第165話 冬休み、ガラスだ!
学院が休みの間も師匠は忙しそうで、すれ違いが多かったけれど、食事の時は顔を合わせるようにしてくれた。そこで課題の進捗具合や錬金術の課題、ガラスペンの技術の継承具合などを報告した。
「バーナーの方はまだ、調整する機構に手こずっているらしくて、もう少し待ってくれと言っていた。あと、ガラスを削る道具の方は調整を済ませたと言っていたから近いうちに持ってくるぞ」
「ほんと!」
「ああ。だからそれまでに課題を済ませておけよ」
「もちろん、頑張って片づける!」
(あ~あ、乗せられちゃって)
(乗せられてる? 乗ってるのは僕だよ?)
俺の頭の上でカルヴァとラヴァが何か言っていたが、俺の頭の中はすでに切子グラスでいっぱいだった。
まずは座学の課題をすませる。もともとあと少しだったので、何とか午前中で終えた。それからお昼を挟んで、工房に向かう。
日課のポーションとポーション瓶の作製をしてからハンスのいる細工室に向かった。
「ハンス~どう? うまく行ってる?」
ノックをしてそっと扉を開ける。冬なのにむっとした熱気が扉の隙間から漏れた。
集中しているようでこちらを向く気配はない。ハンスの側にガラスの精霊が佇んでいた。
それならばと隣の炉のある部屋に向かう。
「切子をするなら、被せガラスを作らないとな……」
透明なガラスに色ガラスを被せて、模様を刻み込むのが切子ガラス。伝統的な文様もある。
西洋と日本では道具も違うけれど。
でも、この世界の切子グラスを作りたいからそこにはあまりこだわらないけれど、切込みに反射する光を楽しみたいから伝統的な文様もある程度は取り入れたいと思ってはいる。
(被せガラス?)
「色を被せるの。作ってみるから炉に火を入れるよ」
(僕頑張る!)
「ありがとう、ラヴァ」
防護グラスとエプロンと手袋をして道具の準備もオッケー。
まず色ガラス。
やっぱりここは赤かな。
師匠の藍色もいいけれど。最初に作るのはラヴァの色だ。
溶解してくガラスを見ると心が浮き立つ。
時間をかけて溶かすのと、一気に溶かすのでは色の出方が違うのかな?
そこも検証したいな。
でも、時間が足りないから、ハンスの工房にお願い……は無理か。
今鏡やブローチとかで凄く忙しいらしいし、ガラスペンを製造するとなったら休む時間も無くなるかもな。
錬金術でもガラスを作るのはできたよな。
材料が揃えば加工でできる?
材料の溶けたガラスだったら、錬成か。
多分、成分まで特定できるし、ちゃんと成分を思い浮かべてその比率で材料をガラスにできるかも。
俺が作るのなら、それがいいかも。
炉を使うのはその先。
そうだよ。
俺にしかできない作品を作るなら、錬金術。
広めたい方はハンスの工房。
なにも、全部同じに作らなくてもいいはずだ。
元々ガラス工芸は一点もの。
型で作る物でも個体に差異は出る。
師匠がしたように俺だけの特許ガラス、作ってみようか。
名付けて時短ガラス。
……。
師匠のことネーミングセンスないって言ってごめんなさい。
それから、俺は錬成を繰り返し、鑑定で確かめつつガラスを作ることに専念した。
もちろん、夕食には切り上げた。
明日には被せガラス出来るかも。
「なんだ? ずいぶん機嫌がいいんだな」
「職人さんが来る前に準備終わりそうだなって思って」
「準備?」
「機械を使う元がないと、機械を試せないじゃない?」
「あ、ああ。そういうことか。ガラスを削るんだよな?」
「そうだよ。模様を刻むんだ」
「でも、あの機械はまっすぐにしか削れないんだろ?」
「やだなあ。真っ直ぐでもいろんな模様できるよ?」
「ん?」
「元を動かして刻むからね」
「そう……か?」
「できたら見せるから楽しみにしててね」
「なんだろう? 凄く心配になってきたぞ?」
「怪我はしないように手袋とかするから!」
「いや、そっちじゃない。そっちじゃないぞ?」
師匠がお腹を押さえた。
「大丈夫? 師匠?」
「まだ大丈夫だ。覚悟をしておく」
「変な師匠」
美味しく夕食をいただいて、その日は疲れたので早々に寝てしまった。
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