第152話 ハンス頑張る(二)
「どういう風にしたいんだ?」
「ええとね? 任意で炎の温度を変えたいんだ」
「炎の温度?」
「温度によってガラスの溶け方が変わるんだ。だから炎の温度を変えてガラスに模様を作ったり、溶かして丸くしたりしたいんだ」
「んー? それはやったことがあるんだな? 道具なしでも」
「僕には相棒がいるから」
ドワーフさんたちには知られているから、ラヴァの両脇を抱いて差し出して見せた。だらんと下がった尻尾がキュートだ。
「おお! そう言えばそうだった!」
またわらわらと囲まれた。
「お前たち。何度やれば気が済むんだ」
師匠が間に入った。
「あーすまんな。作業をしているところを見せてくれるとありがたい」
「作るところ? んー、今作業場はハンスが使ってるんだよね」
「いいんじゃないか。ハンスには誓約をしてもらっているし『火トカゲ』が炎を吐くのは普通だろう」
「そうなの? いいの?」
思わず師匠を見ると頷いた。
「仕方ないだろう」
遠くを見ている師匠の目に俺はそっと視線を逸らした。
一時的にドワーフさんたちに許可を与えてぞろぞろと工房に入る。
たまたま出てきたチャロがぎょっとして後ずさった。
気持ちはわからないでもない。
バーナーのある細工用の部屋に向かう。ノックをするとハンスの声が……しない。
「あれ?」
振り返って師匠を見た。師匠がもう一度ノックをするが、返事が返ってこない。
仕方ないので扉を開けることにした。
「ハンス、入るよ~」
扉を開けると熱気を感じた。作業台に向かっているハンスの背が緊張しているのがわかる。ガラスの精霊が彼の周りを回っていた。
作業台の上には散らばっている沢山のペン先。
集中しているのだろう。多分ノックの音は聞こえてなかった。
「ハンス」
師匠がハンスに声をかける。まだ気づかない。
俺はそっと彼に近づき、手元を見た。
ハンスの手がゆっくりと慎重にペン先を細く伸ばしていく。伸ばしきったところを工具で切った。
ハンスが詰めた息をほうっと吐いた。
「ハンス。お疲れ」
ハンスの肩がビクリと跳ねて俺の方を見た。手元のバーナーの火を消して材料とできたペン先をそっと置く。
「ルオ様! もしかして、ノックを……」
「うん。したよ」
ハンスがビクリとまた震えて恐る恐る扉の方を見た。
「ヒィ!」
師匠を筆頭にずらりとドワーフ工房の皆さんが並んでいるのを見て、悲鳴を上げた。
青くなったり白くなったりしたハンスが落ち着くのを待ちつつ、ドワーフさんたちに説明していく。
「このバーナーで出た火にガラス棒を炙って溶かしながら、成型をするんだ。でも、温度を変えるのが難しくて、困ってるんだ」
俺は防護のゴーグルとエプロンをつけて、作業台の前に座る。
どうしよう。見本と言ってもなあ。そうだ。ハンスに一本見本を作るのはどうだろう。
だったら、最初に作った透明なのでいいか。炎の温度が重要だっていうのもわかるだろうし。
「じゃあ、一本作るから見ていて」
(ラヴァ、お願い)
(まかせて!)
俺はガラス棒を持って、ラヴァと協力してハンスに見せるための一本を作り始めた。
ガラスに当たってオレンジの炎が上がる。
ラヴァと俺は繋がっているのである程度お互いの気持ちがわかる。
だから、以心伝心というもので、ラヴァは温度の調節をしてくれる。
前世にあった酸素バーナーよりも的確だ。
ラヴァの火で焙ったガラスが溶けていく。それに合わせてガラス棒を動かして波の模様を描いていく。
炎の温度に差をつけて、模様を刻んでいくのだ。
最初に作ったガラスペンよりも少し細身だ。最後にペン先を作って繋ぎ、調整する。
冷えたら出来上がりだ。
「こんな感じだけど……って、どうしたのみんな!?」
ハンスは震えてるし、ドワーフさんたちは涙しているし、師匠は……苦笑してるね。
「すげえ、こんなすごい光景は初めてだ」
「まさに精霊の火」
「火の精霊の神聖な火だ」
「ありがてえ」
あ、そうか、火の精霊はドワーフたちにとって一番崇める対象なんだっけ。
ハンスは、出来上がったガラスペンを食い入るように見てる。
ガラスの精霊はガラスペンの周りをくるくると嬉しそうに飛び回っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます