーブルに乗って気合いを入れた。

(むむ!)

 ふわっと熱気がラヴァから漂ってきて、ラヴァの身体が赤いもやに包まれる。

「ええ、すごい!」

(ふふ、僕すごい)

 ラヴァが自慢気だ。

「ありがとうラヴァ」

 タビーが感謝の言葉を口にするとますます得意げな顔になった。

「可愛いですね」

 ルーンが相好を崩す。顔が見てはいけないほど緩んでいる。

「うん。ラヴァは可愛いよ」

(……)

 アームが眉間に皺を寄せていた。タビーの肩の上で。

「おい、土の精霊なんだから気にするなよ」

 タビーが頬をツンツンしていた。


「お二人とも、精霊に好かれるなんてすごいですね。私は嫌われているようで……というか、私の里自体がですが……なぜかはわからないんですけど」

(ルーン、大丈夫! 嫌ってない)

 ぴょんとラヴァがルーンの太腿の上に飛び乗る。

「!!!!!」

 あ、ルーンの感激度が天元突破した模様。

「アーム、どうなんだ?」

(特に嫌な気配はしないけど)

「だってさ、ルーン、その内巡り合えるんじゃないか?」

 タビーがそう言うとこくこくと嬉しそうにルーンが頷いた。

「だといいですねえ」

 精霊眼でルーンを見ると、下級精霊が周りにいる。ルーンの魔力、食べてそう。

「大丈夫、周り見たら? ちゃんといるよ?」

「いる?」

 ルーンがきょろきょろと周りを見ると、さあっと下級精霊がルーンの背中側に隠れてしまった。シャイなのかな?

「いないようですが……」

「いるんだけどなあ……」

 タビーが耐え切れないように笑いだした。


「嫌われてるというよりからかわれてるんじゃ……」

 タビーはベッドに倒れ込んでお腹を抱えた。

「そんなに笑うことかなあ?」

 ルーンがちょっと眉間に皺を寄せてむっとした顔になった。

「まあまあ。嫌われてないってうちのラヴァが言うならそうなんだと思うよ」

「だと嬉しいです」

 にこっと笑ったので機嫌は直ったっぽい。そしてラヴァが俺の肩に戻った。

「そういや、課題は終わったか?」

 タビーがやっと笑いを収めて起き上がる。

「半分くらいかな?」

 俺は課題を頭に浮かべて眉をよせた。

「俺はまだ三分の一くらいか」

「わ、私も半分くらい……」

「え、俺が一番進んでないのか」

 ショックだ~と言ってタビーは枕を抱え顎を乗せた。

「地道にやるしかないんじゃないかな? どこかで躓いてるとか?」

「うーん、学院がないから家のこと手伝ったりしてるくらいで、特に何がっていうわけじゃないんだけどな。つい気が緩むというか……」

「あ、わかります。普段寮はもっとうるさくて気が散るんですが、静かなのも気が散るって初めて知りました」

「わかる気がする。一人でやってても進まない時ってある」

 俺はうんうんと頷いた。

「学院の図書室とかで勉強したほうがはかどったな。あとはみんなでとかの方が」

 タビーが枕を抱えて言う。

 投げるのかな?

「少しは物音がしていた方が集中できるということですかね?」

 ルーンが首を傾げた。

「かもなあ」

 タビーと俺は頷いた。


 それからメイドさんが灯りを消しに来る時までたわいのない話で盛り上がった。

 メイドさんに俺は自分の部屋へと強制的に連れ去られて、ちゃんとベッドに入るまで見張られた。

 一緒の部屋にしてもらえばよかったなあ。

 枕投げはしなかったよ。うん。

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