第157話 冬休み
「積もらない」
雪が降ったけれど、翌朝には止んでいて全然積もってなかった。
「王都はこんな感じだぞ。俺の実家なんか雪自体滅多に降らない」
師匠がそう言いながら朝食のパンを口にする。
「寒さもそれほどじゃないし、霊峰がないせいなのかな?」
「単純に気候があったかいってことじゃないか?」
「そうなんだ。がっかりだな」
「なんだ? 不満そうだな?」
「毎年、雪解かしてたからつい」
「ああ……習慣だったから落ち着かないとか?」
「なんとなく座りが悪い感じ? でもこれでガラス三昧できるね!」
多少の違和感があるけど、ガラスの前ではそんなの誤差だ。
「なるほど……ガラスは課題をこなした後だぞ?」
師匠が釘を刺す。膨らんだ風船がプシュッと音を立ててしぼんだ感じだ。ガラス……。
「はい」
それでも俺は素直に頷いた。
まずは学院の課題、錬金術の課題、ハンスへ色々なテクニックを見せること。
こんな順番かな?
(雪、溶かさない?)
「溶かすほど雪がないんだって」
(そっか)
「降ってきたら協力してね」
(もちろん頑張る!)
可愛いなあ。ラヴァは。ぎゅむっと抱っこして、部屋に戻って座学の課題から取り掛かった。
午前中は座学、お昼を挟んでポーション作製、ポーション瓶の錬成だ。
工房に行くとチャロに指導している師匠を見た。ポーション瓶の錬成だった。
「ルオ、課題は終わったのか?」
「今日の分は終わり。ポーション作ろうと思ってきたんだ」
「そうか。頑張ってるな」
師匠が褒めてくれた!
「うん。頑張る!」
「そうだ。ルオ、ポーション瓶の錬成を見せてくれないか?」
「え? いいけど? ポーション瓶、錬成」
ポーション瓶を想像して錬成スキルを意識して使うとできる、ポーション瓶。
手の上で光が収束して、ポーション瓶が現れた。
「え? ええ?」
チャロが驚いている。師匠はもっと錬成早いけど、チャロもたぶんできると思うのにな。
「慣れてきたな」
「そう? よく出来てる?」
「完璧だ」
「えへへ~じゃあ僕、あっちの部屋でポーションと瓶を作ってるから……」
いつもの調合室へ入ってポーション瓶を置く。今日のポーション瓶の作製数は五十。ポーションをそれに詰めるとすると、同じ数になるようにしないとな。
それから一心不乱に作って作って……最後のポーション瓶に詰め終わってやっと息をついた。
(主、お疲れさま)
「ありがとう、ラヴァ」
思わず抱きしめているとノックがした。すぐに扉が開く。
「ルオ……休んでたのか」
「今五十本目ができたから、お終いにしようと思って」
「……いい出来のポーションだな」
ポーションの出来はもう色でわかるからね。
「ありがとう! で、どうしたの?」
お小言とかじゃないといいな。
「チャロがもう一度錬成が見たいというので連れに来た」
「ええ? 師匠が見せればいいんじゃないの?」
「俺のは参考にならないらしい」
「ああ……」
師匠の錬成はあっという間だもんなあ。
それからチャロと一緒に錬成した。
結局チャロは魔力切れになりそうだったので、翌日に持ち越し。もう少しでできそうと言ってたから、何とかなるんじゃないのかな?
俺はハンスのところに向かった。
ノックをして扉を開ける。作業が終わるまで待って声をかけた。
「ハンス、お邪魔していい?」
ペン先を作っていたハンスが俺の方を振り向く。
「ルオ様!」
「やっと手が空いたから来たよ! ペン先はもう完璧じゃないのかな?」
作業服が入っている棚に手を伸ばして、ゴーグルとエプロンをつけた。
「色を付ける手法からやろうか?」
「お願いします」
「まずはね、金箔と銀箔を用意して……」
フューミングのやり方を教えた。
「で、ここにガラスの点を打つんだ。それで……」
突起のようなトゲトゲを打って溶かす。
そうすると模様がガラスの中に浮かぶのだ。これは外側に打って作る手法。管ガラスの内側に色を付けるのとまた違う。
「あれ? 同じようにしたと思ったんですけど……」
ハンスが同じようにして作ったものと俺の作ったものを見比べる。基本的な色味は同じだけど、模様も色も違う。
「ふふ、いいんだ。同じのはできないから、一点物の価値が出るでしょ?」
「……私は親方に同じものを作れって言われてきたんですが……」
ハンスは出来上がった花の浮かぶガラスを角度を変えて見る。
「同じデザインはできるけど、全く同じのはできないよ。型を作ってやるものだってちょっとずつ違うでしょ? 宙吹きの製品とか息のかけ方一つで変わるし、色ガラスだって、環境で同じ鉱物入れても変わるでしょ?」
前世ではガラスの原料はガラスメーカーから買っていたけど、今は自分たちで作っている。
それも、楽しいと思う。
「そうですね」
「世界に一つの作品って素敵だと思うんだ」
俺たち二人の周りをぐるぐる回っているガラスの精霊も頷く。ハンスには見えてないようだけどね。
「ハンスはきっとすごい作品できると思うなあ」
ハンスはじっと、自分で作ったフューミングのペンダントトップを見た。初めてで、こんな素敵にできるハンスは凄いよ。
「ありがとうございます。ルオ様」
「これの注意点だけ言っておくね」
「はい」
「金と銀だからお高いんだ」
「あ!」
「だから、練習するならこんな風に売れそうな作品に仕上げて欲しい。ここにチェーンか、革紐を通してペンダントにする」
「なるほど」
「あとはブローチとか。ガラスペンの軸もいいけど、それは今度ね」
「はい。わかりました」
ハンスもガラス馬鹿なんだな。ちょっと嬉しい。仲間だ!
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