第156話 冬休み前最後の学院

「はあ? そんなこと言われたのか?」

「うん」

「というか兄って言ったら、侯爵家の嫡男のことだよな。ああ、そういえば第一王子殿下と同い年か?」

「そうなんだ。取り巻き候補……他の派閥の候補はいないの? だって、上も下も西の侯爵派閥ってバランス的に悪い気がするんだけど」

「そもそも中立派だから王子の側近とか、あり得ないって話をしただろう? まあ、対価をもらうことにはなったが……そうだな……ちょっと第一王子殿下の周りを調べてみるか」

「ガラスの時間が削られてるし、お昼満足に食べられなかったし散々だよ」


 俺がため息を吐くと、師匠が封筒を見せてくれた。封蝋の紋章が王家だった。

「……王妃様のお茶会の招待状、もう届いてるぞ」

 早すぎるよ! 今日言われたばっかりだよ!?

「ええ……タビーたちが屋敷に来るって言ったらアリファーン殿下も遊びに来たいって言ってたし、なんだろう、そんな懐かれるようなことしてないのに」

「そうだなあ……そんなところかもなあ」

 師匠が苦笑していた。そんなところってどこなんだろう?

「招待状は参加の返事を出すほかはないな。話は変わるがマナーやダンスは乗馬は大丈夫か?」

「……ギードとカリーヌに頼んでくる!」

 特にダンスが危険なんだよ! 乗馬は何とかなるけど!

 二人は代わる代わる指導してくれた! さすが先輩!


 そして実技試験は何とかなった。


 他の座学も単位を順調にとった。

 それと並行して、父に持っていってもらう誕生日プレゼントを用意した。

 父には黒いガラスのガラスペン。魔馬のブルーのイメージだ。

 母にはペンダントトップ。フューミングで、花をガラスに閉じ込めたような模様にした。

 イオには透明な軸に剣のような模様が見えるガラスペンを作った。色は緑がメインカラー。

 それと、ネリアにも母とお揃いのペンダントトップを。母のものより小ぶりで、仕事にも差し支えないようにした。

 ローワンとウォルトは九月と八月だからまだいいかな?


 そして父が領に戻る日がやってきた。ハンスは居残りだ。


「ルオ、元気でな」

「うん! 父様もね!」

 父様が見えなくなるまで見送った。


 ◇◆◇


「あ。ルオ、雪だ」

 実技棟に向かう渡り廊下の途中から降りだした雪が見えた。こっちの雪は粒が大きいな。

「ほんとだ」

 手に取ってみると、湿った雪で、すぐ解けた。

「もうすぐ冬期休暇だからなあ」

 タビーがしみじみと言っていた。

「王宮に行かないといけないんだったよね」

「ああ」

 二人ではあとため息を吐いた。着ていく服がないなと思っていたら服が届いた。

 サイズがぴったりだった。王家の情報網も凄いな。

「服まで用意されて、逃がさないって言われてるようで怖い」

 タビーが怯えていた。

 更衣室で着替えて教室に行くと師匠が待っていた。手には紙の束。


「さて、今季の成績表を配る。取得単位が少ないものは冬期休暇明けに相談に乗るからあまり気にするな。その代わり相談もしに来ない者のことは知らないからそのつもりでな」

 救済が欲しい人は相談に行くんだな。俺はどうなんだろう。この成績。そこそこできてるって思いたい。

 今日が中級魔法の実技最後の授業なので、課題が出た。

 冬期休暇中の課題は魔法陣を覚えることだった。付与魔法に必要な魔法陣だった。

「試験をするから必ずやってこい」

 悲鳴が上がった。悲鳴を上げた生徒の方を師匠は一瞥すると、ニヤリと師匠は笑う。怖い!

「落第したいというのならしなくていいぞ」

 みんな真っ青になった。師匠はやると言ったらやる人だからな。


「うちに来た時に課題する?」

 タビーとルーンは激しく頷いていた。その横でアリファーンは少し寂しげな眼をしていた。

 アリファーンも好きで王子様に生まれたわけでもないしな。

「アリファーン殿下、お茶会は殿下も来るんでしょう?」

「ああ。呼ばれている」

「よろしくね! 初めて行くからマナーが違ってたらこっそり教えて」

「もちろんだ!」

「わ、私もお願いします!」

「俺も! というか不安しかない!」

 タビーの目が本気だ。

 アリファーンがふっと笑った。

「わかった。冬期休暇まで短い間だが、マナーの復習をしよう」

「ありがとう!」

「た、助かります!」

「恩に着る!」

 みんなマナーは苦戦してたんだね。俺も含めて。

 アリファーンは屈託のない笑顔を見せた。

 それからマナーの集中講義をアリファーンから受け、一週間もすると最後の登院日になった。


「じゃあ、次はうちに遊びに来る日かな」

「楽しみにしてる」

 タビーと別れて馬車に乗った。

 屋敷に戻る間に雪が降ってきた。


 明日から休みだ! やっとガラスに本腰を入れられる!

 空は雪空だったけれど、俺の心は快晴だった。

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