第150話 父とハンスがやってきた!
そして休みの朝、思ったより早く起きた俺は日課の鍛錬を済ませて朝食に向かった。
(主、楽しそう)
「これからガラスだからね~ラヴァにもまた頑張ってもらいたいんだ」
(僕頑張る!)
「ありがとう! 頼もしいな」
(頼もしい?)
嬉しそうにラヴァは肩を行ったり来たりした。
「俺はここで見ているから自由にやってくれ」
師匠は邪魔にならない、俺の手元が見えるところに椅子を持ってきて、座った。
必要ないと思ったけれど、一応師匠にも、エプロンとゴーグルはつけてもらった。
まずはギードのかな?
ギードは真面目で文官向き。領主になる予定だから人前でサインとかするよね。若干、押しが弱そうに見えるけど、リーダーシップをとれるし、人に教えるのもうまい。
ペンと軸の間に黒い球。それを取り巻く赤い線を何本か。軸は根元から先端にかけて細くしていく。
軸に波の模様を入れて軸の色は夕焼けの色。藍から先端にかけて夕日色になる。いちばん先端は透明。
ギードの髪と目の色に近い色になったかな?
カリーヌは光属性だし、髪も金髪だからきらきらした女の子らしいのがいいかな?
時々漢らしいけど。
軸になるガラス棒に黄色にうっすらと染まっている玉をつける。これはフューミングで色を付けた硬質ガラス。軸は根元は太いけれど、ギードの物より一回り細い。根元は金にも見える透き通った黄色が先端に行くと透明になっていく。先端に行くほど細くなるけれど、そこに小さな飾り玉をつける。飾り玉はフューミングで花びらを模した白い模様が中に見える。つけたペン先は細字にした。
「できた! 師匠、こんな感じなんだけど……」
師匠が唸っている。
「わかった。要するに容易に炎の温度を変えられるようにするということか」
「そう! でも両手使うし、下手すると口でガラス吹くかもしれないし、足で調整できるといいかな?」
「足か……なんとかできるように考えてみよう。ジュロンでも呼ぶか……」
師匠はその場で手紙を書いて飛ばした。
「こっちがギードの、こっちがカリーヌに卒業祝いで贈るといいかなって思うんだけど、どうかな?」
「喜ばれると思うぞ。それまで、何とか他の職人が作って売れるようにしよう。ルオは……好きに作ってくれ。献上品はルオに作ってもらうつもりだったが……ハンスができるようになって作ってもらう方がいい気がしてきた」
「え? どうして?」
「なんとなくだ」
「でも、第二王子殿下には作るつもりなんだよ? 誕生日プレゼントに」
「そうだった……献上品より誕生日プレゼントが豪華だったら目も当てられない……」
師匠は頭を抱えた。え、そんな豪華には作らないつもりだけど、どうなのかな? その時にならないとわからないかな?
ガラスの精霊がくるくると作業場の中を飛び回っていた。
それから二週間くらいあと、父とハンスがやってきた。
「それで、ルオがやら……じゃない。作ったというガラスペンというのはどんなものなんだ?」
やらかしたって言った! 俺はやらかしてなんかいないのに!
「これです」
師匠が師匠のガラスペンを見せた。
「これは……」
父とハンスの目がガラスペンに釘付けになる。
ふふ、凄いでしょ!
胸を張ったら師匠がジト目で見てきた。
「ルオは、第二王子殿下と同級で、今親しくしているので、来年の殿下の誕生日にはガラスペンを贈りたいと言って……」
父がものすごい勢いで俺に顔を向けた。
「それはまずい……一緒に献上しないとまずい」
「ルオの作るガラスペンは同じものがないんです」
最初に作ったガラスペン、ギードとカリーヌのペンを並べて見せた。
「素晴らしいです……私も作りたいです……」
ハンスが、ガラスペンを食い入るように見ていった。
「これはペンで、字が書ける。それも大事だ」
師匠がそう言って自分のペンで和紙に字を書く。
「もっとも、インクは羊皮紙用のインクで、ちょっと発色が悪いんです。ルオはルヴェール染めの染料をインクにできないかと言っていました」
「インクか……」
師匠が俺を見るから頷いた。父が顎に手をやり唸った。
「ルオ様、私にガラスペンのつくり方を教えてはいただけませんか?」
「うん。それはもちろん。とりあえずペン先だけならそんなに時間がかからないと思うよ」
「ありがとうございます」
ハンスがめちゃくちゃやる気になっていた。きっと何かがハンスの職人魂に火を着けたんだろうと思う。
ガラス工芸作家が増えるのは大歓迎だ!
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