第154話 時間が足りない

「どうした。なんか疲れた顔してるな?」

「師匠に課題を出されちゃって。やりたいこといっぱいあるのにな~」

 クラスの席でため息を吐いているとタビーが席に着くなり聞いてきた。そんな疲れた顔してたかな?

「そりゃあ、弟子なんだからいくらでも仕事させるだろうよ。そもそも普通の見習いは一日中息をつく間もなく仕事してるはずだろ?」

 あ、そうかも。祝福の儀を終えた子供たちはいろんな場所で見習いの仕事に就く。朝から晩までいろんな仕事をさせられるんだろうな。

 俺は勉強とか、魔法の修行とか、ガラスとか、ガラスとか(大事なことなので二度言いました)あるから、錬金術師の仕事をあんまり覚えてない気がする。錬金術師の基本はポーションでポーション作製とポーション瓶の錬成ばかりやってる気がする。

 あ、でも加工とかのスキルは熟練度が上がるっていうか、使いこなすといろいろできるようになるのは面白い。


「そうだった。普通は侍従のようについて回って雑用とかするんだよね」

 そう言えばマジックバッグ作れるようになれって言ってたな。時空間属性がないと作れないって。もしかして、時間と空間の概念をちゃんと理解できることが条件なのかな?

 時空間属性を持っているのはそれが理解できる人にしか発現しないとか?

「そうだよ。雑用しながら技術を覚えて仕事ができるようになるんじゃないか?」

「そうだよね。でも師匠すっごく忙しそうなんだよね。今」

「いや、ずっと忙しいんじゃないのか?」

「あ、そうだった」

 気が付くと執務室の机の上に大量の書類が置かれてるからなあ。

「課題くらい頑張れよ」

「うん。そうだね」

 確かに。終わってからガラスだな。


 今日の実技は中級魔法だった。

 Aクラスの二人がまだケガから回復していないので欠席中だ。なので人数が少ない。そろそろ、初級から上がってくると思うんだけど。


「タビー、ルオ、こんにちは」

「こ、こんにちは……」

 アリファーンとルーンが俺たちに気付いて近付いてきた。

 今日はお昼は別だったから今日初めて会う。

「こんにちは。アリファーン殿下、ルーン」

「こんにちは。久し振りだな」

 タビーも挨拶を返した。

 アリファーンは公務があってしばらく学院を休んでいた。

 ルーンもエルフの里関係で休んでいたらしい。

「もう冬だね。毎日寒くなってきているのが身に染みてわかるよ」

 アリファーンの言葉にみんなが頷く。

「んー、でもまだあったかい方だと思うよ? ルヴェールはもっと寒いから」

「ああ、大雪降るんだっけ」

 タビーが気が付いたように言った。

「うん。一階分は降るね。身長の上だよ」

「へえ、それは凄いな。見てみたい」

「う、うちの里は北の方なんだけれど、もう少し雪は少ないかな? 海の風が吹くせいかもしれない」

「王都はあったかいってことだね?」

 俺はまとめた。もうそろそろ師匠がやってくる時間だからだ。

「あ、ヴァンデラー先生が来た」

 ルーンが気付いて扉の方を見た。


「みんな集まってるな。来週試験をする」

 えーっと一斉に声が上がる。

「実技科目も休み前に試験があるのは始めからわかっているだろう? 何のために年間スケジュール表を渡していると思っている」

 そう師匠が言うと静かになった。

「得意属性で中級の魔法を使って見せてくれ。それだけだ。補助でも攻撃でも何でもいいぞ。では今日の実技だが……」

 それからみっちり授業でみんな扱かれてその日の実技は終わった。


 得意属性か……風魔法か土魔法だな。時空間属性ってあまり使ったことが……あ、インベントリは時空間属性だった。

「俺は土魔法一択だな」

「僕は風属性だね」

「サンドブラストじゃないんだ?」

 タビーがからかうように言う。

「あれは生活魔法だから……他のも極めないとダメみたいだし」

「……生活魔法? ともかく魔法の練習は学院に実技棟の教室の使用許可を取らないとダメなんだよな」

「じゃあ、放課後に申請して練習する?」

 タビーと話していたら、ルーンも参加することになった。アリファーンは放課後は時間が取れないんだそうだ。王宮の鍛錬場で練習すると言っていた。

 来週まで、放課後が潰れる。ポーション作製は必須だ。そうするとガラスに手は出せない。

 ガラスを教えるのは休日しかできないな。その頃にはバーナーも出来てるんだろうか。

 切子ができる機械もまだ試してない。


 ああ! 時間が足りない!

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