第155話 侯爵令嬢の来襲

(主、大丈夫? お疲れ?)

「ラヴァ、だいじょうーぶ」

(声が弱々しいよ~!)

「う~ん、久しぶりにポーション瓶錬成とかたくさんしたからかなあ?」

(いっぱい作った!)

「うん! ラヴァが励ましてくれたからだよ」

(むふー!)

 ラヴァの頭を撫でるとラヴァが鼻息荒く嬉しそうな顔をした。癒される。


 これからのスケジュールを整理しよう。

 1.中級魔法の実技試験

 2.ポーション作り(毎日)

 3.ハンスへの技術供与(お休みの日)

 4.家族への誕生日プレゼント作製

 5.切子の機械の試運転

 6.バーナーの確認

 7.冬休みに遊びに来るタビーとルーンへの対応


 あと何かあったっけ? あ、日々の予習復習と鍛錬が抜けてる。

 マナーやダンスや乗馬も試験があるはず。

 一つ一つがんばって達成していこう。今夜はもう寝る!

 ラヴァがご褒美とか言っていた気がする。朝までぐっすりだったけど。

 それからは毎日があっという間だった。


 そして迎えた試験日。


「風の結界!」

 結局一番練度の高い魔法と言ったらこれしかなかった。中級魔法に分類されてたよ! 母!


「よし! いいぞ」

 師匠の言葉に結界を解除した。

「次! テイバート・トレメイン」

 タビーが魔法を見せる番だ。

「土の槍」

 地面から杭のように土の槍が飛び出た。防御系が多いタビーにしては攻撃的な魔法を選んだなあ。

「よし! いいぞ。次!」

 師匠が次の生徒を呼んだ。タビーは俺の方に戻ってきた。

「お疲れ」

「おう。なんとかできてよかった」

「攻撃魔法だったね」

「ああ。もちろん防御系が得意なんだけど、合同演習で魔物とやり合ったじゃないか。攻撃魔法も大事だなと思って練習してたんだ」

「なるほど」

「ルオもあの結界、めちゃくちゃな精度じゃないか」

「あれで雪から身を護って雪を溶かし続けたんだ……」

「おい、大丈夫か? 目に光がなくなったぞ」

 肩をタビーに揺さぶられた俺の心にはあの冬の光景がフラッシュバックしていた。

 ちなみにアリファーンは火属性魔法の「火の槍」、ルーンは風属性魔法の「風の槍」だった。

 槍系は中級魔法、ボール系は初級魔法だ。

 盾は初級。それから中級魔法の結界を覚えて、傘型の盾からドーム型の結界へ進化した時は本当に嬉しかった。

 寒くないんだ! 断熱効果があるんだよ! 結界万歳!


「よし、これで試験は終了だ。次の講義に結果を渡す。では解散!」

 タビー、アリファーン、ルーンと一緒に更衣室に向かう。

「冬の休暇はどう過ごすの?」

 アリファーンが聞いてきた。

「僕は予習復習に錬金術とガラス」

「俺も課題を片付けて予習と、鍛錬するくらいかな? あとルオの屋敷に遊びに行くことになっている」

「そうだ、日程を調整しないとね」

「わ、私も予習復習と、里の人達と社交、それからルオの家に遊びに!」

「そうか……私もルオの家に遊びに行きたいが、大事になってしまうからな……できればみんなに王宮に遊びに来て欲しい。母がお茶会を開くから招待したらどうだって言われていて……」

 俺達三人は真っ青になった。

「あ……あーそんなに身構えなくていい。プライベートな感じで、ドレスコードもカジュアルでいいから……とりあえず、母がその気になっていて、申し訳ないけれど、招待状を送らせて欲しい」

 俺たちはお互い顔を見合わせて頷いた。

 アリファーンがほっとした顔をした。


 その翌日、お昼に侯爵家の俺の一つ上の令嬢が来た。確か長女の……ええと、名前なんだったかな? ああ、エレーヌだった。エレーヌ・デュシス侯爵令嬢。

「フルオライト・ルヴェールはいるかしら?」

 教室に残っていた生徒がみんな俺を見た。

「タビー先に食堂に行っていて」

「わかった」

 タビーは頷いて立ち上がる。令嬢がいるのと反対の扉から出ていった。

「フルオライト・ルヴェールです。先輩、何か御用ですか?」

「用があるから来たのよ。サロンにいらっしゃい」

 令嬢は俺の返事を待たずに歩き出した。後ろにいた女の子がついて来いというようなそぶりをした。

 俺は仕方ないのでついていった。


 サロンの一室に連れてこられた俺はソファーを勧められて座った。

 テーブルを挟んで、令嬢。その後ろにさっきの女の子。

 取り巻きかな?

 お茶と軽食が出されて勧められて手を付けた。

「ルヴェール君、貴方、第二王子殿下につくのかしら?」

 いきなり言われて俺は紅茶を噴き出しそうになった。

「はい?」

「貴方、第二王子殿下と親しくしているんですってね」

「はあ。同じ講義を受けてるんでそれなりに話しますよ」

「お昼も一緒に取ってるそうね」

「まあ、同じ講義を受けてるのでそれなりに親しくはなりますね」

「お兄様が第一王子殿下の側近候補なのを知らないのかしら?」

「初耳です」

「それでは仕方ないかしら。貴方が入ってきたのは卒業してしまった後だし」

 なにが言いたいのかわかるようなわからないような。

 俺が聞いてるのは西の侯爵派閥は中立ってことなんだけれど、違うのかな?


「わかるわね。第二王子殿下とはそれなりにお付きあいしなさい」

 なにがわかるわねなんだろう?

 これは、第二王子殿下と距離を取れっていう、迂遠な言い回しなのか?

「そうですね。それなりに、付き合います」

「わかったならいいの。もう行きなさい」

 手で犬を追い払うような仕草をした令嬢に、失礼しますと言ってサロンを出た。


 なんだかなあ? ちょっと頭に来たからに、アリファーンと付き合ってやろうじゃないか!

 とりあえず帰ったら師匠に報告だ!

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